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中3保護者会で話した「将来から逆算して考える志望校の選び方」を文字に起こしてみた

 去る5月20日(日)に私が関わる2つの塾で保護者会が行われた。私は午前午後とはしごする形で埼玉と東京を行き来し話者を務めた。
 対象はどちらの塾も中学3年生の保護者,つまり「受験生の親」。すでに子どもが「将来やりたいこと,目標」を明確に持っているのであれば苦労しないが,高校入試を控えた中3生に限ると残念ながら「目標を持っていない」「自分の適性がわからない」子の方が多いように見受けられる。
 だから,親も子も「どんな高校を選べばよいかわからない」状況で暗中模索しているのがまさにこの時期だったりする。
 そんな保護者に対してのアドバイス,それが今回の保護者会のテーマ。数多くの中3生を見てきた塾講師として,あるいは子どもの高校入試・大学入試を経験した一保護者として,自分が語れることは何か。自分の子どもたちに対する接し方の反省も含めてここに書き残しておくことにする。

(1)2025年の子どもの姿を想像してみる

「受験生の親」は,ここから半年余りの間視野が狭くなることを注意しておく必要がある。学校説明会があるといっては目の前の予定を調整し,模試の結果が返却されれば目の前に突き付けられたデータで一喜一憂。親の意に反して呑気な子どもの様子にイライラしたり,入試にかかる費用を計算してはため息をついたり。こんな状況で「子どもの受験校選び」に取り掛かれば,目の前の偏差値で判断しがちになってしまうのも無理はない。

だからここで一回視野を拡げて「2025年の子どもの姿」を想像してみよう。
2025年の今頃といえば,現在の中学3年生が順調にいけば「就職活動」をしている時期になる。
日本の景気はどうなっているだろうか?東京オリンピックが終わって5年,現在のように新卒の求人倍率は高い水準を維持できているだろうか?
 確かに現在の新卒求人倍率は「バブル以来」と言われる水準だが,その実態は当時と全く違っている。いわゆる大企業と呼ばれる規模に限っていえば,当時より格段に競争は激化していて,

 エントリーシート(15000人)
          ➡面接(100人~200人)➡採用(30人程度)

 くらいの厳しさになっているという。「そんな大企業でなくても・・・」という気持ちはわかるが「せめて住宅手当くらいは・・・」と思うのであれば,その福利厚生の差こそが倍率の違いだと思っておいて損はない。いわゆる「ブラック企業」のブラックたる所以は労働時間だけじゃなく,福利厚生の差だと一保護者として思う。

(2)ポイントは「自分が身を置く環境の違い」

  ここで「求人倍率0.39倍」にもう一度注目してほしい。
「なんだ,3人に1人が入れるのか。なんとかなるんじゃね?」
と考える人と,
「まず面接までたどり着くのが大変だろうな。準備しなきゃ」
と考える人がいる。この思考の差は「自分が身を置く環境の差」に等しいと私は思う。定期テストを例に挙げれば,
「赤点を取らなきゃいいんだよ,真面目にやらなくても平気平気」
「入試の前に困らないように,どうせやるならベストを尽くそう」

という考え方の差。ベースを赤点に置く者が多い集団に身を置けば,ベストを尽くそうと努力し続けることは大変難しい。逆にベストを尽くすことが当たり前と考える集団に身を置けば,赤点をベースに語ること自体が恥ずかしい。

これを就職活動にあてはめてみる。
ある企業が「採用基準として,TOEIC700点以上」を公表したと仮定しよう。
これを鵜呑みして「700点ならいけるのか」と考える人たちが属する集団と,「そんなもの『18歳以上の健康な男女』くらいのあってないような緩い縛りだろ」として800点850点がベースと考える人たちが属する集団がある。

これが環境の違い。

そして,特に「700点ならいけるのか」と文字ヅラだけで判断して無思考で決めつけてしまう者たち(他者の立場で物事を考えられない)は,自分の考えが「当たり前」と思ってしまうから,後者のような思考で入念な準備を施す者たちがいることすら想像できない。そして,こうした集団が作る環境が大学によって違うとするならば、

結果的に学歴フィルターは「ある」。

 もしも大学名を隠して選考が行われたら今以上に一部の大学出身者に固まるだろう。そのくらい「環境の差」は大きい。皆さんはお子様の未来の姿をどちらの環境で想像するだろうか?どちらの集団に属してほしいと考えるだろうか?
こう考えてみるだけで「どういう大学を選びたいか」が見えてくるはず。

(3)次は2021年の子どもの姿を想像しよう

「大学選び」に視点が移ったところで,今度は「2021年の子どもの姿」を想像してみよう。2021年5月といえば高校3年生。つまりほとんどの子が大学入試に向けて再び「受験生」と呼ばれる時期だ。

