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「ぶっちゃけ相続 増補改訂版」

「ぶっちゃけ相続 増補改訂版」(橘慶太 ダイヤモンド社)

2024年1月からの相続税・贈与税のルール変更に対応した、YouTuber税理士の著者による相続税についての本。非常にわかりやすく、面白かった。「全財産を一郎に相続させる」との遺言書に、二郎が横棒を一本書き加えて「全財産を二郎に相続させる」と早変わりさせて、一郎と二郎とで実際に裁判になった(95ページ)の話は、ちょっと笑ってしまった。ただ、本の最後に「最高で最大の効果を発揮する相続税対策は、家族仲良く円満に過ごすこと」(286ページ)とあり、まったくその通りだと思った。弁護士、司法書士、行政書士、税理士の違いの話(264ページ)も勉強になった。
50歳差親子の場合は、そもそもそんな財産はないし、「教育費や生活費の援助は110万円を超えても非課税(ただし必要な都度、援助した場合)」(144ページ)とあるし、また孫に贈与しようにも孫が生まれる前にお迎えが来る可能性が高いのだけれども。

 国税庁が公表している「令和3年分 相続税の申告事績の概要」によれば、日本全国の年間死亡者は143万9856人ですが、実際に相続税が発生したのは13万4275人。割合は9.3%です。つまり相続税を払っているのは「100人中9人」にすぎません。(29ページ)

 意思能力のない中で行われた法律行為(遺言書を書く、生前贈与をするetc)はすべて無効で、法的効力を持ちません。
(中略)
 では、どうすればいいのか。ここは逆転の発想です。「どこからが認知症か」の基準は曖昧ですが、「少なくとも今現在、認知症ではない」ことを明確にするのは簡単です。
 心療内科等を受診し、「意思能力に問題なし」という診断書を取得すればいいのです。
(中略)
 また、今すぐできる認知症診断テストがあります。
 「長谷川式スケール」と呼ばれるもので、認知症専門医の長谷川和夫氏らによって公表された認知症の診断指標です。次ページを見てください。
 30点満点中20点以下だと認知症だと診断される可能性が上がります。このテストは比較的若い人でも意外に満点をとるのが難しいです。「自分はまだ大丈夫」と思われている方でも、どのくらいのレベルから認知症と診断されるのかを知っておくために、テストの受信をオススメします。
 ちなみに厚生労働省のデータによれば、65歳以上の28%は既に認知症であるか、認知症の疑いがあるそうです。世の中の多くの方がピンピンコロリを前提とした相続対策を考えがちですが、実際には認知症になってしまう前に、相続対策のほとんどを完結させておく必要があるのです。(32-34ページ)

 法律上は介護の苦労の代償として寄与分という制度があるものの、「①認められるためのハードルが非常に高い、②認められても想像以上に寄与分の金額は小さい」というのが実態であり、実質的に介護の苦労は法律では救済されないと言えます。(39ページ)

 ここまで、数々の相続トラブルが発生するメカニズムを紹介してきました。最後に、相続トラブルを起こさないためのコツを3つ紹介します。
 ①家族会議で相続後の方針を明確にする
(中略)
 ②専門家に現状分析を依頼し、問題点を把握する
(中略)
 ③相続人間での秘密は極力避ける(81-83ページ)

(遺言の「一郎」を「二郎」に改竄した話の後に)
 このように、自筆証書遺言は少しの改竄だけで、内容を180度変えることができるのです。こういった事態を防ぐために、相続人の名前の後ろには生年月日を記載するようにしましょう。例えば「相続人鈴木一郎(昭和○○年〇月〇日生)」のような形です。こうすれば簡単に改竄することはできません。(95ページ)

 最も簡単にできる相続税対策の1つとしてオススメしたいのが、生命保険の非課税枠の活用です。生命保険金は、「500万円×法定相続人の数」だけ相続税が非課税になります。(135ページ)

(暦年課税制度と相続時精算課税制度の比較の話で)
 先に結論をお伝えすると、改正後は、非常に多くの人が相続時精算課税制度を選択したほうが有利になります。(160ページ)

 贈与税にはさまざまな特例があります。特例が使えるシチュエーションを押さえ、相続税や贈与税をうまく節税しましょう。2023年3月末日現在で存在する主な特例は下記です。
 ①教育資金の一括贈与
 ②住宅取得等資金の非課税制度
 ③贈与税の配偶者控除(176ページ)

 「将来発生する相続税を無料で算定します」
 この謳い文句を見たら、「タダより高いものは無い」という言葉を思い出してください。(203ページ)

 私はこれまで30~40件ほど、相続税申告の税務調査に立ち会ってきました。その経験から、「税務調査は世の中の人が考えている以上に厳しい」と断言できます。
 調査官の口調や態度が横柄という意味ではありません。調査官の調査能力が私たちの予想をはるかに上回る精度であるという意味です。
(中略)
 そして税務調査に選ばれてしまうと、なんと87.6%の人が追徴課税になっています(2021年実績)。(214ページ)

 名義財産(預金)が最も指摘されるケースは、親から子(孫)への送金です。生前贈与のつもりで行ったものであっても、「生前贈与の実態がない」と言われ、名義預金と認定されてしまうのです。
 大事なポイントは、生前贈与という行為は、名義を変えただけでは認められず、真実の所有者まで変える必要があるということです。(219ページ)

 ちなみに、相続が発生して5か月が過ぎたあたりに税務署から「相続税の申告等についてのご案内」という書類が届くことがあります。この書類は、相続が発生した過程全体の約15%に送られます。これが怖いのは、KSKシステムによる「相続税の発生しそうな家庭」という選定を経ていることです。この手紙が届いたら、「あなたのことはマークしていますよ」という税務署からのメッセージと受け止めてください。(241ページ)

 相続にまつわる悩みを相談できる専門家は、弁護士、司法書士、行政書士、税理士等、さまざまです。悩みを細分化したうえで、相談すべき専門家を選びましょう。最初に相談すべき専門家は、以下の通りです。
 ①家族仲は不仲で、相続争いに関する相談 → 弁護士
 ②家族仲は良好だが、相続税申告が必要  → 税理士
 ③家族仲は良好で、相続税申告も必要ない → 司法書士or行政書士(264ページ)

 税金の専門家である税理士であっても、相続税に強いとは限りません。むしろ、相続税に苦手意識を持つ税理士はたくさんいます。理由は大きく2つあります。
 1つ目の理由は「相続税を勉強しなくても税理士資格を取得できる」からです。(中略)2つ目の理由は、そもそも税理士は日々の業務の中で、相続税に触れる機会が非常に少ないからです。(275-276ページ)

 最高で最大の効果を発揮する相続税対策は、家族仲良く円満に過ごすことなのです。(286ページ)

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