名も無き修羅の国。

やっぱり旅は観光である。

最近の長期旅行者ときたら、せっかく海外にでたのに何もせずプラプラ散歩したり、地元の人たちと触れ合わず旅行者どうしでつるんで昼からビール飲んでたり、地元飯など食べずにカフェでアップルパイとか食べたり、麻雀などの賭け事や、夜に地元のお姉さんがいるクラブに遊びに行ったりと情けない限りである。

そんな事をするなら、わざわざ海外に出ずとも歌舞伎町や新大久保周辺で充分ではないか。だいたい旅に出てやる事が無いのがおかしい。

「何もしないをしにきました。」

どっかの旅行会社のキャッチコピーかよ。あきらかに宿のドミトリーで寝たきりで、食事も宿のレストランでっつーのは旅の世間体的にはいかがなものか。動きたくても動けないだけなのか。動くと死ぬ病気なのか。

具合悪いなら病院行け。

「風の旅団」南斗五車星の一人「風のヒューイ」こと、高速パッカーとして名を馳せたワタクシは今こそここに声を大にして言おう。

「山が動いた!!ならばこの風も動かねばなるまい!」

どうやらこの旅初めての陸路国境越えに混乱している自分を自覚した世紀末の春だった。

【1998年3月8日(晴)中国:景洪】

今日は「民族風情園」と呼ばれる観光スポットへ行ってきた。少数民族の宝庫の西双版納は景洪の市内にあるアミューズメントパークだ。

西双版納が少数民族の宝庫とは言っても、ここ景洪自体は漢族がやはり大多数を占めていて街中を歩いている限りではさして他の中国の都市と大差はない。実際の少数民族に会いに行くには、ローカルの交通手段を利用し地方の集落を訪れる必要があり、当然そこではある程度以上の中国語会話能力を要求される。

ハッキリ言ってめんどくさい。

でも、そこまで少数民族にも強い興味は持ってないけども、見れるものなら楽してでも見たい。「民族風情園」はそういう人には持って来いの場所である。(当時入場料:20元)

このアミューズメントパークの園内には雲南省の少数民族の家屋を模したものや、衣装を着た人たちが従事し観光客をもてなしてくれる。しかもショータイムには地元の泰族の「水かけ祭り」の催し物が行われるらしい。

「水かけ祭り」とはタイランドの正月に行われる「水をかけまくるという馬鹿騒ぎ」の事で、タイの都心部では情緒を失われて久しい。しかしココはタイ人のルーツになった泰族の地域であり本場である。本場の「水かけ祭り」が見られるなんて願ってもない事である。(催し物だけど)

見逃す手は無い。

この後、タイランドでの「水かけ祭り」に参加する前に本場のものを見ておいて(催し物だけど)、タイランドで一緒に祭りを楽しんでいる旅行者にむかって、

「やっぱりさぁ、本場(催し物だけど)の泰族の『水かけ祭り』見てないと本当の楽しさは分からないよねぇ」

と、思いっきり楽しい雰囲気に水をさす台詞を言うためにも、絶対に見に行かねばならぬ。それでこそ、東南アジアに有りがちな知ったかぶり長期旅行者の正しい姿と言うものだ。

でだ。

「民族風情園」は私的には、まぁまぁ面白かった。ただし、タイ、ベトナム、ラオスあたりから北上してきた旅行者達には面白くもなんとも無いかもしれない。

現在は中国のどんな地方の地域も、既に漢族との融合政策が進んでいて中華風少数民族しかいない。北ラオスや、北ベトナムの方がドキドキする少数民族の方が多い。

それでも実際のところ、中国国内の真の少数民族は旅行者が立ち入れない地域で保護されている。そんな集落に立ち入るのは個人旅行レベルでは難しい。

なので「民族風情園」は私的には合格点だ。これなら最後の「水かけ祭りショー」も期待できる。タイの本番に向けて肩をならしておこう。

ショーはステージの上で踊っていた泰族の綺麗なお姉さんが、ショーの最後に観客に向ってお椀にすくった水をかけるという筋書きで、観客も参加できるようにバケツに水とお椀が用意されている。 

音楽が終わり水かけが始まる。なかなかトラディショナルだ。しかもお姉さんはみんな美人だ。みんな「きゃーきゃー」と泰族の綺麗なお姉さんと水のかけ合いを楽しんでもう地上に帰りたくない浦島太郎の気分だ。

なのに。

いつの間にか観客の漢族のオヤジ同士の水のかけあいに発展している。いつのまにか綺麗なお姉さんは、手馴れた風にそそくさと退散して片付けに入っている。

残された漢族のオヤジ同士が「きゃーきゃー」言いながら、水のかけ合いをしている。既にお椀などでの水のかけあいでなく、「バケツ VS ホース」の情緒もクソも無い民族紛争に発展している。

タイやヒラメはどうした。
なんでマッドマックスみたくなってる。
竜宮城が気がついたら鬼の哭く街カサンドラだ。

、、、。

うんざりだ。

うんざりだぞ、漢族ども。

もう宿に戻る。
その前にお姉さんと写真を、

バッシャーーーン

帰ろうとした私の背後からバケツの水が降ってきた。かろうじてカメラだけは濡れないように守り抜き「キッ!」と振り向き様に水をかけた親父を睨みつけた。

「あいやーぁ」

お前が言うな。

恐るべし漢民族。彼らの支配する地域に情緒とか、思いやりとか、重い槍とかは塵芥に等しい。そんな南国の夕暮れ。パンツまで濡れて宿まで30分歩かねばならない私に向かって、少し未来の私から伝えたい。

「哀しむなケンシロウ。哀しみを怒りに変えて生きよ。」

ユアーショーック!●5点

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