「盗作・盗用・パクリ」という表現が飛び交う創作界隈について


 すごく面白いアイディアを思いついた! 唯一無二だ! と、胸を躍らせながら手がけた作品とほぼ同じ設定の作品が既に存在していることを知ったときの、えもいわれぬ絶望。創作者であれば経験したことがある人も多いと思います。
 そこまではいかなくとも、意図せず他人の作品タイトルと似ていた、珍しいキャラ名が被っていた、おおまかな展開の一致……など、創作をしていれば誰もがぶち当たる宿命のようなものです。

【自分が思いついたアイディアは、すでに何百何千という人が同じものを思いついていると思え】

 こういった言葉をよく耳にしますが、創作をする上での教訓のようなものですよね。自分が思いつく程度のアイディアは、すでに多くの人が思いついている。悲しいけれど、その通りなのです。創作を始めてまだ十年にも満たないのですが、ひしひしとそれを実感する毎日です。
 アイディアに著作権はありません。思いついたものを好きなように自由に描く権利が誰にでもあります。しかしその裏で、『盗作・盗用・パクリ』といった類のワードが日常的に飛び交っているのが創作界隈です。

 結論から先に言ってしまえば、『盗作・盗用・パクリ』は、安易に使用していい言葉ではありません。

 本当にこれに尽きるのです。私は自作が真似されていると声をあげた過去があり、さらに事実無根の盗作疑いを掛けられたこと(後に詳しく供述します)もあり、どちらの立場も経験しています。ついでに言えば、第三者として身近な人のそれを目の当たりにしたこともあります。
 自分の中での気持ちの整理としてここに記録しておきます。

 大前提として、盗作・盗用はいけないことです。故意に作品をなぞる行為は許されないと私自身も強く思っています。
 問題なのは、「似ていること」 を 「盗作・盗用」 だと安易に表現し、発信することです。

 パクリ、盗作盗用……線引きがとても難しいと、誰もが口を揃えます。  
 名前を変えただけのコピペ小説などわかりやすいものならともかく。斬新な設定が似ている、キャラの性格や関係が瓜ふたつ、おおまかな展開が同じといった場合……。
 それは偶然似てしまったものなのか、純粋な憧れから似てしまったものなのか、はたまたオマージュ作品なのか、書いた本人にしかわかりません。
 他人には判断できない繊細な問題だからこそ、「盗作・盗用」という言葉は、少なくとも第三者は喉奥に留めておくべきだと私は思っています。
 創作界隈では、盗作だと後ろ指を刺された人はたとえ無実であってもその瞬間からで悪意に晒され、広まれば犯罪者のような扱いを受け、筆を折るしかなくなってしまうからです。
 事情を知り得ない第三者が下していい判断では絶対にありません。

 では、盗作された(と感じている)/盗作だと指摘された当事者はどうすべきなのか。
 
 考えは十人十色で、きっと正解なんてないのでしょう。ただ、両方の立場を経験した私から言わせてもらえば、当事者同士、もしくは運営局などの公式を介して解決すべき問題です。
 
 SNSなどで第三者を巻き込んだ瞬間から、当事者だけの問題ではなくなってしまいます。SNSの脅威は凄まじいです。事実虚実問わず広まって、最終的に自分の味方でいてくれる大事な人たちまで傷つけることになります。間近でそれを見たことがあるので断言できます。

 念頭に置いておきたいのは、そもそも「影響を受ける」「似ている」は、悪ではないということです。(もちろん上から下まで“似せた”ものをオリジナルとして発表するのは悪です)。
 意図せず偶然、酷似したものが生まれることだって余裕であり得ます。
(もちろん、故意に盗んだ側がこれを言い訳に使うことは絶対いけません)
 
 尊敬する人から聞いたお話の受け売りですが、哲学的に言ってしまえば、まったくのオリジナルを生み出すことは不可能です。例えば、昭和の漫画と現代の漫画では絵柄も作風も全然違います。その時代の流行りや文化などによって変化しながら今の作風作画があるように、創作者はみんなありとあらゆるものに影響されながら創作をしています。

 実際、世の中は似た作品で溢れかえっています。
 例えば異世界転生チートもの。転生先でチートを発揮し無双する主人公。
 例えば無能令嬢もの。無能が原因で家族から虐げられたヒロインが、位の高いヒーローに見初められるお話。
 例えば余命もの。明るく振舞っているけれど実は大病を患っている子の秘密を偶然知ってしまうという物語の冒頭……。
 ビジネスでは意図的に流行りものを取り入れるので見方によれば無法地帯とも言えるかもしれません。私はどちらかと言えば前向きに捉えていますが、辟易している作家さんがいるのも知っています。難しいです……。

 少し話が脱線してしまいました。

 「私の作品が盗作されました」、と、SNS等でファンやフォロワーに報告する方を今まで多々目にしてきました。
 イラスト・漫画界隈ではいわゆる「トレパク」「絵柄の類似」問題でしょうか。もちろん、意図して作品の展開や設定をなぞる、トレースしたイラストを自作発言する、といった行為はいけません。許されないことです。

