散歩の副産物

 正確には一駅前から徒歩で帰宅したときの話です。途中にいつも利用している図書館があるので、先日予約しそこねたデビット・スーシェ『ポワロと私:デビット・スーシェ自伝』の予約をしようと思って気まぐれに途中下車して寄り道をしました。アガサ・クリスティの作品が好きで、マープルものから入り、ポアロものもある程度読んでいるのですが、その話は長くなるので割愛しましょう。先日たまたまAmazonプライムビデオでデビット・スーシェ氏演じるポワロを見て、「ポアロが動いてる!!」と感動したんですね。キャー!襟の折れ具合を気にしている!完全にポアロ!!もう、とにかく小説そのまんま、頭のなかでイメージしていたポアロが!目の前に!!(ただし画面越し。いや、画面越しどころか国越しだし時代越しでもあるか。)
 いや、そういう話をしたいんじゃないんですよ。ともかくそんなわけで図書館によったらですね、俳句が展示されていたんです。地元の小学校の(おそらく冬休みの宿題)子どもたちを対象とした大会でした。正確には「第3回チャレンジ子ども俳句大会」と銘打たれていました。
 子どもの俳句は侮れません。俳人が名句を集めたアンソロジーを何冊か読んだことがありますが、必ずと言っていいほど子どもの俳句が収録されています。ほんとに。月並みな表現ですが、てらいがなくて子どもの視点が素直に詠まれているんですよね。大人ならしない(できない)表現というか。今回見たものにも秀作がありました。展示された作品を鑑賞して個人的に特に気に入った作品とその鑑賞文を書いてみます。なお、作者のお名前はあえてメモしませんでした。大人ならそこも合わせて記載してもさほど問題は無いでしょうし、むしろそうすべきなのでしょうが、小学生のお子さんの名前をみだりに書くのは憚られましたので。受賞した賞のみ付記するかたちといたします。ちなみに紹介順は見つけた順です。
 では一句目。三・四年生の部の作品です。
サンタさん今年はまい子にならないで
 (北九州市青少年育成市民会議賞)
 まい子は原文ママです。小学生ですからね、まだ習ってないのよね。そこもかわいい。しかしもちろん、この句の見どころはそこではありません。作者のサンタさんは去年は迷子になってしまって、作者のもとへ辿り着いてくれなかったんですね。それで「今年『は』」と表現している。たった一つの助詞がこの句を魅力的にしています。去年は迷子になっちゃって来てくれなかったけど、今年こそは来てねといういじらしい祈りの句です。
 大人としては、お家の方の気持ちもいろいろと想像してしまいます。何かしらご事情があって我が子のもとにサンタさんを呼んでやれない。そんななかで「サンタさんは?」と尋ねる我が子。苦肉の策で「サンタさんは迷子になっちゃったんだって」とお話されたのでしょうか。お子さんのサンタさんを信じる純粋な気持ちを大切にしていることが窺えて、なんとも切ない句です。
 それでは二句目。五・六年生の部の作品です。
節分でおじいちゃんより豆を食う
 (審査員特別賞)
 どんだけ食うたんや、君。なんとなーく、黄色いトレーナーを着ていてほしい。元気いっぱいな作者の姿が目に浮かびます。そもそも節分でお豆さんを食べるご家庭も少なくなってきているのではないでしょうか。家族で集まって豆まきして皆で食べる。素敵な光景です。なんとなく皆でこたつに入って食べている情景が浮かびます。年の数だけでは物足りずに、おじいちゃんよりたくさん食べちゃう。いいですね~。誰に対する遠慮もなく見栄もなく、元気いっぱいです。小学生はこうでなくっちゃ。
 では、最後の三句目です。こちらも五・六年生の部の作品です。
でもはきたい短いスカート冬の空
 (入選)
 「でも」がものすごくいい。そもそも俳句の頭にめったにこない言葉です。そして字余りになることで印象がより強まっています。もう、お家の人に散々言われたんでしょうね。なんなら親戚やおじいちゃんおばあちゃんなんかにも言われたのかもしれません。なんなら寒いのなんか、自分でもよーーーーーーくわかっているんですよね。冬の空もどんよりとして作者に「寒いかも」と思わせるプレッシャーをかけているように見える。「でも」!「でも」はきたいんです。オシャレは我慢なんですよね。若さっていいです。そうはいっても、おばちゃんとしてはどうしてもそんな短いスカート履いちゃ大変よ!冷えちゃうよ!!って言いたくなっちゃいますけどね。せめて、出かけるバックにマフラーかストールを一枚押し込ませてほしい。おばちゃん心配しちゃうの!余計なお世話なのは知ってるんだけどね。でもあなたのオシャレ街道をどんどん突き進んで楽しんでほしいな。
 今回気まぐれに図書館によったのですが、いいものを見られました。いい一日でした。予約した本も早く手元に届くといいな。

※表記として「ポアロ」と「ポワロ」が混在しています。デビット・スーシェ氏が演じたのは「ポワロ」表記なのでそちらに準じています。ただ、私が個人的に早川書房のクリスティー文庫で慣れ親しんでいるので「ポアロ」表記をメインに使わせてもらいました。

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