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「ビジネスエリートになるための投資家の思考法」

「ビジネスエリートになるための投資家の思考法」(奥野一成 ダイヤモンド社)

投資家の著者による、投資家の考え方、ものの見方を伝える本。インベスター(投資家)は短期的な株価の上下ではなく、長期的な企業の価値や、事業の経済性に注目して、自分なりに仮説を立てて事業分析を行うという考え方は、非常に参考になった。投資だけの話ではなく、日々の生活における主体的なものの見方の大切さを述べており、特に若い人にはいい本だと思った。

アマゾンのサイトにて
 インベスターの特性
インベスターは鵜匠である
インベスターは株価の暴落を喜ぶ
インベスターは想像力を駆使する
インベスターは時間を味方につける
インベスターは良い経営ができる
インベスターは合理性を重視する
インベスターは価格よりも価値にこだわる

 すべての経済活動は顧客の問題解決である
 お金は問題解決してくれた人や企業に集まります。難しい問題であればあるほど、解決できれば付加価値が高まります。
 どのような企業・職種であっても必ず「顧客」が存在し、そこには解決するべき問題があります。なぜなら経済活動はすべて問題解決だからです。(29-35ページ)

 問題解決が複雑化している
 モノがあふれる現在の先進国では、顧客の抱えた問題が「機能」という具体的かつ画一的なものから「意味」という抽象的かつ多様なものに移っているのです。
 このような意味的価値の世界では、顧客の問題は「解決」する前にまず「発見」しなければなりません。顧客自身も気づいていない問題を発見しようというのですから、非常に困難かつ複雑なプロセスです。(36-37ページ)

 ビジネスの3つの要素
 この章ではインベスターシンキングの入り口として、「インベスター(投資家)」という生き物の性質をお話ししていきます。
 その前提知識として、まずは本書を通してのキーワードである、「事業(ビジネス)の経済性」という言葉とそれを構成する3つの要素について説明しておきます。
 事業の経済性とは、その事業の成長性や収益性を決定づける条件のことですが、たまたま市況がよかったとか、ヒット商品に恵まれたなどの一時的な要因ではなく、構造的なものを指します。それは以下の3つの要素から構成されると考えています。
 1.付加価値: その企業が提供する財・サービスに顧客にとっての付加価値があるのか、顧客にとって必要なもの、問題解決につながるものか。
 2.競争優位性: 圧倒的な競争優位性があるのか、参入障壁と言えるまでに高められているのか。
 3.長期潮流: 人口動態のような不可逆的(元に戻りにくい)な長期潮流があるのか。(44-45ページ)

 本当に保有企業の経済性に持続性があると評価できるなら、それらのマクロショックによって大きく株価が下落するタイミングはむしろ喜ばしいことなのです。なぜなら株価下落こそ、その保有先の企業価値に対する持ち分を安価で増やすことのできる絶好の機会だからです。
(中略)
 相場の暴力の前には人間は無力です。それだけ人間の心は弱いということです。大きなマクロショックが起こり、経済にストレスがかかるときは、日経新聞を含めすべてのニュースが「これでもか」というくらいネガティブな情報を流してきます。この強力な同調圧力に対して「NO」と言うには、「より強力なYES」を持つことです。
 普段から心がけておくべきは、不可能な相場予測などに時間を費やすのはやめて、事業の経済性を見極めることに焦点を当てましょう、ということです。すべての企業について、その事業の経済性を見極めることは不可能ですし、また不要です。見極めることのできる確率の高い事業・企業のみを「選択」するのです。「投資において最も重要なことは、実際に自分がどれだけ知っているかではなく、むしろ自分が知らないことをどれだけそれらしく決め付けるかにある」というウォーレン・バフェットの言葉は、事業の経済性を見極めようとする賢明な長期投資家を励ますものだと考えます。(54-55ページ)

 株価は利益の影、利益はビジネス(事業の経済性)の影 (60ページ)

 物事の本質は時代がどれほど移ろっても変わることはありません。大事なことは、資本家として企業の営む事業や企業経営者を主体的に選択し、その投資先企業の企業価値増大を時間をかけて楽しむことなのだと思います。金額の多寡など取るに足りないことです。想像力のある人であれば、だれでもインベスター(=投資家)になれるのです。(64ページ)

 インターネットは情報へのアクセスを完全にオープンなものにしました。誰もが障壁なく情報にアクセスできる時代、情報そのものには価値がなくなったと言っていいでしょう。それに反比例する形で「考える」ことの価値が増大したのです。(90ぺーい)

 企業が提供している財・サービスの付加価値を考える時に、供給者サイドからではなく、需要者・利用者サイドから見ることがインベスターシンキングの要諦の一つです。(107-108ページ)

 事業のポジショニングを見極める上で大事な視点が3つあります。

  1. 俯瞰的に見る

  2. 動態的に見る

  3. 斜めから見る (112ページ)

 IBMは1992年に「ThinkPad」というノートパソコンを開発、販売し、ヒットさせました。しかし2005年、中国のレノボという会社に、売上で2兆円規模もあったこのパソコン事業を売却します。
 IBMは数千人ものPhD(博士号)、エンジニア、データサイエンティストを抱えている人材の宝庫ですから、「付加価値の低いパソコン(ハードウェア)を作っている場合じゃないよね」といち早く気がついたのでしょう。付加価値の低いパソコン事業から手を引き、データ解析やデータ管理といった付加価値の高い川上の事業にシフトしたのです。
 これを経営資源配賦(キャピタルアロケーション)といいます。選択と集中という言葉で説明されることもありますが、ハードウエアからソフトウエアへ、付加価値の低い事業から高い事業へとビジネスの「ポジショニング」を転換していったわけですね。(120-121ページ)

