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【二次創作】キノの旅「偽りの国」

※筆者みつなりが学生の頃に書いた唯一の二次創作(2023/12/21現在)
『キノの旅』があまりにも好きすぎて、当時完全にコピーできるか何十回も単行本を読んでいた。
とはいえ、キャラの解釈や世界観の齟齬、科学的根拠など知識の浅い部分などがあるかもしれないので、その辺りは自己責任で読んでいただくようお願いします。
以下の稚拙は、当時の文章をそのままネットの海からサルベージしたもの。
これを機に、本記事を読まれている人が時雨沢恵一氏の作品に触れていただけたら、古のみつなりはうれしく思うはずです。
時雨沢恵一作品↓
https://www.amazon.co.jp/s?k=%E6%99%82%E9%9B%A8%E6%B2%A2%E6%81%B5%E4%B8%80&__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=1BLGYRPU5T0AR&sprefix=%E6%99%82%E9%9B%A8%E6%B2%A2%E6%81%B5%E4%B8%80%2Caps%2C191&ref=nb_sb_noss_1
当時リスペクトしていた記事↓
https://ansaikuropedia.org/wiki/%E6%99%82%E9%9B%A8%E6%B2%A2%E6%81%B5%E4%B8%80

さて、注意喚起と文字数稼ぎはできたと思いますので、覚悟はよろしいでしょうか?
以下本文(6000字超)です。
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 木々が青々と繁る森の中を、一台のモトラド(注・二輪車で空を飛ばないものを指す)が颯爽と走っていた。

 通る小道はそれなりに整備されていた

 「ねえ、キノ」

 「ん?どうしたのエルメス」

 キノと呼ばれた運転手は黒いジャケットを着て、鍔と耳を覆うたれのついた帽子をかぶり、所々剥げかかった銀色フレームのゴーグルをしていた。

 腰を太いベルトで締めて、右太腿にはハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)を吊っている。革製のホルスターに収まっているのは、大口径のリヴォルバーだった。

 「うそつきだったね」
 
 「あぁ。うそつきだった」

 エルメスと呼ばれたモトラドは、それだけ言って前を、おそらく前を見た。

 キノも、それだけいって運転に戻った。

 「入国許可をお願いします。それと、気に入れば移住もしたいので、手続きの仕方を教えて頂けると有難い」

 城門の検問所で、一台のバギーに乗ってきた男は入国審査を受けていた。

 男は緑のセーター、その上にパーカーを着て、腰には日本刀を差している。

 バギーの助手席には、白黒のストラップのセーターを着た白髪の少女が白い毛の犬を抱えて座っていた。

 「行こうか。ティー、陸」
 
 「……」

 「はい。シズ様」

 ティーと呼ばれた少女と陸と呼ばれた犬とシズ様と呼ばれた男は、バギーに乗って城門をくぐった。


 「すばらしい!なんて長閑な国なんだ!」

 「ええ、全くです。通りがかる人は皆さん丁寧に挨拶してくださいますし、おいしい風土領地のお店も教えて下さいましたし。親切です。」

 「(コクッ)」

 周囲を木々に囲まれ豊かな土壌をもつこの国では、主に農業で生計を立てている人が多い。彼ら農家は、国の中でも城壁の近くに広がる田畑地域で暮らしている。

 彼らとは対象に、ごく一部の商人や料理人といった類の者は国の中心――つまりこの丸い形状をした国の中心点――にあたる町に住んでいる。

 シズたち(二人+一匹)は町の一角にある食堂にいた。

 「だが、この前立ち寄った国(キノの旅Ⅴ「のどかな国」)のように、何かあるといけないから、二・三日滞在して様子を見よう。」

 「……?」

 「シズ様、ティーは……。」

 「あぁ、そうだった。ティーには話していなかったね。」

 「(コクッコクッ)」

 「ティーと会う前に、陸をわたしはある国へ行ったんだ。長閑で平和なとても良い国だと思ったのだけれど、その国は突然地面に穴があいてしまう国だったんだよ。とても安心して暮らせるとは思えなかったから、すぐに出国したんだ。」

