映画『春の雪』を見た

原作も読んだことだし、宇多田ヒカルの歌も含めて、以前から気になっていた映画『春の雪』を見た。ストリーミングがないのでDVDを購入した。

冒頭で殴られたような印象を受け、これはもう見るのをやめるかなと思ったが、映像がきれいだったので見続けることができた。文学作品と映像作品は別ものなのだから、違いはあるのは仕方がないし、こういうふうに脚本を持ってくる理由も理解はできる。それにしても、原作からテーマと文体を除去して映像化するとこうなるしかないのだろう。

ストーリーは微妙に違い、ディテールはそれぞれに違った。本多に恋をけしかける趣向は現代的なそれだろうか、そのほうがわかりやすいのだろうか。というか、本多という存在が映像的には扱いづらいのだろう。

映像的なディテールは気になった。観劇はファウストになっていたが、大正元年にあっただろうか。竹久夢二の絵のようなものがあったが、時代的に合うかとか気になった。

というか、明治帝崩御の空気は全然なかった。小説冒頭の兵士らの写真もなかったが、あのあたりはもっと上手に対応できなかったか。総じて、時代の光景はきれいだったが薄っぺらい感じはした。季節の映像がちぐはぐなのはちょっとつらかった。長谷寺大仏のシーンは美しかった。

役者は総じて良かったし、竹内結子ははまり役だった。面立ちは最適だし、髪の毛はそれだけで存在感があった。ので髪を切るシーンも迫力はあった。が、登場シーンあたりの演出はもう少し工夫があってもよかったかもしれないが、総じて演技はよかったように思う。妻夫木は原作とかなりイメージが違うが、仕方がないの部類だろう。

月修寺のシーンで観音菩薩像があり、観音経の偈がお経となっていて、苦笑した。まあ、そもそも映像作品には原作のテーマがないとはいえ、ちょっとこれはないかな。そういう意味では、「夢日記」が大書されている手帳も滑稽ではあった。

最終部をどう持っていくのか見ていたが、原作の言葉を活かしていた。ちぐはぐ感もあったが、そのあたりは、百人一首の崇徳院を持ち出すという脚本上の工夫に対応していたのだろう。

『春の雪』の原作は映像的なので、映像的な作品を作りたくはなるのだろう。そして、映画化するとどうしても、恋の物語になってしまうしかないのだろう。

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