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ヨドチョーさんのこと

 映画が好き、と言っても何から書き始めたらいいんだろう、と思った時、そうだ、淀長さん、淀川長治さんのことを書いておこう、と思いました。

 なぜなら、淀川さんて誰?→ ホラ、小松の親分がマネしてるでしょ、
ハイ、またお会いしましたね 怖いですね~、怖いですね~
サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ 
と言っても、 
→  えっと、小松の親分って誰?…...日曜洋画劇場って何?と言われかねない時代になってしまったからです…。

 と、言いつつも、今さら私が淀川さんとはこういうエライ人なんですよ、小松政夫さんは植木等さんの付き人をされていて…なんて話をしてもしょうがないので、まずは淀川さんについて作家の井上ひさしさんが書いている文を紹介します。

むかし、ギリシャに「批評とは、批評の対象を愛し抜くことだ」と喝破した偉い学者がいた。いま、この日本に、映画を愛しながらひたすら何十年も生きてきた人がいる。その人の名はむろん淀川長治である。映画に全身全霊を傾けたその生き方に心を揺すぶられないものはだれもいないだろう。
-淀川長治 シネマパラダイス〈2〉 (集英社文庫)-

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 そう、淀川さんと言えば、映画を愛し愛し愛し抜いた生涯、どんな映画にも必ずいいところがある、と日曜洋画劇場で映画を誉め続けた人、という印象がありますよね。そして、映画から学んだ人生の3つのスローガン、

・苦労来たれ
・わたしはかつて嫌いな人に会ったことがない
・他人歓迎

と、いつも唱えていたことでも有名です。

(ただこれは「映画友の会」に入っていた私の母 [ 1948年生まれ ] は、
「苦労来たれ」「やったらやれる」「わたしはかつて嫌いな人に会ったことがない」と覚えていて、母から聞いた私 [ 1974年生まれ ] もそう覚えていました。嫌いな人に会ったことがない、と他人歓迎、は通じるところがあるので、「やったらやれる」がある方がいいなと思っています。)

  どんなB級な映画もいいところを見つけては褒める、どんな人でもウェルカム、「まぁ、よく来たね。」とハグして迎える。
正に映画への<愛>、人への<愛>にあふれてますよね。 

 と言いつつ、ここが私が淀長さんを大好きなところなのですが、この3つのスローガンは、正にスローガン、自分に言い聞かせる念仏の様なもので、本音では「あの人嫌い、この人も嫌い。あっちから来る人も、こっちから来る人も、わぁ毛虫、バイキン、あっち行け。」というように、人見知り、他人が怖い、人がキライ、と思っていた(時期があった)ということなんです。
  だからこそ、映画から人生の大事なこと、人を愛するという大切なことを学んで、この3つのスローガンを唱え続けていたようです。
 
 今、淀長さんが「日曜洋画劇場」(テレビ朝日)で映画のいいところをたくさん紹介する様子は、DVDやyoutube等でいくつも見られます。一方で、深夜にやっていた「淀川長治 映画の部屋」(テレビ東京)という番組では、結構本音で映画や俳優のことをズバズバ、バサバサ、え?そこまで言うの?という位、辛口なコメントをしていました。意外、というよりも、あぁ、淀長さんはそう思ってたのかと、本音の部分が見られて、とても面白かったのです。(テレ東のアーカイブには残っているのでしょうか?今、見たくてたまりません。)

 でもこれは、やはり映画というものを愛し抜いているからこその物言い、井上ひさしさんのエッセイ『ひと・ヒト・人 -井上ひさし ベスト・エッセイ続』(ちくま文庫)でも紹介されていましたが、「好きだからこそけなせる」、つまり愛があってこその言葉だと思うのです。毒蝮三太夫さんが、「ババァ、ジジィ」というような、愛あるエールでしょうか(笑)


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 ということで、淀長さんが残したさまざまな書物や映像から、時折垣間見ることができる、私の好きなブラック淀長さんを一つ紹介しておきます。

  それは、『増補新版 淀川長治 ---カムバック、映画の語り部  』 (文藝別冊/KAWADE夢ムック)に収録されている、爆笑問題さんとの対談の中での一コマ。淀長さんが「ほんとうのこと言ったら、アニメはあんまり好きじゃない」と言いながらも、「もののけ姫」のことはとても褒めていて、

淀川:日本で最近いい観客がついたのが「もののけ姫」ね。あれだけのロングラン、いいものには客が入ることがわかって、自信が出た。ご覧になったか?
爆笑問題:いや、見てないです。
淀川:二人ともバイキンだね(笑)じゃあ、「タイタニック」は?
太田:見てないです。
淀川:よかった。あんなの見ないほうが幸せだ。でも、「もののけ姫」くらいは見ときなさいよ。

  と、私の大好きな「タイタニック」は、淀長さんに言わせればケチョンケチョンです(笑)そして、1997年当時、淀長さんが絶賛していたイラン映画「桜桃の味」(アッバス・キアロスタミ監督)の話になります。

淀川:ところで、「桜桃の味」は見た?
太田:見てないです。
淀川:死刑だ、二人とも(笑)あれを見てないなんて、映画好きなんて言えないよ。

  この後、「桜桃の味」について熱く語り始めますが、途中でマナーが大事、という話になり、映画にもマナーが大事で、「タイタニック」で一つだけよかったのは、ニュース映画のように静かな静かな始まり方だったのがよかった、とほめるのです。さすがですね、けなしておいて、やっぱりほめる、愛ですね。そして、あぁ、よかった「タイタニック」にもいいところがあって(笑)。

 そんな訳で、淀川長治さんについてはまだまだ語りたいことがたくさんあるのですが、今回はこの辺で。そして、淀長さんには不評でも、私は大好きなジェームズ・キャメロン監督「タイタニック」についても、いずれじっくり語りたいと思います(笑)。ではまた、お会いしましょう、

 サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ

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