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物音、 悲鳴、 異臭、 911、 そして私はまた熱を出す

つい4日前にアメリカで警察を呼んだときの私の実話である。アメリカでは安心をお金で買えとも言われるが、どんなところに住んでいても、何が起こるかはわからない。どのタイミングで、どのような判断をするのか、少しでも参考になれば、と記録した。(参考にするような機会がないことをもちろん祈っている)

真夜中の事件…

少し体調が悪くいつもより早く寝た日だった。

トイレに行きたい気がして深夜0時に目がさめると、頭が痛い。

なぜ時間を覚えているかというと、時計をしたまま寝てしまったから、外すタイミングでふと確認したのだった。

頭の痛さに加えて寒気がするのは完全に風邪の予兆だと思いながらトイレに行き、すぐベッドに入った。

「ベッド」と言っても、子ども部屋の「2段ベッド」で一人で寝ている。家事のあとに勉強や趣味のことがしたい、夜ふかしなわたしだけの城だ。

子どもが喜ぶと思って購入したのに、たった3ヶ月で私の城になった。

どうでも良いことだがかなり快適だ。


その2段ベッドの2階でウトウトし始めたとき…それは起こった。


窓のすぐ外でジャラジャラっ!と砂利をかき乱すような音、

瞬間、女の人の悲鳴にも似た声がした。


熱が上がりかけているのか、物音にハッとはしたものの、すこし心拍が早まる程度でふたたび頭は眠りにつこうとする。


そのときだった。


…パシッ!ジャリジャリジャリ…

…パシッ!

小さな破裂音が何度か聞こえ、足音が去ったとほぼ同時に

凄まじい臭いが部屋に飛び込んできた。


それはもう、なんと表現すれば良いのか…

酸化したオイルに腐ったタマゴをまぜたような、理科の実験で硫化鉄をつくったときのような…とにかく「毒ガス」様のむせかえる臭いが、締めきった窓のすきまから入ってきたのだ。


ボーッとした頭を窓にちょいと向け、思ったことはこうだ

「あ、事件だ…」


臭いに耐えながら2段ベッドから降り、窓のブラインドの隙間から確認するも、何もいない。

くさい。

すこしでも嗅ぐと息が止まるほどのにおい。


先程、「事件だ…」と思ったにもかかわらず、

疲れていたのでまた布団に潜ろうとする。


ここまでがほんの数秒の出来事なのだが、

布団をかぶっていても異臭をはっきり感じ、この時になって初めて恐ろしい考えが押し寄せてきた。


「毒ガスがまかれたのではないか」

「まさか放火ではないか」

「まさかまさか、ガソリンを撒いた焼身自殺などではあるまいか」


異臭と恐ろしい考えに包まれた私は廊下に出ることにした。

すると、夫も起き出していた。

聞くと、やはりさっきの砂利の音で起きたらしい。異臭にも気付いている。

夫からは人影も見えたらしい。


2人でリビングをぐるぐるしながらあてもなく外を覗き、この臭いがなんなのか言葉にしようとしたが、何の解決にもならない。

夫の寝室のまどから外を覗くと、まど下にぐちゃぐちゃの折り畳み椅子が落ちている。これはもう誰かがここに座ってやばい薬をやっていてラリって薬を爆発させたのでは…などと考え、

