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#074 スカンノへの旅 (その16) オンリー ボンジョルノ & グラッツェ

 スカンノへの旅(その15)で紹介した西谷さんは、旅を充実したものにするためにイタリア語とフランス語の勉強を毎日されているとのこと。
 素晴らしい。
 私はと言うと、どこの国へ行こうとも「こんにちは」と「ありがとう」の2語のみ。他は、知っている英語の単語を並べるだけ。
 スケッチツアーではそれぞれの国の田舎に行くことが多い。田舎に住む人の多くは英語を話さない。現地で途方に暮れるが、私は言語の勉強をしようという気持ちにはなれない。人生の残りの時間を考えると、もう新たな言語を学ぶことは無理だと諦めている。
 しかし、同年代の西谷さんが毎日イタリア語とフランス語の勉強をされていると知り、私は、これでいいのか、今のままでいいのかと自問してしまった。

 早朝のスカンノ。まだ暗い道を歩いていた。幅2メートルくらいの道。両側は石造りの建物が続いている。すると反対側から人が歩いてきた。オレンジ色の作業服を着ている。地元の人で、広場や道路の清掃をする人だと分かった。早朝の清掃はヨーロッパの町や村ではよく見られる。これから勤務に就くのであろう。
 身長は180センチを超え、体格のよい青年だった。擦れ違うとき、私の方から明るく「ボンジョルノォ〜」と語尾を上げて声を掛けた。すると彼は、歩きながら私の目をしっかりと見て「ボンジョルノ」と何かを確認するかのように語尾を下げて返して、サッと片手を上げた。凛々しい目をした青年だった。
 見知らぬ旅人に片手を上げて「ボンジョルノ」と然りげ無く、近所の人に接するかのように挨拶をする青年。なんと清々しいことか。
 何歩か歩いて私は思った。あの青年は市役所勤務の公務員なのだろう。大学では物理を専攻していたに違いない。あの目は物理を学んだ人間の目だ。
 偏見に満ちた訳の分からぬことを勝手に考えながらの散歩は楽しい。

 「こんにちは」と「ありがとう」の2語だけの旅も悪くないぞ。今後も続きそうだ。

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