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忘却された兄妹 6巻

中学最後の想い出づくりの修学旅行は正哉にとって、それはそれは楽しい時間をクラスの同級生達と過ごせるものであった。

修学旅行を終えてから正哉が言った。

「修学旅行めちゃめちゃ楽しかったわ。」

「そうやな楽しかったなぁ。」

「高校に進学したら、また修学旅行にいけるんかなぁ?」

「そんなことより正哉、そろそろ俺達も攻撃せなやられてまうぞ。」

こんな話をしているのは、クラスの同級生達と遊んでいる最中の会話である。

敵と味方に別れ、ロケット花火や爆竹を投げ込んで戦っているのだ。

そんな中、正哉がどこからともなく拾ってきた自転車にまたがり敵の同級生達に向って自転車を走らせた。

そんな正哉は大量のロケット花火や爆竹を敵の同級生達に投げ込んだ。

敵の同級生達から、「正哉、卑怯やぞ!」と怒号が飛んでいた。

味方の同級生達からは、「正哉、ええぞぉー」と歓声が湧いている。
獅子奮迅する正哉の姿に味方の同級生達の笑いを誘った。

ロケット花火と爆竹を全弾打ち尽くした正哉は、それでも自転車を敵に向かってどんどん加速させた。「うおりゃー」と正哉が雄叫びをあげると、その乗っていた自転車を敵の同級生に体当たりさせたのだ。

「痛いやんけ正哉、なにめちゃくちゃしてるねん。」

「いやぁー、ごめん、ごめん。」

「ごめんで済んだら警察いらんわ。」

敵の同級生達から非難と警告を受けた正哉は、敵の同級生に謝る素振りだけを見せ、味方の同級生達のもとへ戻ってきた。

「もう、ロケット花火はないんか?」

「ロケット花火はもうないぞ。」

「ほんなら爆竹は、まだあるん?」

「爆竹やったら、まだあるわ。」

「俺、もう一回突っ込んでくるわ。」

「もう、ええって!やりすぎや!それより正哉の服、穴があいてるぞ。」

「ほんまや、あいつらの花火が服に穴をあけよったんや!」

自転車で突撃した正哉は敵の同級生達から集中砲火を浴びていた。

こんな遊びをしている正哉の表情は笑う鬼神のようであった。

夕日が沈みかける頃、「俺、そろそろ帰るわ。」と同級生の一人が口に出した。

「ほんなら俺もそろそろ帰るわ。」

「えっ、もう皆帰るん?」

「いまから俺の家に遊びにおいで。」

同級生達が家路につくため帰ろうとしていた。

そんな同級生達に正哉だけが、まだ遊び足りないといった調子で同級生達を正哉の家に誘うのである。

「正哉の家、ダニがおるやろぉ。俺この前、正哉の家にあがったとき、めちゃめちゃかゆかったわ。それに遊んでばっかりおれんしな!勉強せなあかんねん。」
「かゆくなる?俺はかゆくならへんで。それと皆勉強するって高校にいくん?」

こんな同級生と正哉の会話で、ボクは以前から正哉の家にあがるたび体にかゆみを帯びる原因がダニであるのだと知った。

結局この日、誰も正哉の家に遊びにいく同級生はいなかった。

ダニがいるからではない。この頃から同級生達は受験勉強を始めていたからだ。
それはボクも同じだった。

「正哉、またな。俺も帰るわ。」

「それじゃ、俺も帰るわ。」

「あっ、それと正哉の妹、学校に連れてきたらええのに。学校やったら給食が食べれるんやから。」

なんの気なしの一言だった。

正哉は妹の話になると、先ほど遊んでいたときの笑顔が暗い表情へと変わった。

正哉との別れ際、ボクは小学生の頃、正哉がなぜ、正哉を馬鹿にする子供が集う遊び場に正哉が姿を表すのか?ザリガニが釣れる沼はどこにでもある。公園で遊びたいのなら公園はいくつもある。フナを釣りたければ用水路はどこにでもある。なのにどうして正哉を馬鹿にする子供達がいる場所に現れるのか。この頃ようやく気がついた。

正哉は皆と一緒に遊びたかったのだ。だから見よう見まねで子供が集う場所に姿を現し、その輪に入りたかったのだと。

それと以前、初めて見た正哉の妹である真希の異様な姿に、ボクはあれから真希のことが気がかりだった。

#不登校

不登校だった正哉があたり前に学校へ通う。友達ができる。普通であればなにも問題のないことである。しかし、兄の正哉が普通になればなるほど、妹の真希は家でひとりでいるのだから。そして世間との繋がりがより一層薄れていった。

※つづく

※『ひよこ』
※ノンフィクション

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