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247、泡

「金曜日で、さよならですね。お別れのことばを言い合って、さよならにしましょうか」
と言われました。
ぼくは、嫌です、と答えました。
「どうしてですか?」
とそのひとは、不思議なかおをして、聞いてきました。
「もう、会えなくなるのが嫌です」
と答えました。
自分でも、わがまま言ってるなあ、と思ってました。さよならは、さよならです。人生には、別れがつきもの。そんな、たびたび、別れを悲しがっていたら、身がもちません。
でも、さよならが、嫌だったんです。
「上のひとに許可をとっておきますね」
と、そのひとは、言いました。
これほど、ストレートに女性に気持ちを伝えたことが、いままであったでしょうか。
なかったです。
いつも、ぼくは、二の足を踏んで、気持ちをごまかしてました。
気持ちが伝わった。それだけで、安心しました。そのひとは、それ以上、なにも言わなかったです。
沈黙が、心地良かったです。
これほどまでに、女性と一緒にいて、心地いい沈黙があったでしょうか。

でも、どうしようもないことでした。もう、近い関係にはなってはだめ。最初から、決まってたんです。

世の中にいくら、逆らったところで、どうしょうもならない。そのひとは、世の中の動きに忠実でした。

ぼくは、そのひとを応援すべきか、考えました。そのひとは、自分の将来というものを見据えている。ただ、成長していくなかで、自分の夢を大切にしているひとでした。
ぼくは、きっと、そのひとを応援すべきなんでしょう。これ以上、邪魔したら、あのひとの将来が危うくなる。

こんど、また、どこかで会えたとしても、ぼくが、そのひとにどうこうするものでありません。愛のことばを伝えることも、言ってみれば、セクハラになってしまうでしょう。

悩みました。
ジャズを聴きまくっていました。
でも、答えが見えてこない。
ぼくもまた、世の中の動きに従わなければならない。
なにも、手につかなくなりました。やる気が起きません。

姉と、車に乗っていると、ラジオが鳴ってました。涙がこぼれそうになりました。
えーい!もう、泣いてやれ!泣いてしまって、スッキリしちまえ。
家に帰って、思い出の曲を聴きました。完全に泣いてしまいました。
泣いたって、なにも変わらない。わかっていましたが、泣きました。


これで、終わりです。別れは、涙で飾るもの。文字どおり、涙で飾りました。
だから、泣いたって、わめいたって、なにも変わらないんです。
そっと、そのひとのことを想い続けるしか。
それで、すべて、終わってしまったんです。
涙は、海へと流れ着き、やがて、ぼくも泡となって、あのひとの前から、消え失せることでしょう。
あのひとを、そんなことがあったこも忘れて、しあわせになってく。
ぼくの恋は、終わったのでした。

 雨が降っても、やんでも、ずっと、一緒にいたかった

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