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『ポール・バニヤンの驚くべき偉業』解説

訳者による解説

本書の主人公であるポール・バニヤンはアメリカの新たな神話的英雄である。ポール・バニヤンに関する本は少なくとも300冊以上も出版されている。そうした書籍や新聞雑誌記事の中から権利不在・権利消滅が確認できたものを中心にポール・バニヤンの民話伝説を収集して翻訳している。そうした民話伝説の起源はつまびらかではないが、1880年代が発端とされる。その頃、五大湖周辺で林業が盛んになって、新規の木こりが多く流入した。そうした新参者に対して古参の木こりたちはポール・バニヤンの名前を出して昔の作業がいかに大変だったかを語ったという。

『メリアム=ウェブスターの文学百科事典』によれば、ポール・バニヤンが印刷物に最初に登場したのは1910年7月24日付の『デトロイト・ニューズ・トリビューン』である。これは、アメリカの民話を収集したハロルド・フェルトンが「ポール・バニヤンに関する知られている中で最も初期の言及」として同紙の記事を挙げていることによると考えられる。しかし、2009年にウィスコンシン州歴史協会からポール・バニヤンの解説書を刊行したマイケル・エドモンズによれば、ポール・バニヤンの名前が最初に印刷物に登場したのは1904年8月4日のことである。その日の『ダルース・ニューズ・トリビューン紙』にポール・バニヤンに関するお話が紹介されている。

ポール・バニヤンの民話が一般に流布したきっかけとなったのが表題作『ポール・バニヤンの驚くべき偉業』である。作者のウィリアム・ラーヘッドはレッド・リバー・ランバー社の広告戦略の一環として『ポール・バニヤンの驚くべき偉業』を書いた。レッド・リバー・ランバー社は、ミネソタ周辺の森林資源が乏しくなったためにカリフォルニア北部の森林を買収して事業の中心を移す必要に迫られていた。そのため従来の顧客だけではなく、新規の顧客を開拓する必要があった。

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