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辺野古を巡る疑心

このほど米軍普天間基地の辺野古移設をめぐる県と国の一連の法廷闘争が大詰めを迎えつつある。

そもそもこの問題の発端は1996年に宜野湾市街上空を航空機が飛ぶ「世界で最も危険な飛行場」と言われる普天間基地を沖縄県名護市辺野古キャンプ・シュワブ沖に移設し、同地にV字型滑走路を建設する計画が日米合同委員会(SACO)によって合意されたことに始まる。

その後稲嶺県政下で県と国の間で話し合いが行われ、辺野古新基地を15年の使用期限付き軍民共用とすることが閣議決定された。

しかし、上記の約束は日本政府によって一方的に反故にされ、続く仲井眞知事は2013年正月、県内移設に反対する多数の県民の声を他所に公有水面埋立法に基づく埋め立てを承認した。

仲井眞知事の異例の判断の裏には民主党政権下の尖閣諸島国有化によって日中間に緊張が走り、南西諸島を中心に防衛力強化が行なわれ始めたこと。

安倍政権下沖縄に対して理解のある野中広務や小渕恵三といった知沖派の政治家が政権与党である自民党からいなくなり、安全保障について沖縄に対して強硬な姿勢で臨む清和会の力が増大したことなどが挙げられる。

この判断のあと2014年に元自民党沖縄県連幹事長で仲井眞前知事のブレーンだった翁長知事が県知事選に立候補し、仲井眞前知事に10万票差をつけて大勝した。

翁長知事は就任後直ぐに埋め立て承認を取り消したが、これを不服とした国が法廷闘争に持ち込み最高裁によって県の埋め立て承認取り消し処分を取り消すよう判断が下った。

翁長県政下では様々な法的手段で国の移設工事を阻もうとしたが、2018年に国側が土砂投入を強行し、2023年9月現在、キャンプ・シュワブ南側の護岸は既に陸地化した。

辺野古基地建設に環境保護策として行われるサンゴ移植を県が不承認としたことに対する取り消し訴訟や国交相採決を巡る確認訴訟などいずれも沖縄県側の敗訴が続いた。

そして今回、沖縄防衛局が軟弱地盤による設計変更を県に申請したことを県が不承認としたことについて国交相が県に対し是正の指示を出し、これを不服とした県が国を訴えた裁判で県の敗訴が確定した。

辺野古移設を巡る一連の裁判は14件にも上っているが法廷闘争で県が勝訴したことは一度たりともない。

沖縄県側の実質最後の法的カードであった設計変更不承認に対する是正の指示の取り消しを求めた訴訟は不発に終わり、県側は国に従うことを余儀なくされている。

しかし、県側にのみ瑕疵があるとする司法の判断には違和感が残る。国は当初辺野古移設に係る費用を4000億円と想定していた。

だがボーリング調査で辺野古沖に約100メートルの深さで、サンゴ礁が砕けた砂でできたマヨネーズ状の地盤が見つかり、サンドコンパクションパイル工法と呼ばれる長大な杭を7万本以上打ち込む大工事が必要となり、大幅な設計変更が必要となった。

建設に係る総費用は当初予算の2.5倍近い9300億円に膨らみ、県側は2兆5000億円になると試算している。

この様な事態は通常建設を推し進めてきた沖縄防衛局を傘下とする防衛省ひいては国側の瑕疵であると言えるはずが、何故か最高裁側は口頭弁論すら開かず、公有水面の使用許諾の権限を有しているはずの県の反対意見には全く耳を貸していない。

2019年には辺野古移設を巡る単一イシューの住民投票で7割の反対票が投じられたのにも関わらず、「法的拘束力」を有さないからと国側は結果を全面的に無視した。

国家予算を大量に投入して行われている他国軍のための新基地建設について、国民や負担自治体の意見を「国防は国の専権事項」として司法や立法、行政が頑として受け付けない状況はこの国の地方分権や地方自治が「まがいもの」であったことを証明している。

個人的には翁長知事が亡くなる一週間前に埋め立て承認を撤回した際の会見で放った言葉が頭をよぎった。

「何を守ろうとして新辺野古基地をつくろうとしているのか」

一体誰のための、何に対する、何のための基地建設なのか。辺野古の名護の沖縄県の人々の複雑な思いを踏みにじり、自分たちの「やりたい放題」を続ける国並びに本土と沖縄の間にいつか埋められない溝ができてしまわないだろうか。

真実に向きあい自らが真に正義か。私たち市民が考えあぐねて下す決断が沖縄を苦しめている側面がある。辺野古はこの国の隠れた強権性と歪な民主主義を露わにしてしまった。






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