見出し画像

カルチャープレナーを育てるエコシステムとは?──TeaRoom岩本宗涼×CPC佐宗邦威 #2

日本の文化的資源を用いて、または文化を事業課題として新たな価値を生み出す「カルチャープレナー(文化起業家)」たち。一般社団法人カルチャープレナーコレクティブズ(以下CPCと略)はこの新しい起業家の形をコミュニティを作りながら、カルチャープレナーというコンセプトの研究開発・リサーチを行っていきます。

今回の記事は、株式会社TeaRoom代表の岩本涼さんと、戦略デザインファーム・BIOTOPEの代表でありCPC発起人の一人で理事でもある佐宗邦威による対談インタビューの第2回目は、カルチャープレナー育成に必要な社会のエコシステムについて議論しました。

第1回目はこちらをご覧ください。


TeaRoomが目指す文化事業のエコシステムとは?


佐宗:第2回目は、カルチャープレナーを育てていくために必要な社会のエコシステムとは?というテーマに沿ってお話していきましょう。TeaRoomは、多様なプレイヤーが増えるフェーズだと思います。起業家として、今までできたと感じること、今後課題になりそうと感じていることを教えていただけますか?

 岩本:第1回の記事で詳細をお伝えした通り、私たちが目指しているのはお茶による産業と文化の対立をなくすことです。そのためには、産業ごとに独立採算制をとる現在の社会構造から、すべての産業がつながり、その顧客をシェアしながら、それぞれ違ったアプローチ×思想を共有する社会全体のソリューション開発が求められます。お茶の会社だけがお茶の産業を支えるのではなく、社会全体がお茶の産業を支えるというものです。
  
TeaRoomでは、日本茶を「日本茶」マーケットの中だけで取り扱うのではなく、ノンアルコールや嗜好品などの飲料というカテゴリーに昇華して日本茶を提供するようなエコシステム(共創の仕組み)を開拓しています。プロダクトだけではなく、時間を過ごす手段としてお茶を提供しているので、まったく質の異なるものです。

日本茶カテゴリーだけの場合は、日本茶生産者→日本茶商社→お茶屋さんという取引でしたが、例えばホテルで日本的な体験を作りたいから日本茶を扱う、というマーケットになったり、ノンアルコールティーとして夜に飲むお茶を提案してみたり・・といった形です。

このようにマーケットを捉えると、関わる会社が全く異なっていきます。お茶屋さんが日本茶を提供しているだけでは得られない情報があり、ノンアルコールでは酒蔵、うまみでは大手食品メーカー、休息では消費財メーカー…etcといった、社会全体の様々な専門分野・技術をもったプレイヤーとともに協業しています。

TeaRoom代表 岩本涼(茶名:宗涼)

また、有形資産であるお茶だけを提供するのではなく、無形資産を提供している点も非常に大きな違いです。無形資産=思想を生むためのソリューションなので、空間構造や消費者の行動様式の定義が必要になる。空間とともに地域文化や独自の文化を発生させているデベロッパーと組む機会が増加しています。

カルチャープレナーという文脈でいくと、どの企業も文化を共有しているので、その文化に茶の湯の思想をベースにソリューションを提案していきたいです。

今後の課題感としては、社会の文脈に乗せることが非常に難しい点です。
社会全体で文化について考える機会が少ないために、アウトプットの形が想像しづらく、文化を事業に組み込むこと自体が難しい。また、文化と聞くと伝統文化としてとらえられてしまい、その範疇を出ないからです。

カルチャープレナーが育つエコシステムに必要なもの


 佐宗:今の例をさらに具体的に話していきたいのですが、例えばTeaRoomの場合、お茶の産地を承継して自分たちで作れる事業もあるし、お茶の価値を企業に提案していくようなプランナーのような人材まで幅広いですよね。お茶の価値を高めるために、どんなプレイヤーを揃えていますか?

岩本:事業開発、PL面が見られる人が必要です。TeaRoomにおいては、プロジェクトマネージャー、対象業界に深い知見のある担当者、文化資本的な発想ができるプレイヤー、などといった役割を持ったメンバーがいます。 

佐宗:文化資本的な発想ができるプレイヤーというのはプロデューサーに近いイメージでしょうか?