 それを聞いたティーは少しだけテーブルに身を乗り出し、

 「それからわたしとであった。。。」

 「そうだね。その後あの船の国で、ティー、君に出会った。」

 「あの時はキノさんにもお会いしましたね。」

 「あぁ、そうだったな。キノさんとエルメス君にとも偶然再会できた。今ごろ彼女たちはどんな国にいるのだろうね。」

 話が一区切りついた時、タイミングを見計らったかのように料理が運ばれてきた。独特なにおいが辺りに広がる。

 「お待たせいたしました。ご注文の『郷土丸ごと食べつくし・フルコース(何人で分け合って食べてもO☆K♪)』でございます。」

 と、どこをどう見間違おうともゴ○ゴにしか見えないいかついシェフが、()の中も丁寧に調子をグッと上げて、のたまった。

 「どうもありがとうございます。」

 シズは冷静に礼を述べた。

 陸はシズの隣で、

 「…ツッコんだら負け…。」

 小声で自分にいいきかせました。

 そしてふと気づいた。

 料理の独特な香りの中に、何か得体の知れない危なそうな物質が混ざっていることに。

 「シズ様、ティー、食べる前に少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

 陸の制止の声に、二人は訝しげな眼で答える。

 「どうしたんだ?」

 「すみません。ただ、この料理から得体のしれない匂いがします。」

 「なんだい、お客さん。うちの料理にケチつけるってのかい?うちは国産の無農薬野菜を使ってる。滅多なこと言うもんじゃないよ。」

 ティーの左側、配膳を済ませて引っ込もうとしたシェフは釘を刺した。

 しっかり二秒はメンチをきかせた後、厨房へ下がっていった。

 それを見届けた後、シズは、「それで、何なんだい?それは?」

 彼は大人でした。シェフの言葉はまったく意に介していません。

 「…………。」

 ティーも無言の問いを投げかける。

 陸はやや言いにくそうに、しかし、やはり笑顔で答えた。

 「申し訳ありません。この料理の独特なにおいのせいで何の匂いなのか特定までは……。」

 すると、

 「教えてあげましょうか?その正体。」

 向かいの席――ちょうどシズの背後の席――に座っていた女性が言ってきた。

 女性は広い鍔の黒い帽子をかぶり、黒のジャケットと膝丈の黒のスカートを身につけていた。

 「失礼ですが、あなたは?」

 全身黒ずくめの妙齢の女性はペコリとおじぎをして、

 「申し遅れました。私はこの国の機関で総務部長をしておりますシティと申します。」

 と名乗った。


 「ご丁寧にどうも。」

 「どうも初めまして。」

 「…………。」

 二人と一匹はお辞儀で返した。

 「申し訳ないとは思いながらも、あなた方のお話を聞かせていただきました。それで、あなた方は旅の方でこの国に移住も考えていらっしゃるのですね。」

 「えぇ。私たちは安寧の地を求めて旅をしています。この国はなかなか良い雰囲気なので、もう少し滞在して色々調べたいと思っております。」

 「…………おなかすいた。」

 ティーはインゲン豆のソテーらしきものを食べようとしていた。

 「…もう少し我慢してください。」

 陸はティーを制した。

 「……ぶー。」

 ポカポカポカポカポカ。

 「痛いです。」

 やはり笑顔で言う。

 そんな和やかな光景を見て、シティは、

 「かわいらしいですね。」

 「そうですね。私もそう思います。」

 シズは同意した。

 「彼女たちのことを本当に大切に思うのであれば、この国に移住するのはやめるべきでしょうね。」

 「なぜです?もしよろしければ、わけを教えていただけませんか?」

 シズの問いかけにシティは、えぇ、と言い、ややあってから訊き返した。

 「お答えすることはできますが、その場合、あなた方はすぐにこの国を発たなければならなくなりますが、よろしいでしょうか?」

 シズは目の前の一人と一匹に目をやる。

 ティーも陸も、じっとシズを見ている。

 ふう、と一呼吸。

 「では、どうしてあなたはそんな旅人を即刻追放させるような重大な事を知っているのかぐらいは教えてくれませんか?」

 「それもお答えできません。」

 即答だった。

 シズは腕を組み、たっぷり一秒考え、

 「わかりました。その条件を呑みます。いずれにしてもわけありの国で暮らすわけにはいきませんから、真相を教えてもらえますか?シティさん。」

 それを聞き、シティはうんうんと大きく頷いた。

「賢明な方で助かりました。では、混入物の正体についてお教えいたしましょう。」

