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フェルミエの”ポジショナルプレー”


アルバリーニョの傘かけ

先週末から恒例の棚のアルバリーニョの傘かけ作業を行なってます。
アルバリーニョは樹勢が強く枝も3次元方向に伸長する"暴れぶどう"なので効率よく傘をかけるためには枝の誘引作業が必要になります。そして軸が短いので傘かけは難易度が高いです(ちなみにスペインのアルバリーニョは傘なんてかけませんし、誘引も行いません。少なくとも僕の理解では。しかし、経験則からフェルミエの棚栽培の畑のアルバリーニョは晩腐病などの害を防ぐための最善の方法は今のところ傘かけなのです。)

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今年も写真の畑のぶどうに2万枚(=2万房)を下らない傘をかけます。本当に重労働なんです…。
この作業のために週末は学生アルバイトにお手伝いしてもらうのですが、ぶどうの房どうしや、ワイヤーと絡まった房や、上向き・横向きの房は作業の難易度が高いのでそれらの房は熟練スタッフが担当して学生さんには比較的作業が易しい房を中心に傘をかけてもらうことになります。しかし、具体的な作業の
指示(エリアの特定や作業対象となる房の状態の基準など)が中途半端ですとエライことになります。学生は易しい房を探して畑中を右往左往し、既に作業を終えたエリアに何回も、さらに別の学生も次々と同じエリアを巡回し続けるような事態になります、熟練スタッフには平均15秒で1房、学生にも30秒で1房は傘をかけて欲しいのですが、仮に1房につき1秒ロスしますと2万房で5時間半のロスになります。従って、この作業をオーガナイズすることが大変重要になります。

さて、ここから先はサッカー用語も使ってフェルミエの傘かけを説明します。かなり長くてサッカーに興味がない方には到底ご理解いただけないと思いますのでご遠慮いただく方が良いかもしれません。不親切なようですが、用語の説明をこの投稿の中で行うとさらに長くなるので敢えて行いません。申し訳ありません。それでもご興味があれば、「ポジショナルプレー」、「5レーン理論」、「ハーフスペース」、「ポケット」、「サッカーにおけるトランジション」、「ストーミング」、「ゲーゲンプレスとハイプレスの違い」、「ジョゼップ・グアルディオラ」、「ユルゲン・クロップ」、「トーマス・トウヘル」などをググッてみていただけるとよいかもしれません。

「ポジショナルプレー」と「ストーミング」を融合した手法

傘かけ作業について、これまでもいろいろな方法を試行錯誤してきたのですが、現時点での基本的な考え方は欧州を端緒とするモダンフットボールの代表的な戦術に極似しています。すなわち、ポジショナルな位置どりとストーミングの融合に帰結しているのです。

作業の要諦は以下のとおりです。横に10m幅のピッチをとり、この10m単位で作業を進めます。10mを2mずつの5レーンに分け(「5レーン理論」)、各レーンに一人ずつ配置して各人が自身のレーンを担当して前へ作業を進めます。

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熟練スタッフだけの〈平日型〉フォーメーション

冒頭の写真は平日の作業の様子。
本来は熟練スタッフ5人を配置したかったのですが、1人負傷欠場により4人。左の大外に位置する本多がこの写真を撮るために抜けて3人になってますが。

学生アルバイト2名を交えた〈土日 3-2型〉フォーメーション

明日(7月3日、土)は熟練スタッフ3名と学生アルバイト2名の〔土日 3-2型〕で臨みます。傘をかけるぶどうを歩いて探し回るロスを排するために、各人の作業対象のぶどうは自身のレーンのぶどう(一歩踏み出すだけで捕えることができる)だけに限定します。そして、バックステップを原則禁止し、5人全員が自身のレーンの中を前進するのみ。

ハーフスペース(②と④のレーン)に二人の学生アルバイトを配し、①,③,⑤の熟練スタッフは②,④の学生2人と縦のギャップ(1〜1.5m)を作って位置取りします。学生は自身のレーンの中の易しいぶどうだけを捕まえて作業し、難しいぶどうは迷わずに残して次のぶどうを捕まえに前進します。熟練スタッフは自身のレーンのぶどうを全て捕まえることに加えて学生が残したハーフスペースのぶどうを後ろの両サイドからカバーして捕まえながら前進します。

この手法は5レーン理論に基づくポジショナルなストーミングと言えるでしょう(馬鹿ですねえ、笑)。学生には前進のみを規則化し、「迷ったら前へ」のコンセプトを徹底させます。"前へ"のヒントはかつて「湘南スタイル」と謳われた曹貴裁監督時代の湘南ベルマーレの、ポジティブトランジョン時に絶対にボールを後ろに下げない意思統一されたプレー選択のあり方です。