岩本: そうですね。転職してきてくれるいまの仲間たちの中には、金融などを扱って仕事をしてきた方も多くいます。クライアントの会社に眠っている文化はなんなのかを一緒に考えて(「象徴化」)プロジェクト化していく。このビジネスモデル自体のコンセプトはコンサルティング会社にも共通する部分があります。文化資本という言葉を使いながら、コンサルティングや、プロデュース、教育といった幅広い関わり方を行っています。わかりやすく言えば、教育業が1番近いかもしれないです。
 
佐宗:今のお話は、お茶のプロダクトを販売している事業とは違う側面のお話ですよね。実際にプロダクトであるお茶を作る事業ではどんなプレイヤーが存在しているんですか?

岩本:傘下に持つ農業法人では、製造のスペシャリスト、研究開発、品質管理、あとは共創パートナー。社内にお茶の商品企画をする人もいますが、営業担当が製造の現場にも立つことで、その部分も兼ねて担当しています。

佐宗:一次産業だけでなく、プロダクトと教育が混ざっているのがポートフォリオとして面白い構成ですよね。ここに、文化を事業にして価値に変えるための示唆がある気がします。文化のDNAを押さえながら高付加価値する事業というのは、最初からその仕組みを狙ったのですか?それともだんだんそうなっていったのでしょうか?

岩本:初めからこの体制を作りました。お茶産業のみでは赤字になってしまう部分もあるため、業界外の社会から調達しなければならない。お金がある領域にお茶の文化に価値を感じてもらい、投資してもらえれば産業が残ると考えました。お茶をお茶として捉えているだけではアセットもネットワークも育たないので、最もいいエコシステムを構築し、そのクライアントから得られる資金を文化に投資することでさらに産業が育つように……と考えました。エコシステムの形成と技術探求、モノづくり、営業開拓、プロデュース業を一致させました。

農業って実際に実体験してみると、本当にコストが多くかかります。大きな資金を出すタイミングでみんな引いていってしまうこともある。エコシステムを考えなければ成り立たないと考えました。

例えば、ノンアルコールの商材を作りたい酒蔵と提携する。日本酒の麹などと日本茶をかけ合わせた商品を作ると、彼らと一緒に販売することができる。要するに、流通の部分も共創ができる。

どうやれば、最も良い形でノンアルコール、嗜好品のカテゴリーで茶業界に技術が蓄積されるのかを考えたときに、業務連携をしながら新たなプロダクトを開発していくことが1番理にかなっていると考えました。
 
佐宗:今の話は、大企業の研究開発費・イノベーション費を発注してもらうことで、裏を返せば日本茶業界に投資を呼び込んでいる活動であるということですね。そうやって自分たちが持っている文化資本を掛け算して新しい価値にすることで、投資をしてもらう(正確には発注してもらう)。そうすると、文化×イノベーションを仕込める人が必要になりますよね。そういう人材はかなり少ないと思うのですが、どうやって教育していますか?
 
岩本:おっしゃる通り、かなりハードルが高いスキルです。社内でもディレクション人材となると数えるほどです。

現状は、創業から一緒にやっているメンバーが主力ではあります。新たに仲間になっていただく方でもコンサルティングファーム出身の人などは、文化資本のマーケットが大きいことはすぐ理解してくれるので、入社からすぐにディレクション側に回る人も出てきています。
 
佐宗:文化資本に対する考え方は、どうやって伝えるのですか?
 
岩本:お茶会に月に一回は参加してもらいます。お茶会をすると、お茶を中心に衣食住を考えるようにマインドに変化が起きます。すると、”これってなんだっけ?”という問いが生まれ、文化×生活・ソリューションを考えるようになっていきます。

千利休のビジネスモデルが参考になるのですが、彼はお茶を中心とした体験を作り、着物や茶器などを販売していました。このように、単発ではなく総流通量を上げるという目線で文化事業を捉え、総合的な体験を作る。その結果、社会とのタッチポイントが増え、GMVが上がっていくと信じています。

※茶会の風景 イメージ図

カルチャープレナーを支える「ファンド」とは?

佐宗:文化の象徴的な体験をすることでマインドが変わり、総流通量をあげるという目線に変わっていくのが面白いですね。実際に、ビジネスを立ち上げていくには、まず資金調達が必要ですよね。前回のインタビューでも少し触れましたが、どんなプレイヤーが文化起業家に投資し得るのでしょうか?また、どんな投資が最適なのでしょうか?

