でべそのつぶやき <萬年筆くらぶ・フェルマー出版社>

スペインへ向かう飛行機の中でフェルマー出版社は立ち上げられた。 自分たちで本を作り、自…

でべそのつぶやき <萬年筆くらぶ・フェルマー出版社>

スペインへ向かう飛行機の中でフェルマー出版社は立ち上げられた。 自分たちで本を作り、自分たちで販売する。利益はなくてもいい。自分たちが納得できる書籍、それを作りたい。夢と希望と理想を求める本作りの旅が始まった。

最近の記事

#077 スカンノへの旅 (その18) 突然の音楽

 朝食後、教会の広場でのんびりと時を過ごしていたら、遠くからブラスバンドの音が聞こえてきた。見ると制服を身に纏ったマーチングバンドだ。力強い音を響かせながら広場まで歩いてきて、演奏を続けながら整然と並んだ。どの演奏家も実に凛々しい表情をしており、自信に溢れている。制服が醸し出す緊張感と演奏家たちの表情が、音楽に命を吹き込んでいるようだった。  そうだ、Hさんを呼んでこよう。  Hさんは今回のスケッチツアーの同行者の一人で、日本では絵画教室を開いているベテランだ。特に演奏家が演

    • #076 スカンノへの旅 (その17) 手作りビスケット屋

      BISCOTTERIA ARTIGIANALE 手作りビスケット屋  メイン通りから坂道を10メートルくらい下った場所に、このビスケット屋はある。旅の者は誰も気が付かないだろう。地元の人だけが買いに行く。ホテルでの朝食の際、ビスケットが並んでいて、これ美味しいね、どこで売っているんだろうねと話題になり、店の名前と場所をホテルの人に教えてもらった。  訪れると、父親と息子が2人で製造・販売をしている小さな店だった。ショーケースの幅は1メートルくらいで、2人が店内に入ると3人目

      • #075 絶滅危惧種? 記念切手を貼った手書き葉書(下)

         いま葉書の送料は63円。封書(定型)は84円だ。それが今後、葉書が85円、封書が110円に値上げされるという。約3割の値上げを検討しているというから、萬年筆くらぶの会報誌『fuente』の送料は180円から230円となることが予想される。  少子化が進み、労働者不足が深刻な社会問題となっている今日、送料の値上げは仕方がないのかもしれない。  しかし、日本郵便よ、送料の値上げだけで、他に解決方法はとらないのか?  葉書・手紙は次世代に伝えるべく文化の一つとの認識はないのか?

        • #074 スカンノへの旅 (その16) オンリー ボンジョルノ & グラッツェ

           スカンノへの旅(その15)で紹介した西谷さんは、旅を充実したものにするためにイタリア語とフランス語の勉強を毎日されているとのこと。  素晴らしい。  私はと言うと、どこの国へ行こうとも「こんにちは」と「ありがとう」の2語のみ。他は、知っている英語の単語を並べるだけ。  スケッチツアーではそれぞれの国の田舎に行くことが多い。田舎に住む人の多くは英語を話さない。現地で途方に暮れるが、私は言語の勉強をしようという気持ちにはなれない。人生の残りの時間を考えると、もう新たな言語を学ぶ

        #077 スカンノへの旅 (その18) 突然の音楽

          #073 絶滅危惧種? 記念切手を貼った手書き葉書(上)

           「私は年間一千枚の葉書を書きます」と書き、記念切手を貼った葉書を所ジョージさんの番組に送った。  「今の時代に、あえてハガキって面白くない?」と所さんがスタッフにつぶやき、それは面白いと番組スタッフが手書き葉書を募集した。そのことを知って、私は記念切手とワンポイントの絵を貼った、いつものスタイルの葉書に太字の万年筆で冒頭の言葉を書いて所さんへ送った。<こんな時代だからこそ、手書きの手紙や葉書の良さを見直す番組を作りたい>というふうに番組のテーマを解釈し、大いに賛同したのだ。

