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映画の外側 『荒野の7人』(1960)


監督
ジョン・スタージェス

出演者

ユル・ブリンナー
イーライ・ウォラック
スティーブ・マックイーン
チャールズ・ブロンソン
ロバート・ヴォーン
ブラッド・デクスター
ホルスト・ブッフホル
ジェームズ・コバーン

音楽
エルマー・バーンスタイン

監督は「大脱走」のジョン・スタージェス。

あらすじ

・国境を越えたメキシコの寒村イズトラカンは、毎年収穫期にカルベラ率いる盗賊に作物を奪われ苦しんでいた。彼らと闘うことを決意した長老と村人たちは助っ人を雇うことにした。クリスら腕利きのガンマン7人が集まり、村から盗賊を追い払うため、40人の敵に壮絶な闘いを挑む。

概要

・黒澤明監督の日本映画『七人の侍』(1954年)の舞台を西部開拓時代のメキシコに移して描いたリメイク映画です。

・この作品はジョン・フォードらが築いたハリウッドの西部劇時代の終わりを飾る作品です。
『荒野の七人』公開後の1964年にイタリア製作の西部劇『荒野の用心棒』が公開されマカロニ・ウエスタンの時代を迎えました。

・撮影手法の特徴として、様々なアングルで複数のカメラを同時に回すマルチカム撮影、戦闘シーンでのスローモーション表現、望遠レンズを活用したスピード感溢れる映像です。

・『七人の侍』における数々のテクニックが、その後あらゆる映画のあらゆる場面に模倣され、次代のアクション映画の基礎となりました。

当初の構想では、監督をユル・ブリンナー、製作をルー・モーハイム、主演をアンソニー・クインが担当する予定だったようですが、スタッフ間の対立により現在のスタッフ・キャストに変更されました。
また、実際にはウォルター・ニューマンとウォルター・バーンスタインも脚本を手がけていますが、共同脚本のクレジットを辞退したため映画・ポスターでは脚本のクレジットはウィリアム・ロバーツ単独になっています。(後述)

版権問題

・黒澤明監督の『用心棒』(1961)を、セルジオ・レオーネが『荒野の用心棒』(1964)としてリメイクしたときには、東宝に何の断りも入れていなかったために著作権侵害で訴えられ、世界興収15%の利益を黒澤側に支払うことになりました。
『荒野の七人』では、プロデューサーのルー・モーハイムが東宝とキチンと交渉を重ね、オフィシャルにリメイク権を獲得します。
その金額はわずか250ドル。
現在の貨幣価値に換算しても、およそ2,200ドルという安さでした。
(ちなみにリメイクの商談にあたって、東宝は『七人の侍』の脚本を執筆した原作者たち 黒澤明、橋本忍、小国英雄の3人に何の断りもなくリメイクを許諾しました。)

メキシコ政府との問題

・ロケ地はメキシコも選ばれましたが、1954年に撮影された西部劇の映画「ヴェラクルス」でのメキシコ人の扱いはメキシコ政府を怒らせてしまったようです。
その流れでこの映画は撮影中厳しいメキシコ政府の検閲を受けることになります。

事あるごとに政府派遣の監視員が撮影に立ち会って駄目だしをしたと云います。

ロケ地や多数のキャストを使ったメキシコに配慮して、初めから用心棒を雇うのではなく銃を購入するという村人の自主性を尊重したり、農作業に勤しむ村民たちが汚れひとつないような真っ白なシャツを着ているのも、検閲官の指示によるものだったそうです。

また「百姓が侍に代理戦争をさせる」と云うこの物語の重要なコンセプトが「メキシコ人にそんなズルイ人間はいない」と云うことで脚本の書き直しを命じられたそうです。

撮影前のキャスティング問題


・最大の問題は、キャスティング。映画俳優組合がストライキを予定していて、早いうちに配役を解決しないと、映画の製作が大きく遅延することが予想されていました。製作陣は時間と戦いながら、荒野の七人を決めなくてはいけない事態に陥ったのです。

・主演として考えられていたのは、『革命児サパタ』(1952)や『炎の人ゴッホ』(1956)で知られるアンソニー・クイン。
彼もまた、『七人の侍』を観て感激した一人でした。
そのアンソニー・クインに薦められて、ユル・ブリンナーも『七人の侍』に深い感銘を受けます。

・当初の構想では、製作ルー・モーハイム、監督ユル・ブリンナー、主演アンソニー・クインという布陣が考えられていました。
ですが、お互いにエゴが強すぎるユル・ブリンナーとアンソニー・クインが決裂。
ブリンナーはルー・モーハイムからリメイク権を買い取り、彼主導で『荒野の七人』のプロジェクトが進められることになります。

これに対し、アンソニー・クインは烈火のごとく怒りまくり、契約違反だと主張して訴訟騒ぎになります。
最終的にこの訴えは棄却されることになりますが、『荒野の七人』は波乱含みのスタートを切ることになります。