フェルミエのストーミングは、学生がボール(ぶどう)を手放す(捕捉しない)ことを厭わない点ではリバプールやレッドブルグループ系のストーミングの側面も持ち合わせてますが、前へという意識付けに重きを置いているので「湘南スタイル」的なのです。

余談になりますが、昨今のフットボールではそれぞれのチームのプレースタイルがモダンフットボールの二大潮流である「ポジショナルプレー」か「ストーミング」かに類型化する議論が盛んですが、僕の理解では、現実のピッチ上では、両者は二者択一ではなく融合した形でゲームは進められていると思っています。例えばポジショナルの使い手であるグアルディオラ(以下、ベップ)率いるマンチェスター・シティ(以下、シティ)でも、ゲーゲンプレスからのポジティブトランジション時には、ストーミングが最初の選択肢になります。逆にストーミングの使い手であるクロップのリバプールでも広義にはポジショナルな位置取りによりストーミングが可能になる訳ですし、今ではストーミング一辺倒ではなく、ボールを下げて後ろからビルドアップし直すことが増えてきました(個人的にはファビーニョを獲得してアンカーやCBに起用するようになってからこの傾向が顕著と認識してますが)。

局地的グループ戦術と大切な距離間

さて、フェルミエの傘かけに説明を戻します。①と②の右サイド、④と⑤の左サイドはそれぞれ2人ずつのグループでの局地戦を展開します。2人でコミュニケーションをとって連携しながら作業を進めます。

「このぶどうは難しくて私の手には負えないので、西岡さんお願いします。」とか、「その絡まってるぶどうは〇〇すれば簡単に傘かけれるようになるからやってみて」...という具合に。熟練者が後ろからフォローするために位置取りのギャップが意味を持ちますし、フットボールで失ったボールを即時奪回するポジティブトランジションには味方同士の「距離間」が重要とはよく言ったもので、まさに畑でのこの作業にも言い得ているのです。学生と熟練者が互いにコミュニケーションをとり効率よく連携できる距離が2mのレーン幅なのです。

ベップのポジショナルプレーにおいてゴールを陥れるためのプロセスとしてアタッキングサードではポケットへの侵入を目指します。そのために逆足のウイングが重用されます。これはフェルミエの傘かけでも同じ(畑にはゴールもポケットも存在しないのですが)。右サイドの①には、進行方向に向かって左斜め前方のパートナー②の学生をサポートするための視野を確保するためには左利きの西岡が最適です。西岡はフェルミエにおけるマフレズなのです。

③にはその日のメンバーの中で一番の熟練者を据え、自身のレーンと両サイドのフォローをタフにこなしながら、チーム全体をオーガナイズするタスクも担います。①と⑤のタスクもフォローしますし、主に①や⑤と頻繁にコミュニケーションをとりながら各レーンの魚影の濃淡やメンバー各人のスキル、体力、メンタルの把握に努め、時に大胆なポジションチェンジや戦術の変更も断行します。

選手が流動化するポジショナルプレーに対する守備戦術の概念も取り込まれた手法

じつは、フェルミエの5レーン戦術は、ベップの流動的なポジショナルフットボールというよりは、それに対抗するためにチェルシーのトゥヘルが仕掛けた守備戦術に近いのです。偽CF、偽SBも駆使して次々とポジションチェンジするシティの選手を追いかけてしまってスペースの綻びを生じさせぬように、守備時に5バックで5つの各レーンにそれぞれDFを配置する布陣を敷き、自分のレーンに侵入してきたボールホルダーに対して正面から徹底的にプレスし、横には深追いせず隣のレーンのディフェンダーに受け渡しして自身のレーンにスペースを与えないという守り方です。傘かけにおいては、自身のレーンの外のぶどうを追いかけてしまう時間的なロスと、ポジションの重複を避けるために5レーンのディシプリンは極めて有効ですし、各レーンの責任の所在も明確になります。

ぶどう畑のベップを目指して

欧州のフットボール戦術は、ベップがバルサの監督に就任して以降の10数年の間、彼がバイエルン、シティと渡り歩きながらポジショナルプレーを展開し、それに対抗、阻止する勢力が現れ、さらにベップが磨きをかけてその上を行くというサイクルでめざましい発展を遂げてきました。2020-2021シーズンのシティのサッカーはこれまでのフットポール史上で最もモダンで魅力的なものであったと個人的には思います。しかし、そのシティをトゥヘルのチェルシーが3度破りCLの頂点にも立ちました。新シーズンにベップがチェルシーを凌駕するためにどんなサッカーを見せてくれるのかわくわくがとまりません。

僕も研鑽を重ねて畑の中のベップを目指したいと思いますし、フェルミエもシティのように成長を続けなければなりません。


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