謎すぎる状況と異臭とで私はCity policeを呼ぶことを提案した。

夫は「警察なんて呼んだことない」と言い、

しきりに窓の外を見ている。

こんな時、外にはでない方が正解だ。何者かがまだ潜んでいるかわからない。

その間にも、異臭は部屋中を漂い、リビングまでにおってきていた。


実は私は警察を呼ぶのは初めてではない。

日本で一人暮らしをしていた時に一度ある。

その時は自分が悪くもないのに手が震えた。

だって、その時はマンションの窓から人が入ってこようとしていたからだ。


警察未経験の夫には確かにハードルは高いのかもしれない。けど、早く安心したい。そして私は警察にこの状況を英語で説明する自信も元気もない。

そんなことを考えていると、夫がまるでナメクジ1000匹食べたみたいな顔で、


「あの椅子、なくなってるんだけど…」と言った。


そろりと寝室から外を覗くと、先程確かにあった降りたたみの椅子がなくなっている…


体の毛が逆立つのがわかり、やはり警察を呼んだ方が良いと主張する。

夫がやっと警察をよぶ気になり、私はすぐにGoogleでアメリカで警察を呼ぶことについて調べた。


数秒後に出した結果はこうだ

アメリカで警察を呼びたいときは、まず911の前に管轄の警察に連絡すること。そして、念のため料金がかかるのかも調べる。こんな時にちゃっかりお金の心配をするのも主婦の仕事だ。

警察•••無料

救急車•••有料

消防車•••有料

そうだ、警察は民間じゃない。よし、とにかく火事は起きていないことを主張しつつ、地元の警察署へ電話だ、夫よ、GO!


と、完全人頼みだが祈りを込めて夫の携帯と夫を交互に見る。

何回めかのコール音ののち、警官がでる。

うわー、アメリカの警察がでたよ。本物だよ。かっこいい…

いや、かっこいい…じゃない。そもそも警官だからと言って皆がみなちゃんとしているわけじゃない、と昨今の騒動を思い出し身震いをする。

ここでは我々は有色人種の移民だ。通報したら理由もなく捕まるかもしれない(それは考えすぎ)


そんなことを考えているうちに夫の異変に気づく。

毎日仕事で英語をベラっベラ話しているのに、この時はどうも話していることの要領を得ない。完全にどもり散らかしている。夫も緊張しているのだ。

夫がピンチの時、妻は異常に気丈になる。

時系列で起こったことを夫の横であーだこーだいう。


電話をきり、3分も待っただろうか。

深夜0時半の暗闇を照らす、赤と青のピカピカが近づいてくる。

「きたっ」

緊張で手から足から血がなくなっていくのがわかる。

そこで私は自分の体調の悪化に気づく。寒い。

なぜ何も悪いことをしていない我々が緊張しないといけないのか。


そっと外を見ると、赤いライトと共にアメリカサイズの巨大な消防車が見えた。

…やらかした。

そう、先ほど調べた通り、消防車は有料の場合もあるのだ。聞くと、先ほど管轄の警察に電話したが、結局警察から911に回されたそうなのだ。
もちろん、異臭がする、とは伝えていたので消防の可能性も考えたのだろう。

ままよ、と思いながら見ていると、くるわくるわ、パトカーが1台、また1台と自宅前が一瞬でパーティーとなる。

頭がクラクラし、わたしは毛布にくるまってソファーで縮こまった。


そして警察がきた…

ドアがコンコンコン!と力強くたたかれる。きた、ポリスだ。

安心感もあるが、もう私はソファーの上の屋敷しもべ妖精。ただただ毛布にくるまって震えている。寒い。ご主人様もう私に構わないでください。

夫がドアを開けると、ドアとちょうど同じ大きさの人が入ってきた。

で、でかい。。。

イメージしてたのと、違う。

私がイメージしてたのは、こっち↓ スマートなやつ。

実際きたのは、こっち↓重装備。

そう、Fire Fighterが先陣を切ってくれたのだ。


ここから話は急展開に進んでいく。

最初の消防士一人が部屋に土足でどっかどっかと入りながら、状況を確認していく。

「Well, Where is that happened?  で、その臭いはどっからやねん?」

こっちですー言うて。

「Oh, is this Skunk smell?  これあれやろ、スカンク臭やろ」


・・・・しもべ妖精 「はっ?」

今、なんとー?


「Yeah, it's Skunk. んだな。スカンクの臭いだな」

別の消防士が玄関を入らずに答える。


最初の消防士と夫が窓下に向かう。私は力なく中腰で玄関の扉をおさえる。病的なニヤニヤした顔で「スカンクですって…」と消防士に話しかける。当然しもべ妖精は無視される。

あれよあれよと4人もの屈強な男が玄関に来た。みな玄関ドアサイズなのはどういうことだ。息子が最近、ポリスマンになりたいと言っているが、ここまで育てないとなれないのか・・・飯は何合炊けば良いのか。


…永遠とも思える時間が過ぎ(実際は3分程度)

外から声が聞こえてくる・・・

You guys are all set!!