 しかし、『盗作・盗用だ。トレパクだ。絵柄を模倣している』……これらの言葉を投げられた側が、もし事実無根だった場合はどうなるのでしょう。 

 以下は私の日記です。都合のいい言葉ですが「昇華」と表現させてください。間違っても個人や作品の特定を促すものではないので(SNSの投稿など、検索にかかってしまわないようぼかして表記し、詳細は省いて説明しています。)フィクションとして読んでいただけると嬉しいです。


 
 私は小説を書いています。もし誰にも読んでもらえなくなっても一生書き続けるだろうなと思うくらい、自分にとってかけがえのない趣味です。ど素人として書き始め、次第にファンになってくださる方も増え、ありがたいことに出版の機会もいただけるようになりました。
 そんなときでした。とある作家さん(以下、Aさんと記します。)が、SNSで「ある作家(私)に盗作された」といった内容の投稿をしていると知ったのは。

 ひどく動揺しました。私なんかよりよっぽど名のある方でお名前は存じておりましたが、SNSの繋がりもなく活動しているサイトも違い、お名前以外、Aさんの作品を盗作盗用できるほどの知識を私は微塵も持っていなかったのです。
 Aさんが「盗作」だと指摘されていたのは、私が自作のアンサーストーリーとして、誰かに読んでもらうためではなくいわば自己満で、お仕事とは別に時間をあてながら大事に大事に書いたものでした。
 そんな大事な作品のアイディアを余所から引っ張ってこようなんて絶対に思わない、絶対にしない。それくらいの気概がありました。それを突然、不特定多数が閲覧できるSNSで「盗作」だと言われ、刹那、悲しみと憤りが同時にぶつかり涙が零れました。
 
 盗用なんか絶対にしないという気概は持ちつつ、今まで読んだことのある作家さん、好きな作家さん、尊敬する作家さんから指摘されたのであれば、もしかしたら無意識に影響を受けていた可能性はあるかもしれない……と素直に顧みることができたのですが、Aさんに関して、私は全くと言っていいほど無知だったのです。
 しかしAさんの投稿は止まず、挙句には「該当作家(私)の作品すべてがAさんからの盗用の可能性がある」などと滅茶苦茶なことまで言われ始めました。
 その一連の投稿をしたとき、Aさんはまだ拙作のたった一作品の触りだけしか読んでいない状態(ということが明確にわかる投稿があり、スクショも撮っています)でした。
 さすがにわけがわからず、とりあえずAさんの作品を読みに行きました。

 ストーリーの概要が掴める部分まで読んだ結果、盗用だと主張されているのはここだろうなと予想できるくらいの似た部分がたしかにありました。もし自分がこれを書いていて、故意に真似されたとなれば嫌だと思ってしまうくらいには、たしかに設定に似た要素が設定の中にありました。
 でもだからと言ってきちんと検証もせず、簡単に「盗用」という表現を使い、不特定多数の見るSNSに流すのは絶対に違うと思いました。暴力にも似た行為です。心が抉られる感覚でした。

 私は盗用していない。設定が完全に一致しているわけでもなく、ストーリーとしても完全に異なるものだと断言できました。
 だけど盗用されたと信じきっているAさんに、事実無根だと信じてもらうにはどうすればいいのか。泣きながら考えました。
 
 Aさんのファンの方も私のことを“そういう目”で見ている。複数対ひとり。違うと声を上げれば醜い言い訳だと晒され、余計に火が広がるのは目に見えていて。
 そうすると私の作品を好きだと言ってくださる読者さんにも、作家のお友達にも迷惑がかかりかねない。作品をいつも丁寧に読んで素敵な言葉をくださる優しい方ばかりなので、拙作が盗用だと吹聴されていることを知ればきっと一緒に戦おうとしてくれるのがわかっていました。
 だからこそ絶対に巻き込んで傷つけたくありませんでした。もうどうすればいいのかわからなくなりました。
 
 私は公式さんに「Aさんの気の済むまで作品を検証していただいて構いません。むしろ検証をお願いします、それが盗用ではないという証拠になるので」とお伝えしました。
 後日、盗作ではないという検証結果が公式から出ても、Aさんは納得いかない旨を投稿していました。

 作品をまともに読まない段階から「盗用」という言葉を使いSNSに発信されたこと。その話に織り交ぜ、風の噂で聞いたと言って事実とは違う私の過去を語られたこと。
 Aさんに憤りを感じる部分は多々ありました。「自分の作品が読まれているのは当たり前」として憶測を広げるAさんに対し、どうしてそこまで確信的になれるのかもとても疑問でした。
 しかし、悩み抜いた結果、自らのアカウントでは何も発信しないことを選びました。SNSで発信した言葉は、そのつもりがなくても簡単に凶器になります。私が自らのアカウントで事実を説明すれば、不特定多数のヘイトの矛先がAさんにも向いてしまいかねないのです。自分が傷ついたからと言って同じように傷つけていいわけではありません。偽善じみて聞こえるかもしれませんし、その通り、残念ながら私は聖人ではありません。
 ただ、身近な人がSNSでの噂に苦しめられ筆を折るまでの姿を間近で見、その脅威を身をもって知った過去があるからです。私自身もSNSで軽率な発言をし己を恥じた過去があるからです。

