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Disc Interview-01:bit quiet placeが描く“静と動”の世界。新曲「音の鳴らないレコードを聞かせて」での挑戦【前編】

 昨年秋、6枚目のアルバム『metronome, monochrome』を発表したジャズ・ロックバンド bit quiet place。ほとんど期間をあけずに新曲『音の鳴らないレコードを聞かせて』が配信シングルとしてリリースされた。これまでの彼らのジャズのエッセンスを保ちながら、音の展開などに新しさを感じさせる一曲となっている。
 apple musicの日本国内ランキングでもTOP10入りを果たすなど追随を許さない猛進撃が続く彼らに新曲の作られた背景について取材を行った。約5,000字強にわたるインタビューとなったが、『音の鳴らないレコードを聞かせて』で彼らがリスナーに伝えたかったことについて、歌詞の世界感の面、音楽的な面など様々な視点で話を聞くことができたので、ファンはもちろん、これから彼らの曲を聞いてみようと思っている人にもぜひ読んで頂きたい。



『音の鳴らないレコードを聞かせて』は、静寂がテーマ

ーまずは今回のbit quiet placeの新曲『音の鳴らないレコードを聞かせて』について教えて下さい。

倉崎(Vo.Gt):今回の新曲『音の鳴らないレコードを聞かせて』は、静寂というテーマを探求しているんです。音がないと思われる場所でも、実は何かしらの音が存在する、それを感じ取ることの大切さを表現しています。

都筑(Gt.):そうだね、音楽的にはジャズとロックの要素を融合させています。

野田(Pi.):ピアノの部分では、メロディーを細かく調整して、曲全体の雰囲気をより豊かにしました。感情の流れを大切にしながら、音のレイヤーを重ねています。

伊織(Dr.):ドラムでは、静かなパートと力強いパートのコントラストを大事にした。その変化が曲に動きを与えている。

ーなるほど。どんなメッセージを込められたんですか?

倉崎:この曲では、「音のない場所はない」という考えを表現していて、耳を澄ませばいつでも何かしらの音が聞こえてくるというメッセージを込めています。特に、歌詞の「音の鳴らない けど聞こえる 回り続ける限り」という部分には、その思いが強く反映されていますね。

ー制作は倉崎さんが中心に?

都筑:倉崎のアイデアとビジョンが曲の基盤となっています。ただ、曲作りはチームワークが大切ですから、私たちもそれぞれのアイデアを持ち寄っています。

野田::そうですね。倉崎さんが曲の大枠を作り上げた後、私はメロディやアレンジの面で色々と提案しました。特にピアノのパートでは、曲の感情を表現するために細かいニュアンスを加えることに注力しました。

伊織:リズムに関しては、倉崎のイメージを大切にしつつ、私なりの感じを加えた。バンドの音楽は、それぞれの個性が合わさって初めて完成するんだ。

静けさの中にも強い生命力や感情が潜んでいる

ー音楽的にはタイトルやコンセプトとは裏腹にイントロからエネルギッシュなスタートですがこれはなにか意図があるんですか?

倉崎:実は、そのギャップには意図があるんです。イントロを情熱的にすることで、聴き手を一気に曲の世界に引き込みたかったんですね。静寂を感じるタイトルとは対照的な、強いエネルギーを感じるイントロが、曲の中での静と動のバランスを生み出しています。この対比は、静けさの中にも強い生命力や感情が潜んでいるという私たちの音楽的な表現です。静と動、静けさとエネルギーの間のバランスを通じて、聴き手に深い印象を残したいと思っています。

都筑:タイトルとイントロの対比は、実は聴き手を驚かせるための一種の演出なんだ。情熱的なイントロから静寂に向かう流れが、曲に深い印象を残すんじゃないかと。

野田:そう、イントロの情熱的な部分と静けさの部分が交互に来ることで、曲全体にダイナミズムを持たせることができました。ピアノもその流れに合わせて、感情の高低を表現しています。

ーこのイントロはどなたの着想なんですか?

