ここで息をする

最小限またはそれ以下の物しか無いこの部屋では音そのものを感じられる。
生きている実感の大抵をここで得ている。
部屋を出れば数え切れない程の音があるはずが不思議とそれでは生きている実感が得られない。
おかしな話だ。
生きているというより、埋もれている。
何事も多ければ良いってもんじゃない。
私もこの部屋の中で気付けば大人になったんだな。
鍵を閉める音。コンロの火を点ける音。文庫本のページをめくる音。布団が擦れる音。歯を磨く音。深く漏れる息の音。ランプのスイッチを消す音。
この生活は、なんでもない音があるだけだ。




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