 そう言ってシティは店内に人影がないことを確認し、小声で話し始めた。

 「まず、私が勤めているのはこの国の貿易全般を扱う機関だというのを言っておきます。それで、本題です。先ほどお連れのワンちゃんが……。」

 「私は陸と言います。」

 「あっ、ごめんなさい。……それで、陸さんが気付いたものというのは、おそらく残留農薬です。」

 「ざんりゅう農薬?それは野菜などに使う薬とは違うのですか?」

 「家、どちらも同じです。ただ、我々が食べる時食べ物に含まれてい
る農薬が濃いと、人体に与える影響の度合いが変わってくるのです。残
留農薬はその残っている農薬のことをさします。わかりますか?シズさん。」

 「えぇ、続けてください。」

 「たとえば、先ほど彼女が食べようとしたインゲン豆にはメタミドボスやジクロルボスといった農薬が使われている可能性があります。これらは毒性が強いため、この国での使用は厳しく制限されています。しかし、その使用量の基準も、国によって異なるので、どうしてもこの国の制限基準以上の濃度のものが入ってきてしまうのです。」

 「それを規制することはできないのですか?」

 「そうです。シズ様のおっしゃるように、厳しい制限をかけているあなたの国ならできるのではないですか?」

 シズと陸の自然な問いに、ごく当たり前のことのようにシティは答える。

 「えぇ、確かにわが国ではその程度のことなら今すぐにでもできますよ。」

 ですが、と付け加えてから続ける。

 「えぇ、確かにできます。事実、以前この国ではそのような厳しい規制を実施してきました。しかし、ある時歴史上最悪とも言える大凶作に見舞われました。その時、この国と貿易をしていた国々は新薬を開発して作物や家畜を強くする政策をとり、なんとか切り抜けることができました。その時に我々の先祖は苦渋の決断をしていました。それは、新薬のために基準を満たすことが難しくなった状態を打破するために、基準を満たしていないものでも、満たしているとして国民に提供することでした。」

 「つまり、嘘をつくことにしたのですね。」

 つまりは……、と続けようとするシズを、シティは手をひらひらさせて制し、

「そうです。私たちは今もなお善良な国民に嘘をつき続けています。しかし、はたしてそれは悪なのでしょうか?何も知らないからこそ幸せでいられるなんていうことはあると思います。この国の平均寿命は低く、せいぜい四十歳前後です。もちろん、その原因が食べ物によるところが大きいです。しかし、国民は、人生四十年だというのが当然と思っています。ですから、その人生を幸せに生きようと日々頑張って生きています。私たちはその幸せになる権利を奪わないようにと、嘘をつき続けているのです。」

 そう言って、彼女は一息ついた。

 シズはふと疑問に思ったことを口にした。

 「なるほど、おおよそのことはわかりました。一つだけ質問出せてください。」

 「えぇ、何でしょう?」

 「『私たち』とおっしゃりましたが、あなたと誰がその嘘をついているのですか?」

シティは右手の人差し指を頬に当て、

 「そうですね~。貿易関係の職種や警察、医者は知っていますね。」
 
 「なるほど。それなら確実に隠ぺいできますね。」

 「あぁ、国家レベルでやっているなら確実だろう。」
陸とシズは顔を見合わせた。


では、とシティは立ち上がり、

 「お分かりいただけたところで、早々に出国をお願いしたいと思いますが。よろしいでしょうか。」

 と、急かした。

 「そうですね。少々食料を買ってからすぐに発つとします。」

 「ここの代金は私がお支払いいたします。何も召し上がっていないのにお金を頂くわけにはまいりませんので。」

 「ご厚意ありがとうございます。」

 「どうもすみません。」

 シズと陸はお辞儀をした。

 「…………(コク)」

 ティーもつられてお辞儀をした。 

 「それと、城門までご一緒させてもらいます。」

 「監視ですか?」

 「えぇ、そのようなものです。」

 「…………なんでわたしたちにここまでしてくれるんだ?」

 ティーが突然訊いてきた。

 唐突な質問に二人と一匹は振り返り、発言者に目を向ける。

 「うそをつくことがおまえたちのせいぎなら、わたしたちになぜうそをつかない?」

 問われた妙齢の女性は、そうね、としばし考えて、

 「簡単に言うと、あなたたち旅人さんたちに移住してきてほしくないのよ。だって、この国に無関係な人の人生を狂わせてしまっては申し訳ないでしょ?私たちにもそれくらいの人間性は残っているのよ。」

