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「ネットの高校、日本一になる。」

「ネットの高校、日本一になる。」(崎谷実穂 KADOKAWA)

フリーランスライターの著者による、角川ドワンゴ学園が運営する通信制高校「N高等学校(N高)」についての本。コロナ禍の2020年にオンライン講義を公開したのは割と話題になって知っていたが、高校としていろいろな取り組みをしているのがわかって面白かった。コロナ禍で普通の高校もオンライン授業になった時に、N高の特色が明らかになったとも言える。コロナが終わって、全てがコロナ前に戻ろうとしているが、オンラインが全て悪というわけでもない。N高のようなオンラインの教育の良さや限界について、改めて考え直しておくべきなのではと思った。ミネルバ大学のようにオンラインのハイレベルな教育もあるのだから。

フィギュアスケーターの紀平梨花選手がN高に入学したとか、東大・京大の合格者を出したとか、プログラミングを本格的に学べるとか、起業や投資に関する特別授業があるとか、教員にとっても働きやすいであるとか、いろいろ特色のある高校であることが読んでわかった。もちろん出版社がKADOKAWAなので自画自賛であり、割り引いて考える必要はあると思うが、従来の高校以外の選択肢として面白いと思った。

 そんな混沌とした状況(コロナ禍)のなか、いつもとほぼ変わらない学生生活を送っていた子どもたちがいた。N高等学校、通称N高の生徒である。N高は2016年に開校した、角川ドワンゴ学園が運営する通信制高校だ。
 N高の生徒たちは新型コロナの流行前から、教室での一斉授業を受けていない。高校卒業資格取得のための授業、いわゆる普通の授業は、N高が独自で開発した学習アプリ「N予備校」でおこなっている。パソコンやタブレット、スマホで、いつでもどこでも自分のペースで授業を受けられ、もちろん質問だってできる。生配信の授業では、リアルタイムでコメントを書き、先生や他の受講生とコミュニケーションを取ることも可能だ。(4ページ)

 しかし、入学の面談をするなかで、「定期的に一定の場所に集まり、仲間と学習する体験をさせたい」という保護者のニーズが強いことがわかってきた。また、生徒へのアンケートでも「通学する場所があれば通いたいですか?」という質問に対し、相当数の生徒が「はい」と答えたことを踏まえ、2017年に通学コースが設置された。従来どおりオンライン授業とテストとスクーリングのみで卒業を目指す生徒は「ネットコース」を選択することになる。(28-29ページ)

 アクティブラーナーは、企業との特別な共同プロジェクトに参加することもできる。この日の授業は、JR東日本都市開発のオリエンテーションをもとに、高架下エリアを活用した商業施設を考えるという内容であった。架空の設定でアイデア出しをするのではない。生徒たちは3カ月かけてエリアの選定からリサーチ、ペルソナ設定、コンセプト開発、どの店舗を誘致したいかといった具体的な提案に向けて活動するのだ。社会人向けのワークショップと言っても通じる、高度な内容である。(31-32ページ)

 こうしたN高独自の通学コースができたことにより、従来であれば全日制の高校に進学していた子どもたちが、N高を志望するケースが増えたという。教科の授業はオンラインで効率的にすませ、語学やプログラミングスキル、デザインスキル、リーダーシップ、自己表現能力などを磨く勉強をしたい。そう思う人にとって、N高は魅力的な選択肢に映る。通信制の高校が、全日制の高校と同じ土俵で戦えるようになったのだ。この変化は生徒の増加に大きく寄与している。
 その証拠として、現在のN高は転校生よりも中学を卒業して4月に新入生として入る割合のほうが大きいのだ。通常の通信制高校は、今通っている学校でうまくいかなくなったために転校してくるケースが多い。しかし、N高はそうではなく、高校受験のタイミングで選ばれる進学先の一つになっている。しかも、新入生の第一志望率は90%を超えているという。「不登校になったからやむなく」でも「他の高校に入れなかったから」でもなく、「N高に行きたい」と入ってくる生徒たちなのだ。(34-35ページ)

 N高生に話を聞いていると、選んだ理由として「プログラミングが学べるから」と答える人が少なからずいる。プログラミングを学ぶことへの注目度も、前回取材をした4年前よりぐっと上がった。2020年4月から小学校でのプログラミング教育が必修化されたからだ。4年前はまだ、プログラミングを学ぶのは一部のウェブやゲームに興味のある子たちであるという風潮があった。しかし、必修化となれば一部の人たちのものではなくなる。(36ページ)

