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【特別公開!】FFF Japanのメンバーが書いたチョムスキー&ポーリン『気候危機とグローバル・グリーンニューディール』の「まえがき」

Fridays For Future Japanのメンバーが「まえがき」を書いた、チョムスキー&ポーリン『気候危機とグローバル・グリーンニューディール』が今年12月18日に発売されます!今回は特別に出版社から許可をもらい、FFF Japanのメンバーが書いた「まえがき 気候正義とFridays For Futureの実践」を一部公開します!

本書では、活動家であり知識人、ノーム・チョムスキーと、世界最大の再エネ投資計画をオバマ政権下で監督したロバート・ポーリンが、気候危機を公正に解決するための「グローバル・グリーンニューディール」構想を語っております。Fridays For Future Japanのメンバーは、気候正義を求める活動から見えてきたことに基づいて、「まえがき」を書きました。本書についての詳細は、以下のリンクから!

気候正義の実現を目指すFridays For Future Japanの実践

 今年4月にFridays For Future Japanは、「マイノリティから考える気候正義プロジェク ト」を発足して以来、最大の汚染者である企業や富裕層の責任を追及し、気候危機の影響を 最も受ける人々と共に立ち、多くの犠牲の上に成り立つ「無限の経済成長のおとぎ話」を拒絶し、これまでとは全く違う世界を目指して活動してきた(3)。

 「たくさん働き、たくさん消費する」これまでの世代の生き方は、人間と自然を犠牲にし、ついに地球規模の気候危機を招いた。日本では「四大公害病」をはじめ、公害・環境破壊が多くの人々の命を奪ってきた。そして今日も人々が「過労死・過労自死」に追いやられ ている。例えば、私たちが労働者と一緒に長時間労働とCO2排出の削減を求めた自販機産業では、企業の利益のために労働者と自然が日々使い潰されている。

 そんな中、親世代より貧しくなる私たちにとって、昔のような生き方には魅力のかけらもない。富裕層は日に日に富を蓄え、その他大勢は日に日に貧しくなり、そして性差別や人種差別が激化するこの社会で、これまでのような生き方をしたいだろうか。

 そしてなによりも、グローバルノースの「豊かな」生活のために、グローバルサウスで大洪水や煙霧の中で未来を奪われる同世代がいる不正義に、私たちは憤りを覚えている。バングラデシュでは、住友商事とJICAが石炭火力事業を推進し、すでに現地では農民や漁民の生活の糧が奪われている(4)。そして発電所がフル稼働すれば、これからさらに多くの命を危険 にさらす。私たちは気候危機の影響を最も受ける国のひとつであるバングラデシュの同世代 と一緒に、現地で石炭火力発電所事業を増設する住友商事およびJICAと闘っている。

 活動を進めるオーガナイザーたちは全員、学生や若い労働者といった普通の若者たちだ。 汚染企業との闘いを通じて、普通の若者たちが集まり、システムを根本から変える大きな力になれるはずだ。

労働者との連帯から始まったプロジェクト

 私たちの活動は、労働者たちとの連帯から始まった。今年5月1日のメーデー・国際労働者 の日には「#労働者と連帯します」のハッシュタグと共に、学生や若い労働者のオーガナイザーたちがプラカードにメッセージを書き込み、SNSに投稿した。このアクションは、国内外の活動家からの支持を受け、新たな可能性を生んだ。

 私たちのアクションは、すぐに労働組合との連帯アクションにつながった。6月25日に は、自動販売機に飲料を補充する労働者で作る労働組合「自販機産業ユニオン」が業界全体 に気候対策を求めるストライキを行い、私たちは彼らと連帯アクションを行った。

 日本の自販機産業では、企業どうしの苛烈なシェア争いが起きており、街のいたる所にムダな自販機が設置されていて、一人当たりの自販機台数はヨーロッパの約400倍にものぼ る。そんな自販機産業では、グローバル企業が利益をあげるための大量生産・大量消費のために、多くの下請け労働者が過労死や過労自死、精神疾患の犠牲となり、大量に廃棄されるプラスチックや輸送による温室効果ガス排出により環境も破壊されている。需要を煽るため の見せかけだけの新製品の導入により毎回廃棄されるプラスチックダミー(自販機の購入ボタンの上にあるサンプル)と共に使い捨てられる20代・30代の労働者たちは、業界にムダな自販機の削減と労働時間の短縮、そしてCO2排出量の削減を求めて、ストライキを行ったのだ。この行動に応じて、私たちはCoca Colaをはじめとするグローバル飲料企業を相手に、 大量生産・大量消費を煽るような大量の自動販売機の削減を求めて、全国各地の自販機の前 で抗議をしたのだ。抗議の対象となる自販機を見つけるのに時間はかからなかった。

