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2022年第2四半期マトリックス速報② 家計の純資産

純資産(金融資産と金融負債の差)の変動はフロー差額(資金過不足)と時価変動(調整差額)によって起こります。
下表は2005年3月末の純資産と2022年6月末の純資産及びその間のフロー差額の累計値と調整差額の累積値を大部門ごとに表示したものです。
22年6月末純資産=05年3末純資産+この間のフロー差額累計+調整差額累計 となっています。
主な特徴は、
①一般政府部門と海外部門の資金不足(マイナスのフロー差額、純金融負債の供給)で家計を中心とした他の部門が純金融資産の増加(資金過足、資金余剰)となっています。
②この期間、家計ではフロー差額(賃金の受け取りや消費など経常取引(非金融元本取引)の収支差)の累計値312兆円に対し保有している金融資産負債の時価変動による増加額115兆円となっており時価の上昇による純資産の増加のウェィトが大きくなってきています。
③非金融法人部門はフロー差額では268兆円の資金余剰ですが調整差額がマイナス298兆円とそれを上回り純負債の金額が増加しています。これは負債サイドの発行株式を時価評価しているためでこの期間の負債サイドの株式等で429兆円の評価額増となっています。企業にとって発行株式の時価額に償還義務はなく他の金融負債とは性質が大きく異なります。発行株式の時価変動を除いてみると純資産増加でストックでもプラスの純資産となっています。
※最下行の純資産の合計値がゼロにならないのは外貨準備用の『金』が負債サイドに計上されていないためです。
です。

同じ期間の家計部門を対象にし、主な資産負債項目を表示したものが下表です。

①取引による(フローによる)金融資産増加額361兆円のうち87%の313兆円を現預金で保有している。これは経常取引(非金融元本取引)での312兆円の資金余剰(資金過足)を超えています。
これは住宅ローンを中心とした借入(負債サイドの貸出)が増加しているためで同じ家計部門内に住宅ローンを借りている赤字主体とそうではない黒字主体が混在しているためフローの差額(資金余剰)が一部相殺されているためです。
②この期間に取引で(フローで)増加させている金融資産は現金預金を除いて投資信託と保険年金で、株式と国債などの債務証券は減らしています。
③時価変動による調整差額の累計値プラス115兆円の77%を保有株式の調整額累計が占めています。株式等は保有金融資産残高の10%にすぎずかつ取引では(フローでは)保有残高を減らしているなかでの大幅な増加で、純資産に対する影響力が大きい。
この期間の四半期ごとの純資産額の変化とその要因である資金過不足と調整差額の推移は下のグラフのとおりです。

季節変動はありますが安定的に増加している資金過不足(資金余剰)に対して時価変動である調整差額の変化が大きいことがわかります。グラフからわかるとおりこの期間にはサブプライム問題とリーマンショック及びコロナ禍による大幅なマイナスの時価変動がありますが期間の累計値はプラスの115兆円と国債の残高増加とその費消による資金余剰312兆円の約3分の1の規模になっています。

国債発行による費消と経常黒字(政府部門と海外部門の資金不足)によりもたらされた家計部門の資金余剰は、現状は現金預金のまま固定されてそれ以上の波及効果はなく、国債等の低金利が安定的に維持されています。今後の現金預金の使用動向により以下の経路が考えられます。

①   現状どおり現金預金のままが維持された場合は、低金利で発行された国債と低金利の現金預金が見合いそれを銀行が仲介して安定的に維持され、それ以上の波及効果はありません。

②   現金預金を経常取引(財、サービス、旅行などの購入や動産・不動産の取得など非金融元本取引)に活発に使用した場合は、景気が向上し、需要が供給を上回るとインフレーションにつながります。この場合でも政府部門と海外部門の資金不足が続く限り家計を中心としたその他の部門がどんなに費消してもその他の部門内で資金循環しその他部門の資金余剰は続きます。

③   現金預金が株式や債券などの国内金融資産に向かった場合は株式や債券価格が上昇します。金融元本取引では資金過不足は発生せず、また銀行が資産規模を縮小しない限り、何回転投資しても、価格が上昇しても、現金預金の水準は変わらず株式等の調整金額がただ上昇するだけです。

④   現金預金が海外の金融資産に向かった場合も資金過不足は発生せず国内部門の円投に応じて海外部門で円転が発生し(経常黒字を超える円投には円転が必要)費消した現金預金の部分に海外部門からの円資金が資金循環します。

家計部門が既にある現金預金を海外の外貨建金融資産で運用する(円投する)外貨ポジションは、ヘッジファンドのように時価評価や時価会計を気にする必要はなく、配当や納税による出金やマージンコールなどのクレジット制約を受けることもないため外貨ポジションの維持能力は極めて高く、強力で長期的な円安要因になると思います。

2022年第2四半期までのマトリックスを見る限り②③④の気配はなく①が安定的に継続していると思います。



2022年第2四半期マトリックス速報③へ続きます。

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