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「大学職員のリアル」

「大学職員のリアル」(倉部史記 若林杏樹 中公新書ラクレ)

元大学職員の著者による、大学職員の実態や舞台裏についての本。そもそも大学職員が人気職であるということを知らなかった。「年収一千万以上で仕事も楽勝」という噂も、本当なんだろうかと思う。「会社員」の一言で一括りにできないように、「大学職員」と言っても、いろいろな方がいるだろうと思う。ただ、日本の大学の現状を客観的にきちんと捉えて書いており、現在大学職員の方にも、また大学職員を目指している方にも良い本だとは思った。巻末に「大学職員のお仕事カタログ」として、教務、学生支援、学生相談など、大学のいろいろな部署とその説明が書かれているが、最後に「箱根駅伝担当」という部署が紹介されていて笑ってしまった。確かに一部の私大にとっては広報戦略上、重要な部署なのであろう。

 日本では正社員としてひとたび社員を雇用すれば、簡単に解雇はできません。事業内容が急に変化しても、企業の責任下で配置転換や研修を行い、社員の雇用を維持することが求められます。こうした人事制度の中では、特定分野で突出した専門性を持っている人よりも、会社の辞令に従って異動し、必要な業務を覚え、周囲とうまくコミュニケーションを取りながら新しい仕事に馴染んでいける人が重宝されることになります。受験で難関大学に合格したという意味での学歴(学校歴)を重んじたり、「コミュニケーション力」を新卒採用で重視したりといった日本企業の慣習も、こうした事情によるところが大きかったのです。このような社会慣習がある限り、大学が社会人学生獲得のために努力しても、やはり簡単にはいかないのでしょう。(64ページ)

 日本の大学進学率は現在50%を超え、トロウが言うユニバーサル・アクセス型の段階へ入っています。大学は勉強のできる人だけが一部の専門職やエリートを目指して学ぶ場ではなく、「社会に出るため」「周囲がみな行くから」といった理由で誰もが学びに来る場になりました。世界レベルの研究成果を上げる大学から、高校までの学修内容を十分に理解しているとは言えない学生に基礎的な学習スキルを習得させる大学まで、極度に多様化した状態です。もはや一言で「大学とはこういうもの」と定義することはできません。(67ページ)

 「The Chronicle of Higher Education」は高等教育の話題を専門的に扱うアメリカのメディアで、世界中に読者を持っています。その求人欄には教員や学長などの上級管理職に加え、職員のポストも掲載されています。
(中略)
(83-84ページ)

 マネジメントに必要な知識は座学でも学べますが、実践力を磨くためには、「小さなマネジメントを繰り返し経験する」という方法が最も効果的です。学生の様子やさまざまなデータから何らかの仮設を立て、検証し、問題解決のための施策を考えるという一連の流れは、別に管理職でなくても経験できることです。別にいきなり組織全体を変えなくても良い。与えられた小さな業務の中でも問題発見・解決のトレーニングはできます。入職1年目からこうした仕事に着手して構いませんし、むしろ早くから組織として若手にこうした経験を積ませないと人材が育ちません。(98-99ページ)

 同じ規定に従って業務を行うにしても、担当する職員によっては学生や教員のことを第一に考えた、価値あるアウトプットが生まれます。そうでない職員が担当すれば本当に最低限の、悪い意味でお役所的な手続きになり得ます。規定主義の原理で動く組織でこそ、実はその規定の本来の目的、「規定の先にあるもの」を考えた対応をできるかどうかが大きな意味を持つのです。(103ページ)

 いま職員として働いている方は、どうすれば良いのでしょうか。外部からやってくる人材には「How to」でなかなか勝てない。であれば、「What」を磨き上げることを私はお勧めします。大学とは何か、必要な成果は何か、学生の学びのために何が必要かといった、大学を構成する本質の部分を徹底的に考え、さまざまな部署で形にしていくのです。自学が掲げた建学の精神や教育ミッション、目指す社会のビジョンなどを誰よりも深く理解し、配属された部署の業務に合う形で実践する。多くの学生を自分の目で見て、さまざまなデータに触れて、いま起きている課題は何かと考える。そうした実践の蓄積こそが、プロパー職員の武器になり得ると思います。(155ページ)

 本書では就職・転職市場での大学職員の人気ぶりにしばしば触れていますが、先述の通り、以前からこのように人気だったわけではありません。なぜ現在のようになったのかは不明です。ただ、大学職員志望者が集まるグループチャットやSNSでの投稿、そして今回実施したインタビューなどから、人気を集めているポイントは窺えます。
 見かける頻度が高い意見として、以下のようなものが挙げられます。
 ①給与水準・待遇の点で恵まれている
 ②労働環境がホワイトである
 ③学生の成長に関われる仕事である
 ④社会的意義の大きい職場である
(180ページ)

 お勧めの情報源として、「大学職員への道(https://www.大学職員への道.com)」というウェブサイトをご紹介します。個人の方が20年以上前から運営されているサイトで、大学職員の求人を探すならまずはここをチェックせよと言われることもある老舗サイトです。現在もさまざまな大学の求人情報が掲載されています。ご自身で各大学の公式サイトを巡回するのが難しいという場合は、こちらをチェックしてみるのも良いでしょう。(212ページ)

https://www.大学職員への道.com

 今回、多くの現役職員にインタビューをする中でしばしば聞かれた言葉がありました。それは「大学人」です。たとえば、
 「大学人の一人として、若者が抱える課題に関するデータは追っています」
 「大学人であれば、生涯にわたって学び続ける人であってほしいですね」
 「大学人同士としてぜひ意見交換したいです」
 ‥‥といった文脈で使われます。辞書的な意味は「大学で働く教職員」なのでしょうが、それを超えた、大学業界で働く者の誇りや矜持、所属組織を超えた連帯といったニュアンスが加味されているようです。(228ページ)

 近年、大学・専門学校進学後の中途退学(中退)が世間の注目を集めています。2012年時点でのデータでは、大学進学者の8人に1人が中退していました。仮に高校1クラスから35人が大学へ進学したとして、そのうち4~5人程度が中退した計算になります。さらに別の4~5人程度は留年を経験。実に4分の1が、大学を4年で卒業していませんでした。一般的にイメージされているよりも、今の大学は卒業しにくいのです。(230ページ)

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