 本書でも強調されているように、気候正義運動にとって、労働運動との連帯はとても重要 だ。どんな社会も、労働によって成り立っている。本来、労働とは人間が自然と関わり合い ながら衣食住といった社会を維持するために必要なものを生み出すことだ。しかし私たちが 暮らす資本主義社会では、労働は企業が利潤を追求するための道具に成り下がっている。利潤を最優先にするシステムは、結果として労働者の過労死や過労自死、精神疾患を招いてき た。特に雇用から弾き出されてしまったら生きていけない日本社会では、どんなに劣悪な労働条件・労働環境であっても、労働者は雇用にしがみつかざるを得ない。労働者が長時間労働を続けている限り、生活のあり方を変えて自然へのケアを行うことは不可能だ。そして大 量生産・大量消費のために自然は搾取され、破壊され尽くされてきた。つまり、この社会の多数派であるはずの労働者は、企業や富裕層にとっての富を生み出すための力無き存在に成 り下がり、私たちの生活を支える地球環境に対して有害な労働であっても受け入れざるを得 ない状況にあるのだ。そんな中、企業の利益のために人間も環境も使い潰すシステムを変え るために、自販機産業ユニオンの労働者たちは立ち上がったのだった。

 生産のあり方の変容を目指す労働運動との連帯アクションは、日本の気候正義運動にとって大きな前進だった。なぜなら、自販機産業ユニオンのメンバーと私たちの行動は、これま で隠されてきた生産の現場に焦点を当て、人間にとっても地球にとっても持続不可能な経済 のあり方に疑問を呈したからだ。従来型の日本の「環境運動」は、多かれ少なかれ、「一人ひとりが出来ることをやろう」をスローガンに、個人の消費スタイルを変える啓発活動に陥ってきた。飲料業界は、大量消費を煽る一方で、消費者にリサイクルといったエコな行動変 容を求めてマーケティングを行ってきた。それにより人間も自然も破壊するグローバル汚染 企業の責任は隠されてきたのだ。そんな中、個人の消費スタイルを変える間接的な手法ではなく、生産過程で労働者が力を持つことは、労働者の手で直接的に気候変動への対処を行う ことを意味し、普通の人々が社会を維持する力を取り戻すという大きな意義があるのだ。

 労働運動と連帯する私たちの活動は、世界的な気候正義運動の潮流の中にある。例えばフランスでは、黄色いベスト運動と気候正義運動の連帯が実験的な「気候変動市民議会」へと結実し、普通の労働者や市民が気候危機と貧困の拡大への対策を提案している。これにより 「週28時間の労働時間」や「熱効率の悪い賃貸の禁止」など、普通の人々の生活を安定さ せ、地球環境への負荷を減らしていく策が議論されている(5)。これらは企業にとっての減収になり、企業は猛烈に抵抗する。そのため、普通の人々による闘いなしには実現されない。

 世界でも、日本でも、気候危機と経済格差の拡大を乗り越える普通の人々の闘いが着実に 前へ進んでいるのだ。

そしてグローバルな連帯と「学校ストライキ」へ

 最大の汚染者の責任を問い、今とは全く違う未来を目指す私たちの運動は国内に留まらない。今年9月24日に世界で一斉に行われた「グローバル気候ストライキ」のテーマは、先進国中心の運動を乗り越え、「最大の汚染者」である大企業や富裕層を相手に団結して闘うこ とだった(6)。私たちのプロジェクトも、バングラデシュの活動家たちと連帯し、現地の人々 の生活と環境を破壊する住友商事とJICAの政府開発援助(ODA)による石炭火力発電所の増 設に反対し、土地を追われた漁民・農民への補償・賠償を求めている。同時に私たちは、大 企業や富裕層の利益のための開発ではなく、バングラデシュの人々が主体となった気候危機 対策への援助を求めている。これらの実現のために、私たちは日本全国で「学校ストライキ」を行う予定だ。

