柔術を武術的に再生する-その4-「裸締」を例に

1 ようやく『柔術大学』を紹介する記事を書き終えたので、今回はリラックスして「裸締」について書いてみたい。
 「裸締」とは何ぞや?という方のために、まずはいつものように白木先生の動画を見て頂こう。

 この動画では「チョークスリーパー」として2種類の掛け方が紹介されている。前半部で扱われているのが頸動脈を締める「裸締」、後半部が相手の頸椎を締める「裸締」である。本稿では、前者の頸動脈を締める「裸締」を対象として論じてみたい。

2 「裸締」はBJJに限らず、他の格闘技でも見られる技である。相手の首を両手で締める形を作るだけならば素人でも出来るので(勿論、それがチョークとして機能するかは別問題である)、太古の昔から洋の東西を問わずにあったのではないかと推察される。
 次に柔道の「裸締」を見てみよう。

 私は柔道未経験者なので、「裸締」が柔道でどの程度使用されるのかは知らないが、この動画を見る限り、両手を組まずに、相手の首に巻いた手の拇指丘を使って頸動脈を圧迫して締めている。
 今度は大東流の「裸締」である(下記動画の5:20~を参照)。

 この動画では少し分かりにくいかと思うが、相手の突きを左手で捌いて、右手を相手の首に引っ掛けながら裏に入り、相手の背後から頸動脈を圧迫して締めている(この動画は締まっていないように見えるが)。
 BJJ・グラップリングで「裸締」と言うと、相手の背後で自分の両腕を組むやり方(注1・いわゆる「マタ・レオン」)が普通であるが、柔道や大東流では両腕を組んでいない。では、この3つの「裸締」は全て理合の異なる別の技と解するべきだろうか。
 結論から言えば、「裸締」の理合を、相手の首に巻き付けた腕を使って頸動脈を圧迫し、それで相手を失神させる点にある、と解するならば、この3つの「裸締」は全て理合を同じくする技で、外形上の違いは技の本質において差異をもたらすものではないと私は考えている。

3 BJJやグラップリングの初心者が「裸締」を掛けようとすれば、ほぼ間違いなく両腕を外側に開くようにして(両肘が←→の方向に開いていく)締めようとする。これでは相手の首に巻き付けた腕が頸動脈から外れてしまうので、チョークとしては全く機能しない。無駄に締める力とスタミナを消費するだけである。
 ただし、以前紹介した「送襟締め」や「十字締め」と違って、両腕を組んだ形の裸締めでは自分の親指やナックルを相手の頸動脈に直接押し当てる事が出来ないので、そのままでは相手の頸動脈を圧迫することが出来ない。では、背後から両手を組んだ状態でどうすれば相手の首に締めの圧力を掛ける事ができるのだろうか?
 次の動画を参考にして欲しい。

 この動画のポイントは二つである、両手を組んだ状態で相手の頸動脈に圧力を掛けるために①自分の胸を相手の背中を押すように「前に」突き出す、そして、②組んだ両肘を内側に(両肘が→←の方にハサミで切るように)閉めて行くことである。
 実際に自分でやって頂ければ分かるかと思うが、このやり方なら力をほぼ全く使わない。「チョークは腰で絞める」と何度か書いたが、「裸締」だけは例外的に「胸で絞める」(ちなみに、白木先生は胸で絞める代わりに、自分の頭を前に押す事で相手の頸動脈に圧力を掛けておられる)。そして、両肘を内側に閉める事で、相手が自分の腕に上から指を引っ掛けて(チョークが入らないよう)スペースを作ろうとして来ても、その指ごと締める事が可能になる。
 以上の話を前提に柔道や大東流の「裸締」に返ると、いずれも頸動脈に拇指丘を当てて、柔道では胸を張り、大東流では自分から後ろに下がって相手をのけ反らせるようにして締めを掛けている事が分かる。つまり、先に紹介したBJJ・柔道・大東流の3つの「裸締」は全て等しく、背後から腕を組んで「体重を使って」胸で絞めているのである。

 参考までに、柔道の「裸締」に近いBJJの締めも紹介しよう。


 私もノーギでバックを取れたらこの「パーム・トゥ・パーム・チョーク」をたまに使う事がある。だがやはり、確実にタップを取ろうと思えば、時間がかかっても両腕をクラッチして「裸締」に行こうと常に考えている。
 「裸締」が胸で絞める技だという事を私はヘンリーの教則で習ったが、実際(ヘンリーの師匠である)ヒクソンも「裸締」は胸で絞めている。

①https://www.youtube.com/watch?v=GukHAMMDE_U (無音だが、この動画が一番「胸で絞める」という事が分かりやすい)
②https://www.youtube.com/watch?v=iXgE2SZBaUE
③https://www.youtube.com/watch?v=WNH_WWHQsVM

 「裸締」はメジャーな技だが、探求すればするほど面白い。私も最初は両腕を組んだ状態から、腕の力で絞めようと必死になっていたが、全く締めが入らずに悩んでいた。そういう試行錯誤の過程があったからこそヘンリーの「胸で締める」という言葉をきっかけに気付きが生まれたのだろうと思う。

注1)https://www.bjjheroes.com/techniques/the-mata-leao


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