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雑記3 最近観たホラー映画3ーー「死霊のはらわた」「死霊のはらわたⅡ」「オカルトの森へようこそ」「女神の継承」「死霊館」「死霊館 エンフィールド事件」「インシディアス」ーー

 「死霊のはらわた」は二作目より一作目の方が面白い。一作目には7点くらいあげたいが、二作目は5点か6点くらいだ。それはともかくとして「死霊のはらわたⅡ」は前作と全くと言っていいほど話が繋がっていなくて、どこが続編やねんと笑ってしまった。「Ⅱ」に関してだけ言ってしまうと、かなりコメディ的な面もあり、死霊に手を乗っ取られた主人公が、自らを攻撃し始めるシーンの彼の顏とか、コミック俳優のそれだし、作品後半のゾンビを殺しに行くため主人公が装備を整える場面には、安物ヒーロー作品のような演出がなされる。死んで霊となったヒロインの父親が、主人公たちに死霊封印の術を教える場面なんかは、胡散臭いオカルト番組みたいであるし、オチに至っては、ワケが分からない。全体的に狙っているとしか思えず、サム・ライミはガチガチのホラーではなく、スラプスティック的なドタバタホラー(そんな用語があるのか?)を作りたかったのかもしれない。まあ、それならもう少しギャグ寄りでもよかったとは思うが。
 先にも書いたが、「死霊のはらわたⅡ」には主人公の手が死霊に乗っ取られ、彼の意志とは関係なく動き出して襲いかかって来る場面がある。その後、苦渋の決断で手首を切り落とすも、手は動きを止めず、折々、主人公を襲撃する。動く手首で最初に思い出すのは「アダムス・ファミリー」のハンド(英語ではThe thing)で、これは原作よりは1960年代のテレビシリーズの方が活躍が多いらしい。有名な作品なので、本作が参考にしたのだろう。他に動く手となると、水木しげる『墓場鬼太郎』が思い浮かぶ。ヤクザによって冷蔵庫に閉じ込められた鬼太郎から手が分離して動き回り、最終的にヤクザを殺す(正確には手が死の契機となっただけで、ヤクザを殺したのは別の霊魂だったように思う)。水木しげるも「アダムスファミリー」を参考にしたのかもしれないが、『墓場鬼太郎』の発表も1960年代なので、時系列はあまり噛み合わない。水木のアイディアは独自のものかもしれない。
 「オカルトの森へようこそ」というモキュメンタリー映画は、同時上映の短編「訪問者」ならびに本編最初の30分くらいがとても面白くて、同じ系列の「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」や「パラノーマルアクティビティ」とはレベルが違ったのだが、スーパー霊能者やら宇宙からの来訪者やら、よくわからない要素が次々登場した辺りから、ケイオスなものになってしまった。序盤の感じで90分弱くらいにしてくれていれば8点ないしは9点くらいあったのだが、残念、6点である。まあ、監督としては、ああいった無茶苦茶なホラー映画が作りたかったのかもしれず、こんな評価は余計なお世話かもしれないが。筆者が褒めている序盤部分は、主人公の映画監督が恐怖体験をした女性の取材に赴くものの、彼女とは会話が噛み合ったり、噛み合わなかったりして困惑するというもので、安部公房「人間そっくり」(ないしは「使者」)と同質の、ディスコミュニケーションがもたらす、よくわからないけれど、命が危ないかもしれない、という暗示的な恐怖が描かれており、困ったら殺人鬼、幽霊、モンスターに頼りがちな一般的なホラー映画と違い、リアリズム寄りのおぞましさを描いていたのがよかった。似たような作風に「ヒトコワ」やら「トリハダ」やらがあるが、あちらはかなり直截的で、大抵は暴力で話をまとめるのに対し、「オカルトの森」はヤバそうな雰囲気を醸し出し続けるだけで暴力にまで行かないところがよい。是非とも次作は、この芸風で一本撮ってもらいたい。余談だが、カメラワークが激しすぎて、かなり酔った。
 モキュメンタリー繋がりだと「女神の継承」という、タイの霊媒師を題材にした作品も2022年には公開されていた。名作「哭声」の監督がプロデューサーを務めた作品で、期待を裏切らずクオリティは高いが、いまいち新味に欠ける。7点くらいか。いや、8点でもいいかもしれない。この作品はファウンド・フッテージ方式で、恐らくはテレビの取材班が、主人公の霊媒師の密着を行っているという設定で、その最中に悪霊憑き事件に巻き込まれていく。全体の構成はよいとして、取材班の人物設定がよくわからない。いくらカメラを回すのが仕事とは言え、悪霊に憑依された女性の奇行をひたすら撮影し続けたり、悪霊のせいで自身の命も危うくなる場面でもカメラを回すことに執心していたりと撮影班の方が何かに取り憑かれているのでは、と思いたくなる場面が多い。かと思ったら、末尾のいよいよ悪霊に襲われる箇所ではカメラを投げ捨てているので、撮影に命を賭けているわけでもないようだ。作品はじんわりと不可解と恐怖が滲みだす作品で、末尾近くでは、今までの抑え目な描写が何だったのかと思うくらい恐怖シーンが畳みかけられる。この落差がラストの恐怖を際立たせているのだが、この悪霊があまりに強すぎる上、無差別に対象を殺している感じがして、よく村の人間が全滅しなかったな、となってしまう。ほどほどにしないと、そもそも映像データが回収されたことの説明がつかなくなる(本作でいうと、映像を回収しても帰る前に悪霊に殺されうる)のではないだろうか。
 「死霊館」、「死霊館 エンフィールド事件」、「インシディアス」は全てジェームズ・ワンの作品で、霊能者あるいはそれに準ずる存在が活躍する。三つとも6点か7点くらいのクオリティで、「エクソシスト」以来、脈々と続く悪魔憑きの系列に属する。三作とも、それなりにひねりが加えられており、特に「エンフィールド」なんかは割と驚かされる。ただ、この作品はやたらと長く、私見ではもう10分くらいは縮められたのではないかと思う。全体的に新味は薄く、「チェンジリング」や「エクソシスト」などの技巧や着想を用いつつ、現代の映像技術によってショットを上手く構築している。使い古されたネタも最新の技術によって新しく生まれ変わることを示した実例と言えるだろう。


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