(ここから実際のトーク)保護者しかいない今日は本音でいきましょう。子どもはいないから遠慮はいりません,質問しますから本音で答えてください。挙手をお願いします。
「お子さんが国立大学に進学してほしいと思っている方」
「私立大学でOK,早慶上智なら万々歳という方」
「親も子も,まだ何も考えていないという方」
だいたい1/3ずつくらいですね。「何も考えていない」という方が多いと思っていました。それでは順を追って説明しますので資料をご覧ください。

①国立大学進学を志望するなら

 国立大学に進学できるのは「大学生になれる人のうち5人に1人」しかいません。公立高校入試の延長で「ちゃんと勉強していれば入れる」と思っている保護者はその考え方をすぐに捨てましょう。しかも国立大学は,カーリングで有名になった北見工業大学(北海道)を最北端として南は琉球大学(沖縄)まで,47都道府県に必ず1校は設置されているので,全国でおよそ10万人の入学者を受け入れるとはいえ,首都圏に限れば受け入れ人数が多くありません。さらに,東京大学・一橋大学・東京工業大学といった全国的に有名な大学が多いのだから,ライバルとなる受験生は首都圏在住者に限らず全国から「高校で1番,2番」という成績の者が集まってきます。したがって「国立大学に自宅から通いたい」という場合には,相当に高い学力を有していることが前提となります。
そういうことがわかっていて,お子さんは日々の勉強を頑張っているんですよね。定期テストなんて通過点だってことはわかっていますよね。

 次の問題は「大学入試新テスト」。国立大学を希望する人は1次試験として「大学入試新テスト(原則5教科7科目)」を,2次試験として各大学が個別に行うテストを受けなければなりません。この新テストでは「思考力・判断力・表現力」も評価するために,「答え」だけでなく問題解決の過程や自身の考えを記述する問題への対応が求められます。高校入試で近年流行している新傾向問題が長文化すると思ってください。
簡単に言えば,国語が苦手な男子は詰みます。
だから諦めるのか,今から必死に勉強して克服するかの二択しかありません。やるかやらないか。やるなら,今この瞬間から始めないと間に合わない。このテストは現高1の大学受験時にスタートしますので,現在のところ不透明な部分が多いのも事実です。どのような変更があっても大丈夫なように,中3段階からの綿密な準備と努力の継続が欠かせません。

②私立大学進学を志望するなら

とにかくこの資料をみてください。
「」

早稲田大学社会科学部を例にとると,2015年と2018年では「合格者数が2/3になっている」ことがわかります。わかりやすく言えば
2015年春に「合格」をもらった人の3人に1には今年なら「不合格」
なんですよ。
「うちは早稲田なんて・・」という方は明治大学を見てください。状況は変わりません。法学部というくくりで見れば,早稲田が22%減,明治は30%減ですよ。これが私立大学受験の現実です。
東洋大学なんてもっと厳しい。厳しいのは偏差値が高い大学だけじゃない。

この現実がわかっていて,お子さんは日々の勉強を頑張っているんですよね。定期テストで「70点取れればいい」なんて低い目標で緩く勉強していませんよね。先ほどの「赤点を取らなきゃいいや」と考え方の根本は同じですよ,これでは。大学進学率が60%として「現在通知表でオール4,あるいは4に3が混じる」くらいの子が,大学入試に関しては「成績がビリ」ということになるんです。ハッキリいえばこの考え方が習慣になってしまっている子です。現実と未来が分かっていれば,日々の勉強で手を抜くなんてとてもできない。今から自分の立ち位置を自分で変えないと間に合わないのですから。

③まだ何も考えていない人へ

①,②の話を聞いた後なら,皆さんがどれほど遅れをとっているかご理解いただけたことでしょう。2025年から逆算してみれば「高校入試は通過点,でも人生の2択が始まる節目」ということです。
「何となく歩いていたら富士山の頂上にいた」なんてことがあり得ないように,「何も考えずにフラフラしていて適当に2択を選び続けたら,たまたま自分の欲する最適な環境に身を置いていた」なんてことは今の時代にはあり得ない。そんなに世の中甘くない。準備が1日遅くなれば,それだけ人生の選択肢は狭まっていく。
「環境は与えられるものではなく,自ら求めるもの」
です。自分がどうなりたいか,どうありたいかは自分で考えるしかない。今この時期に考えることを後回しにすれば,そのツケは2021年・2025年にまわってくるのです。

(4)じゃあ,どうやって高校を選ぶ?