 しかし、私が意見しないことを、Aさんに「影響を受けたとすら言えない作者」だと捉えられ、SNSでもそう発信されてしまいました。Aさんの一連の投稿を再度見直し、Aさんは、私がこの件をどう受け止めているのかわからずモヤモヤしているのかもしれないと思いました。
 悩んだ末、SNSへの投稿という形ではなく、Aさん個人に向けてお返事することを決めました。「相手が言い訳をしてきた」と晒されるかもしれない、余計に火を付けてしまうかもしれない、震えながらDMを送りました。   
 すごく怖かったけれど、「大事な作品を真似された」と思っているAさんの悲しさ悔しさだけは、私も痛いほどわかっていたからです。

 話が遡りますが、数年前。私もある方に度々作品を真似されていると感じ、サイト公式さん宛てに声を上げたことがあります。
 その方からは感想をいただいていたので、私の作品を読んでくださっていることは明白でした。しかし作品をそのまま真似されるわけではなく、ワンシーンの切り取りだったり、会話のネタと流れが同じだったり、好きだと言ってくださったキャラの特徴と瓜二つのヒーローだったり。第三者から見れば、おそらくせいぜいその程度の「似ている」レベルだったのです。

 しかしそれが続いて、さらにその方の作品のほうがよく読まれ、評価を受け……となっていき、アイディアに著作権がないのはわかっていながらも筆が取れなくなるくらい辛くなりました。画面越しに何度涙を零したかわかりません。
 私が書きたかったものをその方が書いてくださるなら、私は書かなくていいやと自暴自棄にもなりました。十代後半に差し掛かった頃で今より考えも幼く、自分の見えている世界こそすべてだったので、その思考回路から抜け出せませんでした。
 相手の口から直接「影響を受けた、のはあると思う」と濁しながらも返事をいただいたことで、少しでも似ていたらあれもこれも真似じゃないかと疑ってしまうほど愚かでした。思い込みでモノを言い、相手を傷つけたかもしれないと、今はすごく反省してします。
 前述したように、影響を受けるのは悪いことではないからです。私も影響を受けた作品に無意識ながらも似てしまったことくらいあると思います。影響を受けてもらえるくらい面白い作品を書けたんだとポジティブに捉えられていたら……とずっと後悔しています。
 
 その方を悪意に晒したいわけではなかったのでSNS等に吐き出すことはせず、迷惑がられるのを覚悟で、公式さんにその時の気持ちを必死に訴えました。きっと取り乱していたし思い出すと火がでるくらい恥ずかしいです。
 しかしその時、丁寧に話を聞いてくださったことをきっかけに、影響を受けるのは悪いことではない、影響を受け合っていい作品ができると、私の創作に対する狭い考えは変わりました。
 騒ぎ立て、公式さんにご迷惑をお掛けしたことは一生の恥ですが、変わるきっかけをいただけたので、あの時に相談してよかったと思っています。

 話が飛びましたが、送ったDMにAさんからお返事が来ることはありませんでした。返信を求めるような書き方ではなかったので仕方ないかもしれませんが、私からのDMをAさんがどう受け止めておられるのか今でもわからず、ずっと考え込んでしまいます。

 日記はこれで終わりです。

 余談ですが、Aさんの該当作品を拝見した際、真っ先に私の好きなある漫画と重なりました。設定が似ているという観点であれば、拙作よりもその漫画のほうが似ていると感じました。
 Aさんがその漫画の影響を受けた可能性を示したいわけではなく、似た設定はそれほどに世にたくさん存在するということを、私は改めて実感したのです。



 この日記はあくまでフィクションとしてここに眠らせておきます。ただ、今後もしこの件が相手側により再び晒され、第三者さん、出版社さん等にまでヘイトや不利益が被る事態になった場合は、私のこの投稿やAさんの投稿の一部始終のスクショ、送ったDMや該当作品のプロットなどを手に取り戦いたいと思っています。
 

 最後になりましたが、創作には嫉妬がつきものです。気に入らない作家の筆を折るために、それはそれはびっくりするくらい酷い企みをする人もいます。
 中には、名のある作家さんに「あなたの作品が〇〇さんに盗作されていますよ。○○さんは常習犯なので訴えたほうがいいですよ」などと寄り添うフリをしながら嘘で煽り、自らの手を汚さずに○○さんを陥れようとする人もいます。実際にそのような話を持ち掛けられたことが私もあります。汚い意図が見え透いていたので流しました。
 今回の件がどうなのかは、私には知る術がありません……。

 まとまりのない締め方になりますが、周りの意見ではなく、自身の目で直接見極める癖をつけたいと強く感じました。間違っても、自分が誰かを傷つけ陥れる側にならないように、ブレない自分でいたいです。
 
 みんなが楽しく穏やかに創作できる世界になりますように。

 おやすみなさい。


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