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朱の卵


地平線に沈みゆく太陽の
名残の飛沫(しぶき)
草むらに朱をともし
日の出を迎える

まっ赤に熟したカラスウリの実は
眺めるだけでは満たされず
手に取ってみたくなる

少年の頃
ぬかるみにずぶずぶとはまりながら
弦から引きちぎった実を
ポケットにしまいこんだ
持ち帰った実がだんだん張りを失くし 
しょぼくれていく姿に居たたまれず
ポケットに突っ込み
元の草むらに放り投げた
ほのかな灯を吹き消してしまった
自責の念が染みとなった

今年はカラスウリの実が少ない
岸の草むらに卵型の朱が1つ2つ
ぷららんとぶら下がるばかり
去年は幾つも連なった実が
川岸を鮮やかに装飾していた
例年にない暑さの続いた夏のせいか

ぷらりぷらり朝の堤防を散歩しながら
川の秋の推移を目に収める
橋を渡り
反対の岸の堤防を戻るとき
川っ縁に繁茂する草陰から
水鳥の子たちが揃って姿を現した
一羽ごとに末広がりのラインを
水面に描き泳ぐ
サアアッ
風がさざ波を誘い
いっせいにススキがなびく
その間から不揃いに揺れる
朱の卵が陽を不規則に反射する
ぷらぷららん
草むらの裏には
こんなにも実っていたのか
対岸から見なかったら気付かずにいただろう

カラスウリの花は夜に咲く
細長く繊細な触角を
無数の白糸のように広げ
闇におぼろに浮かび上がる
朝の光を感ずると
はかなくも閉じる
この妖しい魅惑的な生き物が
ずんずん大きくなって覆いかぶさり
十代の私を
そのまっ白な檻に閉じ込めたのは
夢だったのか 妄想だったのか









  ▲▽▲  ▽▲▽  ▼△▼  △▼△

寒い風の吹く季節になりました。
みなさん、お元気でお過ごしでしょうか。
私は寒暖差に負け、微熱状態です。

今回は、秋の川辺をテーマにしました。
いつも散歩する堤防で眺めている景色を
織り込みました。
カラスウリの実が陽に輝いています。

来週も水曜日か木曜日に更新する予定です。
また見に来てください。
私もみなさんのページを訪ねます。



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