 真っ直ぐな眼差しで、目の前の少女に答えた。


シティは城門でシズたちの乗ったバギーが森の中へ消えて無くなるまで見送った。
 
 「部長。」

 不意に彼女の隣に立っていた若い門番に呼びかけられた。

 「なんでしょう?シティさん?」

 妙齢の女性はそう返した。
 
 シティと呼ばれた門番は自分の右耳を指差して尋ねる。
 
 そこには小型のイヤホンマイクがつけられている。

 「部長はなぜ彼らに『移住してきてほしくない』とおっしゃったのですか?」

 「あぁ、その事ですか。」

 ふー、とため息をつき、若い門番を諭すように言った。

 「単純な話です。移住されてしまっては国の経済全体の拡大にはなりませんし、彼らには『ただ安寧に過ごしたいという欲しかなさそうでしたから。早々に出国させたのです。」

 「なるほど。だから地下には案内しなかったのですね。」

 「当然でしょう。利益が見込めない場合は適当に流しておくのが得策だと前にも言ったはずですよ。
それに『シティ心得』の13条にも明記してあるはずです。ただし、「適当」と「いい加減」は別物ですので疎かにはしないように。もう一度よく読んで復習しておきなさいね。」

 門番は苦笑いを浮かべながら一礼し、もとの直立不動の姿勢に戻った。

 妙齢の女性のシティは微笑を浮かべながら、城門の中央に立ち、

 「それではこれにて『外交部門実践講座―臨機応変な行動をするには―』第4回を終了します。旅人はいつ来るかわかりませんので、どんなときにも対応できるように常に心構えて置きましょう。残り6回です。頑張っていきましょう。」

 髪で隠れている右のイヤホンマイクに向かって言った。

 それと同時に城門の上に備え付けてある鐘が鳴らされた。


 シズたちは森を抜けたところで鐘の音を聞いた。

 「あぁ、あんな長閑で良い国はなかなか見つからないのだろうに。もったいない…。

 ハンドルを片手に前方を向いたまま、シズはそんなことをつぶやいていた。

 「気長に探しましょう。」

 「…………お~~。(ガッツポーズ)」

 陸は激励、ティーは決意した。


 キノはエルメスにまたがり、颯爽と走っていた。

 「ふと思ったんだけど、」

 「なに?キノ?」

 「あの国の人たちは地下にあんな施設があるなんて知ったらどうするのかな?」

 「さぁ?だけど、これだけは言える。ゼッタイ怒って暴動を起こすね。」

 「でもカジノとかのアミューズメントパークで得た利益を国民のために使ってるんだよね?」

 「そうらしいね。」
 
 「だったらなんでエルメスは暴動を起こすって考えたの?」

 「ん~、じゃぁ『たぶん』。」
 
 「……そう。」

 「だってさ、お金全体の総量を増やすために他国からたくさんのお金持ちを招いて遊ばせてるじゃん。しかも食べ物を使って移住させないようにして、貿易の主な物品が麻薬って、ものすごい周到さだよ。」
 
 「それはシティさんが言ってたことだよね。あぁ、農家の人たちには育ててる植物が何かって言ってないんだっけ。」
 
 「そう!そこ!一般の人たちは地下の『アミューズメントパーク』自体知らないし、育ててるものの危険性さえ知らされてない。知ってるのは『シティ』って呼ばれる人たちだけって、不公平じゃない?僕なら短命で病気がちなのがあの人たちのせいだなんて知ったら、轢いちゃうよ。」

 「結局、シティさんの言ったとおり『知らないから幸せになれて、むしろ知るからこそ不幸になることがある』のかな。」
 
 「そっ。知らぬがほっとけって言うしね。」
  
 「…………なんか違うような……。」

                                   ―― END 

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