その後、ユル・ブリンナーは主演のクリス役を演じることに方向転換して、監督にマーティン・リットを指名しました。
脚本にはウォルター・バーンスタイン
音楽にはディミトリ・ティオムキンが招聘されます。

・この製作体制も崩壊を迎えてしまう。マーティン・リットは方向性の違いからプロジェクトを離脱し、代わって、『OK牧場の決斗』(1957)で西部劇を手がけたジョン・スタージェスが監督に就任します。
このキャスティングは、プロデューサーに就任したウォルター・ミリッシュの助言によるものでした。
ウォルター・バーンスタインが書いた脚本も、ウォルター・ニューマンによって大幅に書き直される事態になります。
さらにそのニューマン版シナリオも、ウィリアム・ロバーツによってさらに修正が加えられ、映画のクレジットではウィリアム・ロバーツの単独名義となってしまいました。

・作曲を務めるはずだったディミトリ・ティオムキンは、監督のジョン・スタージェスと衝突したそうです。
二人は『OK牧場の決斗』でタッグを組んだ間柄でしたが、スタージェスはティオムキンの書き上げたテーマ曲がどうしても気に入らず、彼の解雇を決断しました。
後任として呼ばれたのが、気鋭の作曲家として名を上げていたエルマー・バーンスタインだった。有名な『荒野の七人』テーマ曲は、ティオムキンの交代劇がなければ存在しなかったのではないのでしょうか。


・ジョージ・ペパードやジーン・ワイルダーも候補に挙がっていたサブリーダーのヴィン役には、スティーブ・マックイーンです。
当時彼はCBSで放送されていたテレビドラマ『拳銃無宿』(1958~61)に出演中で、スケジュール的には難しい状況でした。
そこで彼はわざと車をクラッシュさせて、“病欠”している間に『荒野の七人』の撮影に参加するという離れ業を披露し、見事ヴィン役をゲットします。

・やたら金目のものに執着するハリー役には、ブラッド・デクスター。
彼はフランク・シナトラの友人で(シナトラの主演作『勇者のみ』(1965)や『脱走特急』(1965)にも出演している。
彼の取りなしでジョン・スタージェスに紹介してもらい、役をゲットしたそうです。


最後まで難航したのが、ナイフ投げの達人ブリット役。
元々はスターリング・ヘイドンが演じる予定でしたが色々あって降板しました。
ロバート・ヴォーンの推薦もあって、ヘイドンよりも一回り若いコバーンが抜擢されました。
『七人の侍』を15回も鑑賞するほどオリジナル版の大ファンだった彼は、久蔵役を演じた宮口精二の芝居を徹底的に研究し、自分の役作りに反映させたといいます。

ユル・ブリンナーとスティーブ・マックイーン
の関係

・遂にキャスティングは決まったのですが撮影に入るとさらなる難題が待ち受けていました。
映画の主導権を巡って、ユル・ブリンナーとスティーブ・マックイーンの関係が悪化してしまったのです。


二人の諍いは、映画の序盤から確認することができます。
クリス役のユル・ブリンナーが霊柩車を引くシーン。ヴィン役のスティーブ・マックイーンが、帽子を脱いで風の有無や太陽の光を確認したりするのですが、ブリンナーはコレが気にいらなかったようです。
それは観客の注意がマックイーンに向けられることになってしまうからです。

 七人がメキシコの寒村に向かうとき、マックイーンが一人身を乗り出して帽子を川に浸す芝居をしたのですが、これもまた気に食わない。
ブリンナーは、「その動作をやめないと、私も帽子を脱ぐぞ。そうすれば映画の残りの時間、誰も君のことなんか見ないだろう」と言い放ったといいます。
それでも、マックイーンが何かしでかすのではないかと心配したブリンナーは、アシスタントに言いつけて「マックイーンが帽子に触った回数」を数えさせたといいます。
二人が並ぶショットでは、ブリンナーは常に土を盛ってその上に立ち、マックイーンよりも背が高いことを印象付けようとしました。


・ジョン・スタージェスは、他にも問題を抱えていました。
脚本家が3人も入れ替わってしまった関係で脚本があまりにも抽象的で曖昧だったために、クライマックスでガンマンたちがどの順番で、どのように殺されるのかが明確ではなかったのです。

スタージェスは、熟考のすえにあるアイディアを思いつきます。
リー(ロバート・ヴォーン)、ハリー(ブラッド・デクスター)、オライリー(チャールズ・ブロンソン)、ブリット(ジェームズ・コバーン)…。彼らが死ぬ順番を、キャスティングが決まった順番にしようと考えたのでした。
(ロバート・ヴォーンが「最初に死ぬのは嫌だ!」と駄々をこねたため、最終的にはハリーとリーの順番は入れ替えられました)。

 また、ガチガチに演出プランを決めるのではなく、できるだけ役者の即興芝居を受け入れるようにもしました。
例えば、リーが壁を滑り落ちるように死んでいくシーンは、ロバート・ヴォーンの完全アドリブです。

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