“スラッガー”をどう考える。〜ホームランの先に見えるモノ〜

プロ野球ドラフト会議が終わり約3週間今年のドラフトは現行制度になり最多の7回の抽選があった。また、4年ぶりの会場に観客を入れ、大いに盛り上がったのは言うまでもない。

今年の市場は、大学生投手が豊富と言われていた。その中で、前評判の高かった國學院大左腕の武内投手や西武、ヤクルト、ソフトバンクの3球団、青学大の右腕常廣投手にカープ、楽天の2球団の指名が重複した。また、エネオスの度会選手に最初の入札で、中日、DeNA、ロッテの3球団と評価の高さが見えた。

一方、ドラフトの戦前では、競合確実かと思われていた高校通算本塁打記録を持つ花巻東高の佐々木麟太郎がプロ志望届を出さずアメリカの大学へ進学表明。ドラフト本番では、その他の高校生スラッガーと呼ばれた選手も指名漏れや育成指名とプロの評価は厳しいものだった。今回はその“スラッガー”に注目し話を進めていきたいと思う。

そもそも“スラッガー”という言葉を聞き思い浮かべる選手は誰だろうか。世界の本塁打王の868本の記録を持つ王貞治。日米通算507本塁打を記録し名門ニューヨークヤンキースでもプレーした松井秀喜。また、令和の三冠王 昨年シーズン本塁打日本人記録を更新した村上宗隆(現・ヤクルトスワローズ)か。年代にもよるが、思い浮かべる選手はそれぞれであろう。

野球の華。やはりホームランである。1スイングで放物線を描くとともに1得点入る。ランナーがいればなおさらだ。

私自身もそのホームランに魅了されている1人だ。ヤクルト、ソフトバンクで活躍し、日本記録でもあるシーズン本塁打60号を打ち立てたウラジミール・バレンティン選手。当時、その記録をこの目で見たいと思い毎日のように神宮球場へ通い詰めていた日々があるくらいだ。それほどホームランには魅力があり野球においても欠かせないものである。

さて、次に“スラッガー”いわゆるホームランバッターに最低求める成績とはどのようなものだろうか。本塁打30本以上、もしくは25本以上か人によって一定の基準はあることだろう。

しかし、近年、ホームランの数は減少傾向にある。これはデータから見ても明らかだ。

日本に来日する外国人打者においても、以前のようにホームランを量産する強打者は少なくなっている。そこには経済的な事情等も絡んでくるのは事実だ。その他にも、ホームラン減少の要因は色々考えられる。例えば、投手の平均球速が上がり打者の対応が難しくなったこと。さらに、追求していけば様々な要因が浮かぶはずだ。

何が言いたいかというと、要するに、ホームランが減少しつつある昨今、“スラッガー”という言葉だけが、1人歩きしプロ野球の実情とやや乖離が生じているのではないかということだ。

確かにホームランバッター、“スラッガー”というと魅力的に聞こえ、期待するモノは大きくなる。

“スラッガー”といういう言葉の意味合い基準を変更していく過渡期になってきているのではないかと強く思う。

例えば、38年ぶりの日本一に輝いた阪神タイガースは決して本塁打は多くない。リーグ5位の84本塁打だ。また、四球は494個でリーグ断トツ1位だ。その多くの四球を確実に得点に繋げセ・リーグを制した。出塁率があり、得点圏打率高く勝負強い打者を“スラッガー”と呼ぶと言ってもいいのではないかと考える。

二塁打の延長線上がホームランであり、その中で二桁本塁打を期待できる選手を“スラッガー”と呼ぶのが適正ではないかと。従来の“スラッガー”の概念は現代野球においてはそぐわなくなってきている。そのような概念も、野球や時代に合わせ変更していく必要がある。

あくまでもホームランが量産できる可能性があるという選手を総じて“スラッガー”と呼ぶということは大前提ではあるが、その可能性は果たして現実味がある数値なのかは甚だ疑問である。必ずしも、アマチュア時代にホームランを量産していてもプロでも多くのホームランを打てるとは限らない。そこは考え方として明確な線引きが難しいところなのは重々承知である。

それぞれの選手が目標とする選手像は違うわけだが、ファンや周囲がそのような認識を少しでも持ち合わせていれば、過度な期待などで選手を潰すといったようなことはなくなるのではと、思う。

今まで述べてきたことは、感覚論的な部分も大いにあるが、なんらかの基準を設定していくことは強く提言していきたい。

最後に、今ドラフトで育成含む指名された総勢122名の選手が1人でも多く活躍し、夢を掴んで欲しいと切に願いたい。

そして、鮮やかな放物線を描いた一振りで多くの観客を魅了するような“スラッガー”は現れるのだろうか。非常に楽しみである。

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