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一般家庭マイナーにおけるETHのPoS移行の影響

こんにちは、Fintertech の太田です。

イーサリアムのプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への全面的移行が迫る中で、これまでプルーフ・オブ・ワーク(PoW)を支え続けた一般家庭には、どのような影響が及ぶのかを考察しました。

これは、妻の冷たい視線にも負けずマイニングに突き進む一般家庭の物語です。

以前、弊社神脇(@H_Kamiwaki)が書いたブログではイーサリアム(ETH)担保ローンの提供開始を機にイーサリアムの特集をしておりますので、是非あわせてご参考ください。

マイニングについて

ビットコイン(BTC)やイーサリアムなどの暗号資産は「ノード」とマイニングを行う「マイナー」によって日々支えられています。近年、ビットコインのマイニングでは、2013年頃からASIC(特定用途向け集積回路)にその座を譲り、ASICより性能が低いGPU(画像処理装置)が利用されることはなくなりました。一方で、イーサリアムのマイニングは、足元でもGPUが利用されています(ただし、イーサリアム専用のASICはあります)。

一般家庭におけるマイニングでは、主にGPUが利用されます。
ASICは高性能ですが、およそ高価な機器であること、一台あたり高い消費電力・電圧を必要とすること(≒3kW、200V)、騒音が激しいこと(≒85db)、発熱が激しいことなどがハードルとなり、一般家庭への導入は容易ではありません。

GPUマイニングの実力(現在)

ミドルクラスのGPUであるNvidia社のRTX3070(非LHR)を例に、現在のマイニングの実力を測ってみます。簡易的なカリキュレーターによると、RTX3070(非LHR)は単体で117Wの電力を消費してマイニングを行い、日々に換算して$2.32に相当するイーサリアムによる報酬が期待されます。
一般家庭の電力料金の概算を$0.25/kWhとすると日々の電気代が$0.70かかるため、最終的には日々に換算して$1.62に相当するイーサリアムの報酬となることが期待されます。なんとか黒字ですね。

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出所:minerstat

なお、実際のマイニングにおいてはGPUのコアクロック、メモリークロック、消費電力を調整し、消費電力あたりのハッシュレート(ワッパ)を最適化することでマイナーはより効率的に報酬を得ています。また、報酬を「期待」と表現したのは、単独でのマイニング、プールマイニング、ハッシュパワーそのものを売買する方法などによって短期間での結果が大きく異なるためです。

例:ハッシュパワー売却による利益(電気代は控除)

GPUマイニングの実力(将来の予想)

いよいよ本題ですが、冒頭でふれましたイーサリアムのプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への全面的移行はGPUマイニングにどのような影響を及ぼすのでしょうか。もちろん将来に対する確かな答えはありませんが、先程のカリキュレーターの数値をもとに仮説を立てることは可能だと思っています。

出所:minerstat

プルーフ・オブ・ワーク(PoW)を採用する暗号資産はビットコインやイーサリアムのほかにもあり、GPUでのマイニングが可能です。例えば、イーサリアムと同じ「Ethash」のPoWアルゴリズムをもつイーサリアムクラッシック(ETC)は、カリキュレーターで簡易的に計算すると、日々に換算して$0.86に相当するイーサリアムクラッシックの報酬が期待されます。

さて、同条件でのイーサリアムマイニングでは$1.62が期待できていましたが、イーサリアムクラッシックの場合は$0.86と大幅に報酬が低下します。また、GPUはASICと異なり「Ethash」以外のPoWアルゴリズムにも柔軟に応用できますが、他のアルゴリズムで他の暗号資産をマイニングしたとしても、イーサリアムほどの報酬を現状は期待することができないのです。

この収益性の低下が、イーサリアムのプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への全面的移行によってもたらされる一般家庭への一番大きな悪影響になると予想しています。

GPUマイニングの将来は?

以上は、他のマイナーの行動を織り込んでいないため、まだ仮説として十分ではありません。イーサリアムのプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への全面的移行では、移行日にイーサリアムをマイニングしているハッシュレートが他の暗号資産のマイニングに一斉に移行することも想定すべきです。

イーサリアムのマイニングはGPUのみならずASICでも行われていますので、ここでは世界全体のマイニングプールの統計を以って、総ハッシュレートの規模感をつかみます。
ASICはアルゴリズムを変更できないため、イーサリアムと同じ「Ethash」のPoWアルゴリズムをもつイーサリアムクラッシックの総ハッシュレートが参考になります。図のとおり、マイニングに使われているハッシュレートはイーサリアムが989TH/sであるのに対して、イーサリアムクラッシックはわずか23TH/sです。

出所:MinigPoolStats

イーサリアムクラッシックのパイは、およそ13秒毎に支払われている2.30ETCの報酬です。仮にイーサリアムのハッシュレートがすべてイーサリアムクラッシックのマイニングに振り向けられた場合には、そのパイを巡って現在の約43倍のハッシュレートが競うという凄まじいことが起こります。

もちろん、現実にはこれを機にマイニングを断念するマイナーもいれば、GPUをほかに有効活用する方もいるでしょう。
これに関連して、マイナーの行動の予測については、ライトコインの半減期を題材にゲーム理論で解き明かした過去記事(当社・服部著)が参考になりますので、ご関心があればこちらもご覧ください。

以上、GPUマイニングには逆風が吹くことを予想しましたが、一般家庭でもASICによるマイニングが可能かどうか懲りずに検証しましたので、当「番外編」として次の機会にご紹介できたらと考えています。

2017年、私がマイニングによって初めて手にした暗号通貨は「ZEC」でした。匿名性が高いことから、現在は国内取引所のホワイトリストにはありませんが当時は入庫できていました。「モナコイン」も掘りました。多コアのCPUで「Monero」も掘りました。頻繁にブレーカーが飛んで、妻に怒られていましたね。CPUマイニングの時代は終わり、GPUマイニングの時代も終わりそうな昨今は、すこし寂しい気持ちです。

Fintertechでは、これまで国内では担保として取り扱われてこなかった暗号資産(仮想通貨)を担保に資金を融資するサービス「デジタルアセット担保ローン」を提供しています。ご興味をお持ちいただけましたら是非サービスサイトをご覧ください。

※本記事は暗号資産取引やマイニングの勧誘を目的とするものではございません。また、本記事やコメントにおける情報についてその正確性を保証するものではありません。