 きっかけは、私たちのTwitterにFridays For Future Bangladeshの活動家たちからダイレクトメッセージがあったことだ。住友商事と国際協力機構(JICA)は、バングラデシュ南東部のマタバリで石炭火力発電所を推進し、多くの問題を引き起こしており、日本の活動家たちも一緒にこの事業に反対してほしいとのことだった。

 バングラデシュでは電力供給が足りているにもかかわらず、住友商事とJICAは現地の人々の犠牲の上に「マタバリ超々臨界圧石炭火力発電事業」を推進している。バングラデシュで は、これまで安定した電力を得られなかった家庭にも、現地の人々の手による小規模な再生可能エネルギーの導入によって電力が供給されるようになってきていたにも関わらずだ。

 この発電所は、日本の平均的な新規石炭発電所の21倍の二酸化硫黄と10倍の致死性粒子を排出し、地域の人々の早期死亡率を引き上げる可能性が指摘されている(7)。

 この事業を進めるにあたって、少なくとも2万人の現地住民が土地を追いやられ、生業を奪われてきた(8)。発電所建設のために周辺の川には土砂が注がれ、漁民の多くが土地を離れ、あらゆる有害物質と危険がつきまとう船舶解体業に流れたのだった(9)。

 そして言うまでもなく、バングラデシュは気候危機の影響を最も受ける国々のひとつだ。 同発電所の建設は、モンスーンの際の洪水被害が悪化する原因となっている。2018年には、 周辺31の村のうち22の村が浸水し、最大で1万5千人が被害を受け、5件の溺死事件が起こ り、そのとき亡くなった全員が子供だったのだ(10)。

 また、この石炭火力発電所の操業に必要な石炭は、インドネシアやオーストラリア、そして南アフリカから、マタバリ港を通じて輸入されるようだ。そのため、JICAはこれらの石炭 を輸送するために同地域に海港も建設している(11)。この石炭火力発電所で発電された電力 は、バングラデシュ南東部に計画されている巨大産業経済ゾーンで消費される予定だ。グロ ーバルサウスの人々の命や生活、地球環境を蔑ろにし、日本を含め世界の大企業や富裕層 は、自分たちの利益のために石炭火力発電所の建設や港湾施設の整備のような大規模な開発 を推し進めているのだ。

 こういった背景から、私たちはバングラデシュの活動家と共に、住友商事とJICAに対し て、石炭火力事業からの完全撤退と、土地を追われた漁民や農民への補償・賠償、そしてバングラデシュの人々が主体となった気候変動対策への援助・再投資を求める要求書を提出した(12)。

 しかし住友商事とJICAは私たちの要求を無視し、石炭火力発電所の建設を継続している。 そのため、私たちは10月22日に「グローバル気候ストライキ」の第二弾として、住友商事とJICAへの抗議、さらに日本各地での「学校ストライキ」を行うことにしたのだ。

 私たちが学校ストを行うのには理由がある。日本の学校では、日本の国際貢献は途上国の 経済を開発・発展させる良いものとして教えられる。だが現実には、バングラデシュでの石 炭火力事業を見ればわかるように、日本企業の利益のための開発が現地の人々の生活と環境 を破壊しているのだ。そもそも日本の高度経済成長は、日本以外のアジア諸国の犠牲なくし て成り立たなかった。学校では本当のことを教えてくれないのだ。

 そのため、私たちは学校を抜け出して、街や広場、公園に集まり、日本の国際貢献の真実 を自分たちで学び、知を取り戻そうと決めた。今までとは全く違った方法で、自分たちの力でグローバルサウスの人々と連帯する方法を探るのだ。

さいごに 気候正義を求めて闘うグローバルな運動のオーガナイジングを!

 私たちは、普段思わされているほど力無き存在ではない。気候危機が加速し、資本主義の 矛盾が激化するなか、私たちは希望を失っていない。なぜなら、私たちは気候正義運動を通じて、社会を変える力を取り戻し始めているからだ。当時15歳だったグレタさんは、たったひとりで学校ストライキをし、現在では世界各地の同世代がシステムチェンジを求めて学校を抜け出している。今やFridays For Futureは、グローバル汚染企業にとっての大きな脅威 となってきている。同じ目的のために仲間を集め、団結するオーガナイジング(組織化)の力があるからだ(13)。

 資本主義社会でバラバラにされ、力無き存在にさせれてきた私たちは、政治家や官僚、そして経営者こそが社会を変える存在だと思い、彼らの良心へ淡い期待を寄せてしまうかもしれない(14)。しかしすでに見てきたように、社会を変える大きな原動力は、普通の市民や労働者にあるのだ。そして、そこには運動の組織化を進めるオーガナイザー(組織者)がいる。