CPC発起人兼理事/共創型戦略デザインファームBIOTOPE代表CEO:佐宗邦威

岩本:関わるプレイヤーが多いので資本業務提携がわかりやすいですが、発注という形でも良いです。それも、お金のある業界から発注してもらうように働きかける必要があります。

僕らも文化投資家にお会いしましたが、文化投資をしている担い手たちも、調べれば調べるほど、昔から文化に投資してきたことで有名な人が自己破産する現状もあります。投資家の方からは、新しいエコシステムを理解して、別産業のどこにお金があって、俯瞰的に接着できる業界を教えてくださるとありがたいですね。
 
佐宗:なるほど。現代において、パトロンになり得る方はいらっしゃいますか?
 
岩本:さまざまな財団や、尊敬している、孫泰藏さんをはじめとした投資家の方々ではと考えています。
 
佐宗:地方の有力な豪族系はどうですか?
 
岩本:不動産などの資産が多く、投資に必要な現預金は多く持っていない印象ですね。海賊と呼ばれた男みたいに、家を売って投資してくれる”おやじ”はなかなか現れないですね。笑
 
佐宗:今後、どんなプレイヤーが入ってくると良いと思われますか?

岩本:フィランソロピー系のお金が入ってくると良いですよね。
また、日系アメリカ人で、自身のアイデンティティに関わる日本の文化に興味関心をもち、投資する人にもチャンスがありそうです。

大企業も、エコシステムを作るための予算を取れるように働きかけていきたいです。例えばですが、最初はほぼ寄付のようになってしまいますが、中長期的に投資をすれば、ベンチャー企業の持つ情報を獲得できます。そうやって優秀なベンチャー企業とのつながりを作り、その企業に取り込めることが大企業からするとリターンとして大きいはず。彼らがアクセスできない情報を得られることが何よりの価値になります。
 
佐宗:この分野で予算取りをしないか?と提案してみるのもいいかもしれませんね。
 
岩本:産業がライフスタイル化していくなかで、一次情報にアクセスできない危機感を伝えることも一つの手法だと思います。
業界のトップを走るそれぞれのスタートアップに投資するだけで、全産業の一次情報が得られるエコシステムができる。大企業のリサーチとしては難しい投資ではないはずです。
また、ESGやSDGsといった社会的な文脈の中に文化という言葉を適切に乗せていくことも重要だと考えています。
 
佐宗:僕が協働している京都市の方との議論では、カルチャープレナーの聖地になる、を掲げている京都市において”ESG+C(Culture)”という考え方を作って発信していきたいというお話をされていました。企業に、社会事業的なお金を出す動機付けの一環で文化が入ってくるという手もあるのではないかと思います。
 
岩本:その際に、京都=伝統文化というイメージになりがちなので、伝統文化だけの文脈にならないように注意が必要ですね。
 
佐宗:そうですね。むしろ、新しい文化への投資、という形になると良いですね。一般的に、資金調達のメイン先であるベンチャーキャピタルなどは投資家としていかがですか?
 
岩本:TeaRoomでは、農業分野や地方の銀行の方々とお話しする機会はあります。CVCなども神山まるごと高専みたいな事例であれば、よいかもしれないですね。
 
佐宗:信金や個人の私募貸付のほうがプレッシャーがなく経営の自由度も高くなるので良いという話もありますが、いかがでしょうか。
 
岩本:信用力があるならデットファイナンスはいいですよね。ただ、何を始めるにも元手となるお金が必要です。でも最初は信用力がないから調達できないジレンマがあります。また、経営においてもエコシステムを作ることの出来る座組みを整える必要があります。

インキュベーションに必要なものとは?

佐宗:次に、インキュベーションの話に移っていきたいと思います。文化がテーマのインキュベーションを作るとしたら、既存のものでは難しいですか?
 