来た!私がアメリカで一番好きな言葉!

「もう完了だ!」とか、「もう大丈夫!」とかの意味。


何かが無事終わった。屈強なドアサイズ男たちがゴトゴトと靴を鳴らし帰っていく。

私と同じくらい小さくなった夫が笑顔で外から帰ってくる。

終わったんだ・・。私もドア押さえの仕事の役目を終え晴れて自由な妖精となる。


種明かし。真実は…

真実はこうだった。

隣家の住人が飼っている犬をトイレに連れ出したところ、犬がスカンクを見つけ追いかけた。

うちのベッドルームの窓のしたでスカンクを追い詰め、ジャリジャリとひとしきり闘争した。

隣人が犬を呼び戻そうと、”悲鳴”のように怒鳴った。

闘争の末、犬がスカンクをかみ殺し、スカンクは断末魔の「屁」を盛大にかましたのである。

それがちょうど私の寝ている部屋の窓の外だったのだ。

ちなみに、謎の椅子は隣人のものであり、犬のリードに絡まってここまで運ばれたものと思われる。

そして、夫が見たあの人影は、飼い主が犬を家に連れ帰るために窓の外を通ったときのものだった。


…これは消防士が隣人宅に話を伺いに行き、ものの2、3分でわかった事実だ。思い切って外に出てみればよかったのだろうか、いやそれもなるまい。


その後の話…

私はその後、臭さ漂うリビングのソファで寒気でガタガタ身体を震わせながら、39度の高熱を出していた。

寝込んだ翌日、ドアの下に隣人からの手紙が届いていた。

前日起こったことと、丁寧にごめんなさいと、これからも仲良くしましょう、とのこと。もちろん、すぐに返信をし、その後も顔を合わせ笑顔でお互い謝りあった。同じことがあったら自分も警察を呼んでいただろうと言ってくれた。

警察が来た時は暗闇で見えなかったが、死んだスカンクは翌日までそこに居て悪臭を放っており、隣人が朝見つけて片付けてくれていた。

今回は運よく、スカンクと犬のいたずらで済んだが(スカンクにとってはとんだ災難)これ以上に信じられないことがここアメリカでは毎日のように起きている。
きっと日本よりも命の危険を感じることは多いのではないかと思う。

今回の事件で学んだのは、次の三つだ。

スカンクの臭いは毒ガス級。
警察を呼ぶのは無料。消防車も何もなければ無料(ただしアパートでボヤを出したりして消防車を呼ぶと家賃が上がる場合がある。)
アメリカで消防士・警察官になるには玄関ドアが目安

スカンク爆弾が直撃した部屋、つまり2段ベッドで子供たちが寝ていなくて本当に良かった。

皆様におかれましても、おや?と思ったらすぐに助けを呼び(911)危ない雰囲気の場所やスカンクがいそうな所には近づかないことをおすすめする。


おまけ(日本で警察を呼んだときの話)

日本で警察を呼んだ日も、私は体調が悪く、熱帯夜ではあったが、クーラーに当たらないようにいつもは絶対に開けないマンションの窓をうすく開けて寝ていた。1Fの部屋でそれをしたのが災いした。
2Fのギャルが夜遊びから帰って来て鍵を忘れたのに気付き、うちの洗濯物干しを使って自分の住む2Fへ登ろうとした。物干し竿が折れて落ち、ちょうど開いていたうちの窓から「ちょっと部屋通らせて・・」と言って入ってきたのだった。(なぜそうなる)
警察が到着したのちに現場検証(ギャルはつぶれて外で寝ていた)、そして初めてパトカーで警察署に行き、事情聴取を受け、結果物干し竿代1000円だけ弁償していただく形で和解となる。
そして私はその日、高熱を出して会社を休んだ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます🙌

結果は大したことではなかったのですが、私の中では踏んだり蹴ったりな大事件だったので、noteに記録しました!

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