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バカの壁

養老孟司『バカの壁』

この本は、人は話が通じると思っているが、そんなことはないということを様々な事例を基に語っている。

この本の冒頭で、僕がバカの壁を一番象徴的に表していると思うのが、「イギリスのBBC放送が制作した、ある夫婦の妊娠から出産までを詳細に追ったドキュメンタリー番組を、北里大学薬学部の学生に見せた時の」話である。

この映像を見て、男女の感想がまるで違った。女性は、細かい描写にも注目し、様々な発見をした。一方で、男性は、そんなことはみな知っていると聞く耳を持ったなかった。

女性は、将来自分も直面するかもしれない人生の一大イベントの映像だから、一生懸命何かを吸収しようとした。
男性は、知らないことはあるが、知りたくない。現実を見たくないから、シャットアウトして、全部知っていると一蹴した。

冒頭の話ではあるが、これがまさしく養老さんの言うバカの壁を表している。

「バカには通じない。」

いくら話したって、相手が利く耳を持たなければ意味がない。文字通り、話が進まない。

話を聴くことについて、この後の話で脳の出力を用いて説明している。

脳は、入力された情報を変換して出力している。ただこれだけのシンプルなシステム。

これを、y=ax
と表現している。

xが、入力情報で、yが出力情報。aは、係数であり、ここでは「現実の重み」と表現されている。

外部の情報に対して、何らかの反応や操作を施して、外に情報を発信する。

その過程で重要になるのが、aの値である。

大抵は、理解に関して、aはゼロまたは無限大になることはない。わかり薬いうと、プラスに受け止めようが、マイナスに受け止めようが、せいぜい
y=3x, y=-3x
くらいなものである。

ただ、特殊なケースとして、ゼロの場合がある。それは、聞く耳を持たない場合である。何を言っても、話を聴かない。先の男子学生の例である。
こうなれば、何を言っても意味がない。

無限大の場合もある。この本では、原理主義があげられる。神ののたまうことは正しい、ヴィーガンは正しい、など自分に都合のいい情報を無限大にプラスに解釈して、発信している。つまり、一部の情報だけを妄信している。
反対に、都合の悪いことは、グラフがマイナスの方向に発散している。

このように理解を整理していくると、大変分かりやすい。

話が通じない相手は、そもそも聞こうとしていない。その場合、コミュニケーションを諦めるか、別の話をするかしかない。

とはいえ、話せばわかるというものでもない。自分と相手の考えや環境が異なる、いやそもそも自分と他人の知能や感覚といった生物的な個性すら異なる以上、分かり合えるには限界がある。

その中で、齟齬がありつつも、分かり合う。そんな諦めが必要なのかもしれない。

一方で、自分の係数がaにならないように常に意識していきたいものだ。

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