岩本:求められるKPIが違うので、別物にしないと難しいと思います。存在しない事業モデルを作ろうとしているのに、既存のモデルを押し付けるというのは、一番やってはならないことです。

インキュベーションにするなら、ベーシックインカムみたいな話になるかと。例えば、年1000万円ずつ3年間もらえる、みたいなイメージです。
文化事業って、最終的には一人の大富豪が支持した瞬間に勝ちが決まるゲームのようなところがあると思います。
インキュベーションは、その道筋が見つかるまでを支えるイメージです。
最初に事業領域を見極める前にエクイティを入れて点で攻めていっても、一点突破では文化はできません。単なるプロダクトサービスを作って終わるのではもったいないです。
 
佐宗:文化事業を手掛ける企業って、案外、原価計算や損益分岐点など、基本的なことができていない会社が多いイメージで、そこにインキュベーションが入る余地があるのかと思っていましたが、いかがでしょうか。
 
岩本:ベンチャー企業ではあまり気にしなくていいかもしれません。ベンチャー系は巨大なゴールを目指しています。文化資本で社会を変革する・価値観のパラダイムシフトを目指すのであれば、業界構造や利益構造を変えられるモデルを見つけるまでやっていくべきです。
 
佐宗:インキュベーションをするにしても、既存のものと分けて考える必要があるのですね。カルチャープレナーに必要なことは、全くない事業を掛け合わせて考えたり、価値になっていないものを数字にしていくルールメイキングのほうが大切なのかも。
 
少し話は変わりますが、カルチャープレナーにとってのメンターはどんな人が良いのですか?
 
岩本:理念に対して純粋に、かつ、従順に問いを立ててくれる人が必要です。ベンチャー企業であれば、やはり、ホームランを打たなければいけない。私にとってのメンターの方は、理念に対してとことん従順になりなさい、探索をし続けなさい。求める解が見つかるまでは事業化する必要はない、諦めるなと話をしてくれる方です。ただの中小企業になるなと言い続けてくれています。

CPCが提言するカルチャープレナーのエコシステムとは?

佐宗:CPCとして、今後、文化事業に対して具体的に提言していきたいことはありますか?
 
岩本:SDGsやESGに文化の要素を加え、文化が投資対象になるということを示していくのは日本が率先してやるべきことだと考えています。文化=伝統文化ではなく、各企業が潜在的に持っているものを文化的な考えから掘り起こしていくもので、各企業がメセナ的に茶室を作ろうという話ではありません。
 
佐宗:岩本さんのお話しの中で重要なのは、文化資本=目に見えないアセットの掘り起こし、と捉えていることですね。例えば、どんな企業がどんなアクションを起こせば理想ですか?
 
岩本:例えば、日本の物流の破損率は海外と比べても非常に低い。その理由を深掘りすると、文化資本を考えることにつながります。アメリカなら作業員によって荷物がぐちゃぐちゃになることはよくありますし、あるメーカーが東南アジアに参入したら、製造ラインの内、その多くが破損したこともあったそうです。

極端な例ですが、ジャカルタの物流スタッフにお茶のお稽古を提供すれば、目の前のものをどう大切に扱うか、価値観を得る機会になる。つまり、日本の価値観が破損率を下げるためのソリューションになり得るのです。お茶の考え方・価値観が担い手の価値観を変える教育サービスになる
 
他の業界だったら、世界のホテル産業に対して、日本的な価値観を教育するなどもある。これも立派な象徴化です。日本にいると当たり前に感じてしまいますが、正常に動いているインフラをもう一回深掘りするべきだと思います。
 
佐宗:文化資本を非常に広い視点で捉えているのが特徴的ですね。まさに、福原正春さんのおっしゃる文化資本の経営で語られている文化資本の射程の広さですね。
 
岩本:カルチャープレナーの話でいくと、文化を作る=見えないものを顕在化・可視化することで、社会化・象徴化することです。

実は、タピオカ屋も当てはまります。タピオカとかパンケーキとか、永遠に新しいトレンド・時代の潮流を追って、象徴したアセットを使って確実に時代のニーズに合うアウトプットを象徴化して出し続けていく。流行が終わったときに、畳む会社もある中で、柔軟に形を変えて生き残り続ける企業もあります。これも広い視点でみた文化資本的な考え方に沿った経営だと感じます。

佐宗:タピオカ屋に文化が繋がっていくとは(笑)。本日も大変興味深い議論ができましたね。ありがとうございました。こちらでインタビューを終了します。

次回は、#3 日本のカルチャーが海外で価値になり、文化立国を実現するためには?を掲載いたします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?