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エッセイ|バスで寝過ごした話〜貸切バスで行く小旅行〜

今日は、明け方までずっと小説を書いていた。文学研究会の文芸誌に寄稿するものを書いていた。本当は、昨日が締め切りなのに、徹夜して今日の朝まで書いていた。

もっと計画的に書いていけば、こんなふうに直前で苦しい思いをしなくて済むのに、どうしたことか直前にならないと、構想がまとまらない。

なんとか小説を書き終えて、午前8時すぎくらいにふらふらになりながら家を出た。今日は9時から授業がある。すでにこの時間に家を出たら遅刻は決定だ。慌ただしく、いやな気持ちで電車に乗った。

少し電車の中でやろうと思っていたことがあったけれど、眠気に襲われて、いつの間にか眠っていた。目が覚めたら、乗り換えをする駅を完全に過ぎてしまっている。さいあくだ。

なんとか、大学の最寄駅にたどり着き、ここからはバスに乗り換えた。すでに40分くらい遅刻している。

窓際の席で和やかな朝日に照らされる田園風景を見ていると、またうとうとしてしまった。

目を覚ました時には、すでにバスは終点についていた。

ああ!ばか!(おれが)

運転手さんに降車をうながされたので、相談することにした。バスの終点から大学に行く方法を聞いた。

「う〜ん、そうだねえ。ここから大学に行く次のバスは11時半になるね…」

「ちょっとそれは困ります…」

「そんなこと言われてもねえ」

ここから大学に行くためには、1時間以上待ってバスに乗るか、1時間以上かけて歩いて行くしかないらしかった。僕は、ため息をついた。

「なら、バスの車庫まで行きますか?そこまで行ったら、10時半には大学行きのバスに乗れるよ」

ええええ、それは願ってもない話。ぼんやりとした頭でも、運転手さんの優しさが沁みた。

「いいんですか。ありがとうございます」

僕は深く頭を下げた。また、懲りもせず日当たりの良い窓際の席に座った。バスの運賃表示をするモニターが、回送運転に切り替わった。

これって今、バス貸切状態じゃん!

僕は胸が躍った。バスはゆっくりと山間の道を進んでいく。

狭い登り坂を登り切ると、開けた駐車場があって、そこにたくさんの紅白色のバスが並んでいた。なんだか、かまぼこみたいだ。

「10時半に出発するから、それまで少し待ってて」

バスの運転手さんが言った。優しい目をしている。

僕は、その広い駐車場のはじにあるベンチに座って、ぼんやりと景色を眺めていた。

背中が黒で、お腹が白い、スズメより一回り大きいくらいの鳥が僕の足元にやってきた。よく見ていると、歩き方がダンスのステップを踏んでいるみたいで可愛らしい。ゆっくりと首を前後に振っていたかと思うと、タ、タ、タ、と細かく足を動かして地面を走っていく。いたずらを仕掛けた子供みたいだ。

鳥は、しばらく僕の足元で駆け回った後、羽を広げて飛んでいった。羽は、扇子のような形をしていて、優雅だった。

運転手さんが遠くから手招きをした。僕はバスに乗った。駐車場の周りには、たくさんコスモスが咲いていた。それがとても綺麗だった。

計画を立ててする旅行もいいけれど、こんなふうに小さな喜びを見つけられたら、十分旅行と言えるかもしれないな、と思った。大学には、1時間半も遅刻したけれど、たまにはこんな日があってもいいかもしれない。

写真→snafu_2020さん



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