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『星くずからもらってきたもののすべてを』

自分の「声」で書く技術──自己検閲をはずし、響く言葉を仲間と見つける』という本を作る機会に恵まれた。先月の出版以降、もたらされる恵みは増すばかり。

今日もこの本のことを好きなだけ語らせていただく時間をもらえ、この本に触れた人たちの声をたくさん聞かせてもらえて、「言葉」というものについて語り合うことが好きなんだということを思い出せた。

僕自身、この本に出会えたおかげで自己検閲が薄まり、未成熟な文章を出すことへの抵抗も薄まり、もっというと未成熟な文章の魅力にすら気づくことができ、もうこの記事も読み返して編集なんて一切しなくていいと思っていて、長年取り戻したかった「書く喜び」「言葉と向き合う喜び」がまた体のなかを流れ始めている。完成度の高い言葉を綴る喜びではなく、自分の中にあるどこかとの通路からズルズルと出てくる言葉を綴る喜び。

そして面白いことに、「新しいものを書きたい」と同じくらい、「過去に書いたものを表に出したい」という気持ちが芽生えている。過去の日記に書かれたとんでもなくドロドロしているものや、どこから出てきたのかわからない物語の断片とかも。

理由なんかどうでもいい。そうしたいと思ったんだから、それでいい。思ったときに、一つでもやってみたほうがいい。

だから、「こんなもん見られたらおかしなやつだと思われそう」と思って2年近く表に出すことができず、でも表現の通路が詰まっていた苦しさやそれが流れ出したときの喜び、垂れ流そうというふっきれた気持ちについて素直に書けたと思えた文章を、ここに出してみようと思った。

これは、本書のワークショップを実践するなかで、本書のおかげで、その仲間たちにはようやく見せることができた文章でもある。もう少しだけ、恐れを手放して、「自分らしい表現だと思えた」というその一点だけを誇りに思いながら、えいやっ。なんとでも思ってくれればいいよ。

ただただ感覚とだけ向き合えた、幸せな書き心地だった言葉。




収縮している 圧縮している
頭の左右から
胸の内側へ、奥へ
輪郭の中で、狭く

とめどない圧力の中で、燃えたぎる特異点は育っているのか
爆ぜる準備を進めているのか
いつまで いつまで続ければいい
出口を永遠に失う、後戻りのできない瞬間はあるのか?
もう、通り過ぎてしまったのか?
特異点はまだ、脈打っているのか?
体温は、残っているのか?

圧縮された卵を、どう孵すのか
その勇気はあるか
恐ろしい雛に、心も体も喰らわせる勇気はあるのか
その残酷な雛こそが、深い崖の下から飛び脱けることができる
月か、六ペンスか
ストリックランドになる覚悟は

他者、義務、使命
大義で己を収縮させるという、命への罪
いつ気づく? もう気づいている? 隠している? 楽している?

ようやく、声を聴けている
時間をかけ、意図を手放し、誘導せず、導かず、導かれるままに、出るがままに
ただそれだけのこと、ただそれだけでよかった
その時間を取ることもせず、ずいぶんと悲しい思いをさせた

解け始める 溶け始める
やうやく手足を伸ばせる
ゆっくりと、あくびをしてほしい
眉間をゆるめて、まぶたの奥の扉を開いて

もっと薄情に、もっと恩知らずに、もっとほとばしって
輪郭から出るときはきた
しみだせつきやぶれとかせあふれろとめどなく
通路までもう少し、とりもどせもう失うな
生が吹き出すままに、その通路を、ただ通路のままに

意図はいらない、想いもいらない、願いもいらない
流したいだけ、通路から、流したいだけ
ドロを、砂を、地下水を、汚物を
生まれる前の粘液のままで、形を持つ前のガスのままで
星くずからもらってきたもののすべてを

もう身体など、ただの操り人形でいい
もう頭など、何も思いつかなくていい
通路だけでいい、ただ流すだけで
星くずからもらってきたもののすべてを

怒っていい、がっかりしてくれていい
ただの通路に、何も期待してくれなくていい
誰かの、自分の、すべての想いから遮断された通路になること
ただの通路になること
ただの通路になること
ただ流すこと
ただ流すこと
星くずからもらってきたもののすべてを

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