 今までは規制が追いつかなかったことを理由に、GAFAを始めとするプラットフォーマーは無料で個人情報を仕入れることができていました。しかし、今後は個人情報入手と管理について、国家による規制が導入されるのではないかと私は考えています。そうなればプラットフォーマーの産業バリューチェーンにおける付加価値は低下し、それに従って収益性と成長力は鈍化することになるでしょう。
 このように我が世の春を謳歌しているGAFAといえでも、産業構造を時間軸で動態的に捉えると、必ずしも現在の経済性を維持できる保証はないのです。逆に言えば、大胆な仮説をもって事業の経済性を動態的に捉えることができれば、自らのビジネスや投資の持っているリスクを把握し、チャンスに変えることができるのです。(139-140ページ)

 以上、インベスターシンキングの3つの視点について具体的な事例をあげて説明してきましたが、それぞれの視点に通底する大事なことは、業種、セクター、国などの固定観念を捨てて、財・サービスの本質を需要サイド(利用者、消費者)から掘り下げるということです。
(中略)
 顧客が本当に欲しているものは何なのか、その財が顧客にもたらしている付加価値(=問題解決)が何なのかを、需要サイドからゼロベースで考えることで、立体的・空間的に捉えられるようになります。(173ページ)

 企業分析のプロセス

  1. 数値化する/可視化する 想像力を膨らませる

  2. 比較する 他と比べる/過去と比べる

  3. 分ける 理解できる要素に分解する/フレームワークを活用する

  4. 捨てる 大事な事に集中する

  5. 組み立てる 仮説構築->次の分析へ
    (180ページ)

 インベスターシンキングをあなた自身に適用する
 ここで提案したいのが、インベスターシンキングの手法を活用して、あなた自身の経済性(付加価値、競争優位性、長期潮流)を見極めるということです。具体的にはインベスターシンキングの3つの手法、1.俯瞰的に見る、2.動態的に見る、3.斜めから見る、を使って、自分自身を見つめ直すのです。(210-211ページ)

 自身の今の仕事に求められているスキルを「英語です」「表計算です」「財務です」といった表層的なレベルで捉えるのではなく、もっと普遍化、一般化した深いレベルまで掘り下げて、広く捉えることで、将来の選択肢を大きく拡げることも可能になります。(215ページ)

 最後に「長期潮流」です。勘違いしてもらいたくないのは、「これからはXXXが来る」「次のトレンドはXXXだ」といった話ではないということです。私が長期潮流と言う時は、人口動態、人間の本性に根ざした欲求、歴史的に導ける必然のように不可逆的に起こってしまうものを指します。
 これは自分自身に適用する場合も同じです。あなたが現在関わっている事業・産業について、あなたなりの「見立て」を持つということです。過去の事実と、それが及ぼした結果について整理する中で、あなたは自身の事業について、何らかの「将来に関する仮説」「時代に関する見立て」を考えてみるということです。(215ページ)

 ここでは、さまざまな金融資産、いわゆるアセットクラスにおいて、どのアセットクラスが価値を生み、どのアセットクラスが価値を生まないのか、について簡単に述べてみたいと思います。
 1.何も生まない資産、2.貨幣ベースの資産、3.価値を生む資産の3つに分類していますが、この分類は、2011年のウォーレン・バフェットの「株主への手紙」を参考にしつつ、2022年現在の状況を加味した考察です。この切り口について興味のある方はぜひ原典である「株主への手紙」にあたってみてください。(220ページ)

 ちなみに市場のセンチメント(心理状態)を知るためには、CNNの「Fear & Greed Index」を参考にすると良いと思います。

 前述のとおり、市場が悲観している時はインベスターにとってはチャンスなので、私なんかはこの指数が「Extreme Fear」(恐怖の極み)に入ってくると、ワクワクしてしまいます。(241ページ)

 最近、マスコミにインタビューしていただく機会も多いのですが、必ずと言っていいほど、「日本企業の低収益の原因はなんですか?」「日本の経営者の問題はなんですか?」「日本はどうすべきと思いますか?」「日本人の悪いところはなんですか?」という「日本は...?」的な質問を受けます。そんな時は必ず「日本は、」「日本人は、」「日本企業は、」という主語が世の中を暗くしている、とお答えするようにしています。
 「私は、こうしたい」「私たちは、こうしたい」という主語と未来志向が大切だと思います。これはなにもポジティブシンキングが大事という精神論ではありません。
 ある企業の収益性が悪いのは、企業そのものが悪いのであって、日本企業であることが原因ではありません。仮に日本人が勤勉な民族だとしても、それがあなたとどう関係があるというのでしょうか。私は「日本が観光地として世界1位の評価をうけました」的な日本礼賛系ニュースもどうでもいいと思っています。評価されないよりもされたほうが良いのは事実でしょうが、「だから何なん?」って思ってしまいます。すみません、天邪鬼で...(笑)。
 そもそも私は、自分以外を主語にして語ることは、自分がダメなことの免罪符になっているのではと思っています。自分が上手くいっていないのは「日本が上手くいってないからだ」、という論理は部分的な事実ではあるものの、「だからどうしようもないやん」的な原因論に立脚しています。
(中略)
 ユニ・チャームの社是に「原因自分論」というものがあって、当社授業インが持ち歩く手帳の中にも刷り込まれています。
 創業者の高原慶一朗氏の言葉ですが、「物事の原因と責任は全て自分にある。自分の非力さに原因を求め、他に責任を転嫁しない。原因を自分に求めることにより失敗の教訓を生かす事ができ、人は成長する」(高原豪久著「ユニ・チャーム共振の経営」より)というものです。(260-262ページ)

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