 例えば、普通の市民と労働者の怒りがフランス全土を焼き尽くした黄色いベスト運動と若者の気候正義運動が連帯できたのは、活動家たちが労働者に働きかけ、組織化を行ったからだった(15)。

 オーガナイザーになるには学歴も資格も必要ない。「社会を変えたい」という熱い思いが あれば誰にでもなれる。Fridays For Futureには、10代・20代の若いオーガナイザーがたく さんいる。私たちは、企業や国の大きな力に束ねられるのではなく、Fridays For Futureの ように自由な意志で集団を作り、システムを根本から変える大きな力になれるはずだ。

2021年10月 Fridays For Future Japan

脚注

(3)グレタさんは「国連気候行動サミット2019」で、大絶滅の危機が差し迫るにもかかわらず、お金と 無限の経済成長のことしか考えていない世界の「リーダー」たちを前に、批判のスピーチをした。ス ピーチ全文:https://www.theguardian.com/commentisfree/2019/sep/23/world-leaders-generation -climate-breakdown-greta-thunberg

(4) No Coal Japan. (2020). 住友商事のマタバリ石炭火力発電所建設が愚策である10の理由. https:/ /nocoaljapan.org/ja/10-reasons-why-sumitomo-matarbari-coal-plant-terrible-idea/

(5)Lecœuvre, C. (2021). Work Less, Pollute Less: The Virtues of a 28-Hour Week. Trans. Lucie Elven. Le Monde diplomatique, June 2021. https://mondediplo.com/2021/06/13working-hours

(6)FFF Japanの公式ウェブサイトでは、グローバルサウスの活動家が中心となって書いた声明文の和 訳を掲載している。今回のグローバル気候ストライキの論点がよくわかるはずだ。https://fridaysforfuture.jp/fffinternationalが求めること

(7)Greenpeace. (2019). Double Standard: How Japan’s Financing of Highly Polluting Overseas Coal Plants Endangers Public Health. https://www.greenpeace.org/southeastasia/publication/2887/double-standard-how-japans-financing-of-highly-polluting-overseas-coal-plants-endangers-public-health/

(8) Bangladesh Working Group on External Debt (BWGED). (2018). Initial Observation of BWGED on Matarbari Coal Power Plant. https://bwged.blogspot.com/2018/08/initial-observation-of-bwged-on.html

(9)Yousuf, M. (2021). The Killing of Kohelia. The Daily Star. https://www.thedailystar.net/frontpage/news/the-killing-kohelia-2033253

(10)Start Network. (2018). Cox's Bazar: Maheshkhali - Water logging. ReliefWeb. https://reliefweb.int/report/bangladesh/coxs-bazar-maheshkhali-water-logging

(11)日本貿易振興機構(JETRO). (2021). 日系企業開発のマタバリ港に初の外航船が到着. https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/01/a9f925604bdfedde.html

(12)気候正義プロジェクトとFFF Bangladeshによる、住友商事とJICAへの要求書. https://note.com/fffjapancjfm0518/n/ne44ce436442d

(13)活動家集団による社会運動の組織化を通じて、普通の人々が力を取り戻すイメージは、アリシ ア・ガーザ著『世界を動かす変革の力 ブラック・ライブス・マター共同代表からのメッセージ』 (人権学習コレクティブ監訳、明石書店、2021年)を参照。

(14)どんな社会も労働によって成り立っているので、本来ならば労働者には社会を変える大きな力が あるはずだ。しかし現実には資本主義社会でバラバラにさせられた労働者たちは、「袋一杯のジャガ イモ」のように力無き存在になっている。その中から自然発生的に運動が生まれてくるのではなく、 本書で紹介されているトニー・マゾッキのようなオーガナイザーたちが労働者の中から能動的な運動 を形成するのだ。このためチョムスキー氏は、「袋一杯のジャガイモ」というマルクスの言葉を引用して組織化の重要性を訴えている。

(15)2021年1月にNHKで放送されたドキュメンタリー「クライメート・ジャスティス パリ“気候旋風”の舞台裏」は、黄色いベストと若者の連帯を実現した、若い活動家による組織化の過程を描いてい る。このような地道な組織化は、世界各地で若者の手によって行われているのだ。


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