見出し画像

窒息死

夜中に飲んだラム酒の甘たい香りで目が覚め、キャスターが付いた扉を勢いよく蹴りあげ動き出した。
人間不信になりかけの青年のように体に力が入らないものの、ふとペンを手に取り、握りしめる。
もう趣味じゃない服が山積みになった光景をよそに書きたいことを羅列し、速度オーバーの車の音を交奏曲に仕上げるかのように、趣味の範疇の作品を書き上げる。
若い男女の笑い声が幻聴か現実でなっているものかを聞き分けながらバスであの子と喋った記憶を回想する。
自分自身に、心は肉体よりも崇高で、それを許す人を選ぶと思い込ませた。
なにか思い立ったように立ち上がり、煙草を吸えるコンビニに足を運び、火をつける。人間は死に向かっているのではなく、死がこちらに向かってくるように、向こうからやってくる煙草の先端がフィルターに差し掛かるギリギリでそれを空へ打ち上げた。
ホットスナックは準備中で、カップラーメンコーナーを、産まれる前に自分のパーツを選ぶかのように吟味した。
体感1分で食事を終え、タバコとビールを飲みながら眠気を呼び込んだ。
気がつくと辺りは明るくなり時刻を見ると午前9時を指していた。目の前を通り過ぎる、何度か見た事のある母親と子供を乗せたママチャリが滑走し、小学生の頃、夏休みにラジオ体操で貰った皆勤賞を心の中で彼らにあげた。
これで心置きなくここを去れると思い、宇宙で1番果てしない人生と書かれた穴に潜って死んだ。窒息死だと子供が満面の笑みで教えてくれた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?