どうでもいい話

「調子どうよ〜」
「良くも悪くもない」
 なんの通知も来ていないスマホを弄りながら、どうでもいい話をしている。
「まあ連休半ばにこんな会話してる時点で、良くも悪くもないよな」
「なんにもないよ」
「でも、風が気持ちいいよ」
「部屋の中にいんだろ」
「来るまでの話だよ」
「鳩とか見た?」
「カラスしか見なかったな〜」
 マスクとチューハイしか入っていない冷蔵庫からチューハイを2本取り出し、床に置く。
「お前まだマスク冷やしてんのな」
「冷たい方がいい」
「衛生的にあれだろ」
「べつに。効果とか気にしてないし」
「なんも入ってないもんな、冷蔵庫」
「ビニ弁しか食わんし」
「クァンシ好きだよ俺」
「あー、好きそう。あーゆーキャラ」
「同性から見てどうよ」
「漫画のキャラに好きも嫌いもないだろ」
「飲もうよ、暇だし」
「私が酒好きじゃないの知ってるのに買ってくるなよ」
「寂しいでしょひとりで飲むのは」
「飲まない方を選べよ」
「俺も普段飲まないし」
「まー、いいか。じゃっ、乾杯」
「かんぱい!」
 タブを引く指が荒れている。エロい。
「仕事どう?」
「まあ、だるいよ」
「忙しい感じ?」
「んなことはないけど。製本なんか斜陽もいいとこよ」
「きついなあ」
「どうせそのうちやめるし。やめるまでは潰れないでほしいけど」
「やめなそうだなあ」
「フラフラしてるお前よりはマシでしょ」
「どっちもどっちだろ」
「明らかにこちらに分がある」
「これ不味いな」
「酒なんかどれも不味いよ」
「でもそこがいい」
「よくねー」
 不意に彼女がテレビをつける。旅番組が流れていて、女性タレントがこちらをじっと見つめている。
「なんだこれ」
「気味悪いなあ」
「でも顔整ってるな」
「私もこんな顔に生まれたかった」
「今ある武器で戦おう」
「折れてるよこの剣」
 女性タレントは微動だにせず、じっとこちらを見つめている。
「やっぱ可愛いな、この人。ドキドキする」
「お前こういう顔が好みなの?」
「好み」
「悪いね、休みの日にこんな顔見せて」
「お互い様だろ」
「確かに。私の方がマシだ」
「それは……そうかも」
「お前、タンスに似てるよな」
「タンス?」
「可愛くないけど、視界に入ってても違和感ないとことか、似てる」
「喜んでいいの?」
「喜べ喜べ」
「まわってる?」
「まあまあまわってるかも。弱いし」
「そういやそうだった」
「だから嫌なんだよな〜、酒飲むの」
「大丈夫、1本ずつしかないから」
「そりゃ良かった」
「調子どうですか?」
「うおっ!」
「ひょ!?」
 部屋の隅に、さっきまでテレビに映っていた女性タレントが立っている。
「驚かせちゃってごめんなさい!もう一度聞きます、調子どうですか?」
「まあまあ……」
「良くも悪くもないです」
「おふたりのご関係は?」
「小中高の同級生です」
「です」
「ゴールデンウィークにふたりで宅飲み……お付き合いされてるんですか?」
「いや」
「そういうのじゃないです」
「じゃあどういう?」
「友達です」
「腐れ縁」
「男女なのに?」
「だりぃ〜」
「時代錯誤だ!」
「申し訳ないですわ」
「おじさん口調だ」
「まだ飲みますか?」
「いやもう、ないし」
「弱いんでもう、飲みたくない」
「スマドリなら?」
「スマドリ?」
「ノンアルコールとか微アルコールとか、スマートドリンク?みたいな」
「いやでも、もうないし」
「買ってきてくれるの?」
「いや、ありますよ」
 ガチャッ。
「え、さっきまでマスクしかなかったのに」
「タレントなんでね。これくらい朝飯前」
「知ってるタレントと意味合いが違う?」
「はい、ノンアルコールビール」
「元から飲まないからジュースの方が……」
「麦ジュースだ」
「私はチューハイ。あなたは?」
「じゃあ俺もチューハイで」
「それじゃ、かんぱーい!」
「かんぱい〜」
「乾杯」
 ごくごく。ぷはー。
「うまいっすね〜」
「タイプの顔が近くにあるから?」
「それもあるかも」
「えー、あたし好きなんですか?」
「まあ……まあまあ」
「でも残念、彼氏います!ごめんなさい」
「えー!」
「ははは、ざまあみろ」
「これオフレコでお願いしますね」
「まあまあ……しゃーない」
「元からノーチャンだろ」
「そういえば、どうやって来たんですか?」
「タレントなのでとしか」
「違うなあやっぱ」
「色々と違うね」
「番組はどうなったの?」
「普通に、私が出てますよ」
「えっ、ふたりいる感じですか?」
「いやだってあれ、生じゃないし」
「そういえば」
「それもそうだ」
「そうなんですよ」
「いやでもそれとこれとは話が……」
「ういーっす」
「えっ?」
「おっ?」
「お〜?」
 玄関口に男が立っている。
「どなた〜?」
「僕です」
「詐欺?」
「どいつもこいつも、人んちに勝手に入ってくるなよ」
「そこは本当に、申し訳ない」
「まあ、いいとしよう」
「やさしい」
「やさしいですね〜」
「で、なんの用?」
「飲みませんか?」
「酒を?」
「連休なのになんもしてないの悲しいし、みんなで飲みたくて」
「飲み屋に行けよ」
「恥ずかしくて……」
「分かる」
「入りにくいですよね、居酒屋って」
「常連でコミュニティが形成されてそうで、なかなかね……」
「ここにもコミュニティがあるわけだけど」
「でもなんか、ゆるそうだし」
「まあまあ」
「そう言われると」
「否定はできないですね」
「いっぱい買ってきましたよ!」
「つまみは?」
「つまみもいっぱい、ロー○ンのだけど」
「セ○ン派なんだよな〜」
「俺は満足」
「あたしはファ○マ派です」
「全員が納得ってわけには、なかなかね」
「それもそうか」
「じゃあ飲みましょう!」
「靴脱げ、靴」
 かんぱーい!あはは……あはは……。
「なんか酔ってきたかも〜!」
「ちょっ、近いですよ!」
「え〜?童貞か〜?」
「デレデレすんな〜!」
「僕、俺さんタイプかも……」
「なんだこれ、ハーレムか?」
「リアルハーレムなんて、いいご身分だな〜おい!で、誰選ぶんだよ?」
「俺は、ずっとお前が……」
 ぴぴぴぴぴ。
「えっ?」
「あー、時間切れか」
「最初のグダグダが痛かったですね」
「会話のない時間がな〜」
「えっ、おい!会話がなくても間が持つのは本当に仲がいい証じゃなかったのかよ!」
「いやそれとこれとは」
「話がね」
「男友達じゃないんだから」
「あとこれ」
「夢」
「だからね」
「連休が明けて」
「社会が元に戻っても」
「自分のペースで頑張れよ」
「「「応援、してるから!!!」」」

「今どき、夢オチかよ〜!」

終わり








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