見出し画像

◆ 話のネタ ◆ No.16『刀を抜いた病院長!』

 人財育成部でCS研修(顧客満足研修)を担当していた時、重要キーワードに『助けを求めることは、弱さではなく強さだ!』というのがありました。 

前職の銀行員時代にどうしても理解不能なお客様がいらっしゃったのですが、友人歯科医のことばと上記ことばで、そのお客様の思いが20年振りに分かったような気がしました。
 
 そのお客様は、大きな病院を経営されているお医者さまでした。 お歳は、70歳を超られていましたが、自ら病院の経営、診療も手掛け、毎日12時間以上、朝から晩まで、一生懸命お仕事をされている方でした。 銀行にとっても、重要なお客様でしたので、毎月1度、税金、お振込のお手続きに、当時、取引先課長である私が往訪して対応しておりました。
 
 毎月、訪問し納税手続き、振込手続き等は、院長の奥様(60代後半)と私が20分程度で完了していました。 手続きが完了すると奥様が、毎回「院長がお話があるとのことですので、暫くお待ちください」とおっしゃるのでした。 病院と自宅は、車で7~8分あり、免許のない院長は、職員に運転してもらいご自宅に戻って来られるのでした。 
 
 院長が、戻られて自宅の応接で差し向いに座られると、まるで禅問答のように(禅問答は、受けたことはありませんが(笑)) 息を大きく吸って、非常にゆっくりと「~近頃の~ 景気は~、いかが~で~しょうか?~」と質問されるのです。 私が、「景気の先行指標と考えられる製造業での設備投資が始まりましたので、これから景気は、上向いてくると予想されます」とお答えすると。 また、大きく息を吸って、目を閉じられ腕組をされ「う~~ん~」とおっしゃり、そのまま3分間位何もおっしゃらない状態となります。
 
あまりの長さに、院長は、寝てらっしゃるのではないか? と思った頃、おもむろに「そ~です~か!」と返答がくるのです。 毎回が、この調子で1度訪問すると1時間以上は、仕事以外の世間話を院長としなければならない状況でした。 仕事の話であれば丸1日でも問題ないのですが、流石にこちらも毎回世間話に1時間もかかるのは非常に困っておりました。
 
 ある時、支店長の運転手さん(当時は、支店長には、運転手さんと支店長車が配備)が、「取長(取引課長の略)、A院長には、気つけや!」 「えっ、どうしてですか?」 「A院長は、以前の支店長に激昂して、日本刀を抜いて追っかけて来たことがあるからなぁ~」 「えぇ、えぇ~ それは、一体なんでなんです?」 「それが、わからんのや!
 
その話を聴いてからは、毎月の往訪時、極度に緊張が走り、A院長との禅問答には、超真剣に対応しないと大変な事が起こるのでは?と不安でした。

 次回訪問時に、院長の奥様にいろいろとお話を聴くことができました。  院長は、京都大学 医学部を卒業して婿養子であること。高齢になった院長を応援するために医者である息子が2度ほど病院に戻ってきたものの、院長が息子のカルテの記入の仕方が気に入らないと引きちぎった為、息子は、出て行ったこと。 院長が激昂すると、奥様を拳固で殴りつけること。 しかし、院長は、身を粉にして高齢にも関わらず朝から晩遅くまで真剣に働くこと・・・・等々
 
 奥様からドラマのような現実の話をお聞きしてビックリしました。 そして一番気になっていた応接室に飾ってある刀の事を質問しました。 「奥様、あそこに飾ってある日本刀は、本物ですか?」 「いいぇ、模造刀です。」 『・・・・(こころの声)・・・あ~よかった、何~じゃ~ 刀は、偽せもんじゃったんじゃ!』 「でも・・・2階には本物がございます」 『ガ~~ン! や~ば~
 
幸い、私は、院長から日本刀を抜かれることは、なかったのですが、一体、院長が何故このよう行動をとられるのか、最後まで分かりませんでした。
 
 それから20年後、中、高と同じで、国立大学を卒業して歯医者を開業したO君と話をしていた時のことです。 「今度、娘が I銀行に就職することになってな」 「おめでとう!   I銀行は、地元名門銀行やで、よかったな~」 「それでな、いろいろと教えて欲しいことがあるんじゃ、わしは、歯医者じゃけぇ、世の中の事が分からけんのぉ」

このことばに衝撃を受けました。 賢いO君でも、開業して朝から晩まで治療に専念していたら歯科医療は詳しくても、世間の事は、テレビ、新聞で見る程度にしか分からないというのは、もっともな事だと彼のことばで初めて気づいたのです。
 
 もう一人、高校同級生のT君も、国立大学を卒業し日本を代表する心臓外科の権威となっていました。 既に5,000件以上の心臓手術を行い、日々2件、多い時には、3件の難手術をすると言っていました。 ちなみに、NHKの健康番組、『チョイス@病気になった時』や『ためしてガッテン』で心臓特集の時には、そのT君が登場したのでビックリしました。
 
 日本の心臓外科の権威となったT君に、師匠がおっしゃったのは、「これからは、君も、高校の同級生と飲みに行きなさい。 医学以外のことに視野を広げなければいけません!」とアドバイスを頂いたので飲みに来たと言っていました。
 
 余談ですが、T君と飲んだ時に、「神の手を持つ天才心臓外科医の特集として、T お前のところには、TV局から依頼が来るんじゃないんか?」 「あぁ、よう来るけど全部断っとる。」 「T先生、先生が手術される前に、潰れそうだった蕎麦屋が先生が手術して店主が元気になり大繁盛しているという話はありませんか?」と言われるので、「そんな話は、一切ない! 」と断っている。
 
 以上より、私の推測ですが、A院長は、京大医学部出身の秀才中の秀才、且つ大病院の経営者であり、地元の名士でした。 ロータリークラブ等のさまざまな会の集まりで多くの名士の方とお話する機会も多く、その時に、恥をかかないように、経済動向も詳しく知っておきたかったのではないか?  

但し、「知らないから、いろいろと教えて欲しい」と言う勇気が持てなかったのではないか? と思いました。   情報が一番集まる支店長にいろいろ話を聴きたかったが、忙しい支店長が、挨拶を済ませると早々に退散しょうとしたことが逆鱗に触れたのではないか・・・と思いました。
 
💛 スキや、フォローを頂けると励みになります、内容が、面白ければ宜しくお願いします

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?