          #073 絶滅危惧種? 記念切手を貼った手書き葉書(上)

          #072 スカンノへの旅 (その15) Nさんのエッセイ

           「#071 スカンノへの旅(その14)合評会での一コマ」を読まれたNさんから、ツアー帰国後に書かれたというエッセイが届いた。実名での掲載でよいとのことで、ここに掲載する。  旅先でどのような時を選び、そして過ごすか。それに尽きるとのこと。その充実した時間は一瞬かもしれないし、少し長いものかもしれない。  このことは日常生活においても言えることだろう。日常において、どのような時を過ごすか。それに尽きる。Nさんのエッセイを読んで、そんなことを思った。  以下、N(西谷智子)さん

          #072 スカンノへの旅 (その15) Nさんのエッセイ

          #071 スカンノへの旅 (その14) 合評会での一コマ

           スケッチツアーでは中日と最終日に合評会がある。一人ひとりが描いた絵をツアー参加者に見せながら話をして、講師の古山画伯から講評を受ける。私は絵画の勉強をした経験はないし、絵画教室にも通ってはいないので、1年に1度の、この合評会が絵画における唯一の学習の場となっている。だから、自分の描いた絵に対するアドバイスは勿論、同行者の作品に対するアドバイスも貴重なものとして吸収したいと思っている。  スケッチツアー参加者の中には絵を描かない人もいた。その人は一日何をしているかというと、町

          #071 スカンノへの旅 (その14) 合評会での一コマ

          #070 ハンズで出合ったノート

           ハンズの文具コーナーを歩いていたら、シンプルな黒表紙のノートが目に留まった。見たことがないなと近付くと、棚に以下のような説明の紙が貼ってあった。 ● 鉛筆デッサン用に開発された、表面が少し粗目の紙 ● 紙の特徴   鉛筆・シャープペンシルの乗りが抜群   筆圧によって、強弱やかすれなどの繊細な表現が可能 ●薄いのに万年筆で書いてもインクのにじみ・裏側への抜けがほぼない。  これは良さそうだと手に取り、表紙を開いた。クリーム色で無地。好みだ。いいぞ。  紙に触れた。ウン?!

          #069 スカンノへの旅 (その13) 仲間の存在

           画家でもなく、絵を描くことが特別好きというほどでもない私が、4日連続で、朝から夕刻まで絵を描き続けることができた。その理由の一つはスカンノの町がもつ魅力であることは間違いないが、もう一つの理由は仲間の存在であった。  仲間と言うと、いつも群がる粘っこい関係を思い浮かべる人も多いかと思うが、そのような関係ばかりではない。同好の人。同行の人。物理的な距離は遠くとも、心が近い人。このような人も仲間と言える。  私は今回、株式会社トラベルプランの「万年筆画家・古山浩一と描く中部イ

          #069 スカンノへの旅 (その13) 仲間の存在

          #068 ああ、同じ表情だ

           夏の時期は朝の4時頃、冬場は朝の5時頃に私は散歩に出る。  着替えて顔を洗い、ウエストポーチを腰に巻く。ウエストポーチには家の鍵、ロディアのメモ帳、ボールペン、歩数計、小銭入れなどが入っている。暖かくなると、スケッチブック、スケッチ用筆記具関係一式が入っているショルダーバッグ、携帯椅子、そしてアイスコーヒーが加わる。  それらは置いておく場所が自然と決まっており、順に一つずつ手に取る。そして、一言も発することなく玄関のドアを開けて、空を見上げる。ブルーブラックの夜空に金星が