都筑:イントロの着想は、実は僕が出したんです。ジャズとロックのエッセンスを融合させたいと思っていて、それで情熱的なスタートを切ろうと提案しました。

倉崎:そう、都筑のアイデアを聞いて、すぐにその可能性を感じましたね。彼の提案を基に、曲全体の構成を考え直すきっかけにもなったんです。

野田:都筑の提案を受けて、ピアノのパートもそれに合わせてアレンジを加えました。イントロのエネルギッシュな雰囲気が、曲の展開に大きく影響を与えています。

ー伊織さんはどうですか?今回のイントロについて

伊織:イントロね...。ドラムとしては、情熱的なスタートに合わせてリズムを構築したよ。エネルギーを感じるイントロが、曲の残りの部分とのコントラストを際立たせる。それが重要だった。

ーなるほど。イントロのアレンジの中でも特にジャジーな要素の中にオーボエが聞こえるのが珍しいと思いました。

倉崎:確かに、ジャズの中でオーボエを取り入れるのは珍しい選択かもしれません。オーボエは一般的にクラシック音楽でよく用いられる楽器ですが、私たちはジャズ・ロックというジャンルの中で新しい音色を探求したいと思っています。オーボエの独特な響きは、曲の雰囲気に深みを加え、聴き手に新鮮な体験を提供します。

ーそういう意図があったんですね。

倉崎:表現の上でも、オーボエの柔らかく、やや憂いを帯びた音色が、曲のテーマである「静寂の中の音」に対する私たちの探求心をあらわしたかったんです。オーボエを取り入れることで、ジャズとロックのエッジの効いたサウンドに対照的な、繊細かつ情感豊かな要素を加えることができました。

特に楽器の音色を際立たせる方法に焦点を当てた

ーこれまでの楽曲と比較してなにか工夫されたところはありますか?見事にapple musicでも月間ランキングトップ10入りをしました。

倉崎:最も顕著なのは、音楽制作におけるアプローチの変化です。従来の楽曲では、ジャズとロックの融合に重点を置いていましたが、今回はさらに音の質感や空間を意識した作り方を心がけました。具体的には、より多様な楽器を使用し、それぞれの楽器が持つ独特な音色を活かすことに注力しました。特に、前述のオーボエのような、ジャズ・ロックでは一般的でない楽器の導入は、私たちにとって大きな挑戦でした。

ーレコーディングの観点でも、今回はいつもと違ったとお聞きしました。

倉崎:楽曲全体の音響効果を向上させることにも取り組みました。音のレイヤリングや空間感を重視し、聴き手が曲の中で異なる次元の音を体験できるようにしました。これらの工夫が、apple musicの月間ランキングでの成功に繋がったと思っています。私たちは、聴き手に常に新鮮な体験を提供し続けることを目指しており、今回の新曲がその一環となりました。

都筑:そうだね。録音技術にも工夫を凝らして、特に楽器の音色を際立たせる方法に焦点を当てた。特に、異なる音楽ジャンルの要素を融合させることで、新しい音の探求を試みましたね。

野田:ピアノでは、メロディの微妙な変化により感情的な深みを加えました。それが、曲の総体的な魅力を高める効果をもたらしたと思っています。

伊織:ドラムでは、リズムの細かい変化によって曲のダイナミクスを強化した。これまでとは違うアプローチでね。

ーレコーディングスタジオを変えたりとかもされたんですか?

倉崎:いいえ、今回はスタジオ自体は変えませんでしたが、録音技術に関してはいくつか新しいアプローチを採用しました。主に、マイクの配置や種類、録音時のアコースティックセッティングに注力しました。たとえば、楽器ごとに最適なマイクを選び、それぞれの音色をより自然かつ鮮明に捉えることに重点を置きました。

ーなるほど。あくまでレコーディングの手法を変えた形なんですね。

倉崎:ミキシングとマスタリングのプロセスも、従来の方法とは異なるアプローチを採りました。音のバランスやダイナミクスに細心の注意を払い、曲の持つエモーショナルな要素を最大限に引き出すよう努めました。

ーたしかに、いつもより非常に立体的な音像が印象的でした。サビになった途端に静寂が訪れて、サビの後半で熱量を帯びる物語性も非常に引き込まれます。サビの中にサビがもうひとつあるような感覚です。

野田:その感想、とても嬉しいです。私たちは、サビの部分に特に工夫を凝らしました。まず静寂で聴き手の注意を引き、その後でサビの後半に向けて徐々に熱量を高めていく。これによって、曲に物語性とドラマを加えています。

都筑:まさに「サビの中のサビ」という感じですね。この部分のダイナミクスは、聴き手に強い印象を残すために意図的に設計されました。サビの後半でのエネルギーの爆発は、曲のクライマックスを強調しているんです。

倉崎:サビの構造には特に注意を払っています。サビの初めに突然訪れる静寂は、曲全体のテーマである「静寂の中の音」を際立たせるためのものです。静けさから始まり、次第に高まる熱量が、曲の深い感情を引き出すんです。

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