ようやく本題へ。
【基本中の基本】高校の主張を徹底的に調べ「信じられる高校」を選択する→今回の大改革・定員抑制策はこれまで誰も経験したことがない

★「高校選びの模範解答はない」保護者・高校・塾予備校の過去の経験も,従来の受験のテクニックやマニュアルも通用しなくなる。「変化への対応力」が試されるサバイバルへ。

【やること1】御家庭の方針決定 国立大or私立大 文系or理系
→「環境は自ら求めるもの」自分が身を置く環境によって,自分の思考や常識,習慣はいくらでも変わる。どのような環境を望むのか。

【やること2】高校の説明会に出向き「今回の大学入試改革・定員抑制策,時代の変化をどのように捉え,何を変えようとしているのか」をしっかりと調べる

例えば・・・
・プレゼンや課題解決能力への対応
(A)これからの時代には絶対必要なので高校でしっかり鍛えます
(B)大学に入ってからでも伸ばせるから,ウチは放置します。まずは大学合格を目指した学力を!
→どちらが正解ということはない。御家庭の方針がハッキリしていないと選択すらできない。

・大学合格実績への責任感
(A)現役合格を念頭にしっかり面倒をみます
(B)わが校の伝統は「自主性」。すべて本人任せです。

【やること3】「どんな生徒を合格させたいか」を聞いておく
→求められる能力を身につける,足りないものを補う

(例)「わが校では部活も盛んで,文字通り文武両道で」
→高1で「部活」も「デート」も「勉強」も順調な生徒は,中学時代に「高1の内容を半分くらい学習済み(※)であることが前提」
→「ちょっと背伸びして勉強している生徒が欲しい」ということ!
 
※英語なら 長文読解の速度や単語・熟語の語彙数
 2017年春 進学指導重点校グループの説明・物語文は1000語以上
【参考】2017年春 大学入試センター試験 
    大問5(物語)832語 大問6(論説)821語

※日比谷や戸山志望なら 入学者の「併願校」を聞いておかなくても平気?
(男)開成・早慶附属 (女)お茶の水女子・慶應女子・豊島岡女子
を蹴って入学する者の比率は無視できない(成績上位を占める→大学合格実績に貢献)。「普通の中学生」の学習内容に終始した勉強では,入学後のスピードについていけない。
 
(例)「生徒の自主性を重視しており,教員はあまり進路に口出ししません」 →自分の目標をしっかり持ち,諸々の困難で歩みを止めることのない生徒が欲しい 

「もうダメだ」「ムズすぎ,こんなのやってらんない」なんてネガティブ思考や「自分の成長にブレーキをかける(部活が・・・,学校行事が・・・と勉強しない言い訳ばかり)」が先に立つ生徒は,誰も手助けしてくれないからどんどん遅れをとってしまう

★国立大学を志望する人の受験校選び 
国立大学進学を本気で考えるなら,高校入試段階で「あれが嫌い,これは苦手」なんて言ってるようじゃダメ。5教科7科目受験が前提だから,各教科好き嫌いなく高いレベルで学習するのが当たり前。

高校選びに際しては「同じ目標(国立大学志望)を持つ仲間が多く集う高校」を選ぶのが最優先。制服とか食堂のメニューとかは後回し。首都圏では私立大学の選択肢も多いので,
「こんなに大変なら,私立大学を目指すことにするわ」
という選択をする高校生が多くなる傾向があり,先ほどの「環境の違い」という話に戻る。私立大学志望者が多い高校に入ってしまうとカリキュラムや周りの雰囲気が自分に合わず苦労する可能性が高くなるので注意。

★私立大学を志望する人の受験校選び
大学合格実績の「裏事情」をわかった上で各高校の合格実績を見ること。
私立大学の合格実績は「1人で複数稼げる」。例えば,1人で早稲田大学商学部と法学部に合格すると→早稲田大学合格者2名
1人でMARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)に3校合格した生徒が10人いれば,それだけで「MARCHへ30名合格!」ということになる。特定の生徒が実績を稼ぎまくっている場合,多くは学校の力じゃないぞ,彼らが通った予備校の力だ。(学校の指導力は底上げ力,1校受かった生徒が30人いる方が信頼できる)

 また,それだけたくさん受験できるのだから費用もかさむ。「平均出願校数」をチェックしておくのは当たり前。コスパを気にしたほうがよい。「早稲田大学だけでのべ14回の受験機会」なんて事例はいくらでもあるし,MARCHなら1人で「5名合格」は充分可能。高校の職員室付近に掲示されている「合格者一覧」で複数合格者をチェックしておくことは必須。それでも現浪の区別がつかないことが多いので,合格実人数(しかも現役)はしっかり確認しておくこと。これは高校側にとって「聞かれたくないこと(聞かれない限り教えない)」ネタだったりする。

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