          #067 スカンノへの旅 (その12) 「生きている」を捉えた写真

           後ろから見られていたとは知らなかった。そして、写真を撮られていたことも知らなかった。  無心で描いているアマチュアの絵描き。その後ろから、どのような絵を描いているのやらと、そっと覗き込んでいる婦人。その瞬間を捉えたカメラマンは、スケッチツアー同行者の岩間敏彦さんだ。  彼は絵を描かない。スケッチツアーに参加して、現地の写真を撮って回る。日の出前から夜まで、光の方向と強さを計算しながら歩き回る。絵画は光の方向を自分で設定できるが、写真はそういう訳にはいかない。撮影したいものが

          #067 スカンノへの旅 (その12) 「生きている」を捉えた写真

          #066 fuente 90号 450冊

           「今日は届くかと思ったが届かなかった」  「でべそさん、どうしたんだろう」  「病気にでもなったんじゃないかなぁ」  「いや、郵便事情の所為なのかもしれない」  1月12日(金)になってもfuente が届かないことで、不安になっている会員の方もおられるに違いない。  忘れた頃に届くfuente。  待っても待っても届かないfuente。  人、さまざまだ。  そのfuente 90号が昨日(1月12日)の午前10時前に印刷屋から我が家に届いた。  これから封筒詰めをして

          #065 スカンノへの旅 (その11) 教会の鐘の音

           朝6時、昼12時、夕方6時に教会の鐘の音が聞こえてくる。その瞬間、日本では感じることのない一種の張り詰めた空気のようなものが漂う。キリスト教では、祈りへの呼びかけとか悪霊退治とかの意味もあるらしい。若干不協和音の響きが加わった、追い立てるような鐘の音を耳にすると、キリスト教徒でもない私だが心が洗われるような気がして、異国の地にいることを改めて意識する。  朝、まだ暗い中を散歩する。6時の鐘の音が石造りの建物に降りかかる。今日も一日が始まる。何が起きるか予測の付かない一日の

          #065 スカンノへの旅 (その11) 教会の鐘の音

          #064 fuente 90号 製作中

           いま、fuente90号の校正中。まずは赤ペンを握り、ゲラ刷り原稿と取り組む。赤ペンでの校正作業が終わるとパソコン上のデータを修正する。その際、赤ペンから三菱鉛筆のダーマトグラフに持ち替える。パソコン上でデータ修正をしたら、逐一ゲラ刷り原稿の赤入れ部分にダーマトグラフで丸を付ける。そして次の箇所の修正をする。ダーマトグラフで丸を付ける。この作業を繰り返す。こうやって1箇所ずつ修正していき、修正漏れが起きないように慎重に作業を進めていく。修正作業が全て終了した時点で、ゲラ刷り

          #063 スカンノへの旅 (その10) 早朝散歩

           私は毎朝、夜明け前に散歩に出る。ひんやりとした風が頬にあたる。その瞬間、ああ、今日も生きていると実感する。何年か前、倒れて救急車で運ばれたことがあるが、その時以来、生きていることを実感できるこの瞬間が好きで、朝の冷たい風を頬に受ける。  早朝は誰もいない。広い空間を独り占めする。いつも見馴れている近所の景色ですら新鮮なものに感じられ、初めて訪ねた見知らぬ町を歩いているような気持ちになることもある。  空気は自然界の匂いを包んでいる。人工的な匂いはしない。春であれば新緑の匂い

          #063 スカンノへの旅 (その10) 早朝散歩

          #062 スカンノへの旅 (その9) 少女との交流

           「おじちゃん、何やってんの?」(たぶん) 青色の服を着た少女が立っていた。 「おじちゃんねぇ、スカンノの建物の絵を描いているんだよ」 「フーン、おじちゃん、どこから来たの?」(たぶん) 「おじちゃんはねぇ、日本から来たんだよ。ジャポーネ」 少女はイタリア語でペラペラ喋る。私は英語と日本語で喋る。 お互い、何を言っているのか分かっていない。 「何歳なの?」「この近くに住んでいるの?」「学校は楽しいかい?」 私は絵を描きながら、いろいろと話し掛けた。少女もいろいろと話してくれる

          #062 スカンノへの旅 (その9) 少女との交流