 教育評論家の後藤健夫さんは、神奈川県の偏差値70を超える男子校・聖光学院高等学校や、東京の女子御三家の一角である桜蔭高等学校からN高に転校したケースを耳にしているという。後藤さんは、進学校の生徒が感じるN高の魅力をこう語る。
 「N高は、全日制に比べて高校卒業資格を得るための授業時間を圧縮しています。それ以外の時間は、個人の自由。圧縮して空いた時間で、プログラミングや高等数学、21世紀型スキルなどを学べるプログラムも用意されている。そこが、自分のペースで興味あることを学びたい学習意欲の高い子に、支持されているのではないでしょうか」(後藤さん)(46-47ページ)
 
 N高では、将来の仕事を考える一助になるよう、日本各地で職業体験ができるプログラムを用意している。事前学習、現地体験、事後学習の3つのフェーズから成り立っており、酪農、パティシェ、船大工、僧侶、イカ釣り漁、マタギ、温泉宿運営、自治体の観光職員、陶芸などさまざまな仕事や職種を体験できる。(60-61ページ)

 高め合える友人に出会えて、世界が広がった石井さん。N高に合う人はどんな人か聞くと、おもしろい喩えで返してくれた。
 「ひな鳥みたいな性格の人は合わないと思います。N高は口を開けて待ってたら、餌を運んでもらえるというものではないからです。僕もポカーンと待っていたときは、何も起こらなかった。でも、自分で動いたらどんどん活用できるようになりました。狩りに出る人、自分から何かを取りに行く人はすごく楽しめる学校だと思います」(石井さん)(102ページ)

 N高に進学するのは概して個性的な子であり、中学の教員にとっても印象深い、気にかかる存在であることが多いそうだ。そうした卒業生たちがN高で元気に活動していることを報告すると、教員のN高に対する印象が良くなり、信頼感が生まれる。そして、信頼感から生徒に対し、N高を勧めるという好循環が生まれる。(171ページ)

 N高が他の高校と違うのは、雰囲気だけではない。ブラックな勤務環境に陥らないよう、新しい組織体制、働き方を取り入れているのだ、。業務時間を削減し、効率化を進めることで、生徒にしわ寄せが来るのでは本末転倒。教育の質を上げながら、教職員の負担を減らすことに挑戦している。(178ページ)

 学校、塾・予備校、そして企業が三つ巴のような状態になっているのが、N高の特徴だという。(199ページ)

 この場合は、教え方のノウハウを蓄積しているベテランの先生のほうが「良い先生」とされることが多かった。「ところがN高は全然違う」と山中さんは言う。
 「教える内容は、動画や録画の教材がある。こうなると、生徒がどううまく学習を進めるかが重要になります。先生と生徒の関係は、「教える・教えられる」ではなく、生徒主導の「学びたい・サポートする」という関係になるんです」(山中さん)(231ページ)

 「教員というのは、基本的に教えたい人がなるわけです。でもN高の通学コースの教員は、新しく採用されたときに「あんまり指導をするな」と同僚にアドバイスを受ける。まずは生徒に何をやりたいか聞く。そして、困ったときに解決策を一緒に考える。「こうしたらいい」とすぐに指導しないんです」(山中さん)
 生徒の自主性ややる気を尊重し、信頼する教育の構造。それが新しいと感じた。
 「生徒には学ぶ意欲がある。そう信じて、いろんな材料を提供する。教え込む教育ではなく、やりたい人を支援する。ずっと「そうあるべき」と考えていた教育が、N高でようやく実践できるようになりました」(山中さん)(232ページ)

 「N高のプロモーションとしては、ぱっと目を引くようなVR入学式とか、そういったコンテンツをあえて出しています。他の学校がやっていないことで差別化をはかる方針です。僕らが本当に力を入れているのは教育内容ですが、それを売りにしようとは考えていません。自分たちで言ったところで、伝わらないからです。教育は1日、2日でブランドとして確立することはない。でも長期的にみると、教育内容が最終的な評価につながる。そういうものなんです」(川上さん)(259ページ)

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