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夕暮れ発さみだれ号


どんより雲の垂れ込めた
夕暮れの山あいに
汽笛が響く
細く高く鋭く
決断を迫るように

谷間を埋める菖蒲田から
さみだれ号が発車する
戸惑うぼくの前で
扉がガタピシ揺れながら
閉まっていく

じっと見守る
いつもの猫
2匹

きょうも乗らなかった
乗れなかった
さみだれ号が
ゆったりゆっくり動きだし
夕空に吸われるように上って行く
いったん乗り込んでしまったら
途中では降りられない
ここへは戻れない

花菖蒲の中に取り残されたぼくは
もうひとつ
夕闇に融けそうな
いつもの人影を見出した
しばし空を仰いだ後
くるりと背を向けて
たそがれの小径を
遠ざかって行く
いつものように足取り重く

猫たちの姿は
いつしか見えなくなっていた
いつものように

天から
細く高く遠く
汽笛が聞こえた




   撮影地  愛知県豊橋市大脇町(今は無き風景)

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