佐多椋

同人サークルscript.など。

佐多椋

同人サークルscript.など。

最近の記事

「BOXES」

BOXES = 2014年に制作した造形物、もしくはそれを包含するプロジェクト。 本作は複数の層を持つ入れ子構造の立方体である。3Dプリンタにより制作され、素材には石膏を使用している。表面に印字された物語は、第一層の時点では完結していない。読者は読み終えた層を破壊していくことで、より内部にある層に印字された物語の続きを読むことができる。しかし破壊された層はバラバラの破片となるため、もう二度と読むことができない。読者は、一瞬のうちに過ぎ、二度と戻ってこないこの時間との間のよう

    • ヤスラヤラ

       我が家の墓の隣に、固められた土柱のようなものが『ある』。ちょうど、他の墓と同じくらいの高さだ。  前に墓参りに訪れたのは半年前ほどだっただろうか。自宅から数時間かかる場所にあると、どうしてもそのくらいの頻度になってしまうが、……とにかく、そのときはこのようなものはなかった。何もない、空きの状態になっていたはずだ。  つつがなく墓参りの手順を消化するが、どうしても土柱が気になり、どこか上の空になっているのを自覚する。周りを見回しても同じようなものはどこにもないし、その場でウェ

      • 兜果について

        しんにゅうするもの  出社すると、机にティッシュペーパーが敷かれていて、その上に見覚えのない果実が置かれていた。形は玉葱のようで、ごつごつとした茶色い殻に包まれている。中身を取り出して食べるのだろう。テニスボールくらいの大きさに見える。  誰かのお土産だろうか。周りを見回しても、同僚たちは静かに仕事をしているだけだ。まだ出社していない者の机の上にも果実は置かれていない。少し気味悪く感じた。  とはいえ捨てるわけにもいかない。いったん仕舞うにも難儀する。とりあえずパソコンの電

        • TEST PLAY

           休日の朝、目が覚めたあなたは急に気付く。自分はどうやら、《敵》になってしまったのだと。  具体的に何の《敵》なのか? あなたは考え始める。昨日、一昨日、今週の行動。いつも通りのルーティンを繰り返してきただけだ。すると、いつもの生活を続けるなかで、何かしらの臨界点を超えてしまったのかもしれない。しばらくぼんやりと考え込んでいたが、埒が明かないので、起き上がり、一日を始めることにする。その中で、何か自分を強く拒絶するものがあれば、それの《敵》になったのだろうとあなたは考える。

          探る街(2016/4)

          友だちを殺す日に着る服装を決める基準が知りたいだけだ 大好きなバンドの名前が出てこない、それで背骨がなくなってしまう 上行けば下、下行けば上と繰り返すプログラムである母が微睡む 無理ならば無理と私が云えるなら、あなたを騙ることもなかった 退屈な狂いが厭になったなら、眼医者の裏に座ってみなさい 意識裡の遊戯だと知りつつ加わる みんな死ぬけど仕方がないだろう 上書きされたファイルは潰されてけれど死ねずにずっと呻いている ルールだと思っていたのに妄想で、逃れようにも自

          探る街(2016/4)

          苦渋湖(2015/10)

          迂回した英語教師が云う台詞 何度聞いても灼けた背表紙 いずれまた出会った時に語ります 秋の終わりに縮んだ話は 寝苦しい夜のとばりに視る虚ろ 小声でうたう猫の洪水 「捻れ?」「山羊!」「逆に普通のことなので、彼らの真意は知らずにいました」 現実でいちばん鮮やかな色はスーパーファミスタ4の薄青 鼠だと思っていましたあの日まで 逃げ込み先の弱冷房車 まだ彼は国道沿いに住んでいる あなたがいずれそこで死ぬから 彼が喰む厭に黄色い柑橘がクリシェのように神経苛む 舌で触れ

          苦渋湖(2015/10)

          撞着(2015/4)

          第七回静的装丁コンテスト、すべて重ねて灯油に浸す  いつからそこにあったのかまったくわからない。近所にあった工場の、入り口近く地面に浮いていた油のてらてらした光沢がそのまま固体になったようなものが、勉強机の上に載っている。やるはずだった宿題がその下に見える。それを除けなければ宿題ができない。そう思うが、どうにもそれに触れる気がしない。もう一時間もぼんやりと過ごしている。なんだか身体も意識も弛緩しているようだ。それを見ていると、自分がはじめからどこにもいなかったような気がして

          撞着(2015/4)

          悪訳(回文超短編応募作)

           レム、母を知らない。レムだけでなく皆、知らない。この地の母、子を産んですぐ『母』となる。そしてあの地に旅立ち、暮らすからだ、《主》とともに。この地の者すべて、受け入れている。そういうものだと。だが、レム独り、認めずにいた。『母』となった母を探し、求めていた。  レム、狂人とされ、この地を出る。追い出されるように。彼、飢え、彷徨い、眠る。その眠り、浅く、常に緊張とともにある。やがて、感覚、鋭くなって。あの地に導く、そして、辿り着く。あの地に。  レム、あの地に立つ。あの地、混

          悪訳(回文超短編応募作)

          ねじれるはやさ

          熱帯夜、排熱せずに眠るから内臓から沸騰して、全部が 溺れ死にした人が云う「このザマさ」作り笑いで聞く罰ゲーム どうしようもないというのに立たされる残り0機のスタート地点

          ねじれるはやさ

          偽te' #3

          【偽te'とは】te'の楽曲名と同じく、30文字という縛りの中で展開される文芸である。te'の楽曲名に寄せる必要はない。 まっしろな部屋。響く声。『寝かしつけることすらできないのに』 元通りにしたいのにどうしても壊れたままの人間関係を打ち棄てる ハートマークが救い? バカみたい。ずっとそこにいてください。 故障した時計を拾わなくてはいけないのにどうしても腕が動かない 上の方にあると言われて見上げているけど本当はどこにもないかも

          偽te' #2

          【偽te'とは】te'の楽曲名と同じく、30文字という縛りの中で展開される文芸である。te'の楽曲名に寄せる必要はない。 嘘みたいに真っ赤な現実をどれだけ睨んでも、問題は解決しない。 圧縮した記憶を押し入れにしまう 取り出すことはないと解ってる 安全な夕餉・安全な悔恨・安全な挑発・安全な脱却を図る人の群れ 三つ目の角を左へ曲がってしばらく歩くと、この街の五階に行ける あらゆる角度から観察したのに、まだ見つけることのできない余熱

          偽te' #1

          【偽te'とは】te'の楽曲名と同じく、30文字という縛りの中で展開される文芸である。te'の楽曲名に寄せる必要はない。 熱源を観察してほしい。何もないだろう。ぜんぶそうだったんだ。 ワールドワイドウェブに遺された永久機関にすがり付いて泣く深夜 ひとのこころを縫い合わせたい(許されないかもしれないけれど) 永遠にコナミコマンドを口ずさむ妖精と出会うことで報われる人生 意味のわかる言葉なんていらないという欺瞞。結果、68人眠る。

          おそすぎる

           この電車はどこを走っているのだろう。私にはもうわからない。さっきまで地下にいたような気がするから、地下鉄の地上区間なのかもしれない。もしくは、地上を走る電車なのだけど、気まぐれでちょっと地下に潜り込んで、飽きたから出てきたのかもしれない。  車両の中には誰もいない。いや正確には違っていて、隣に薄汚れた人形が座っている。私にもたれかかっている。早く人間になれたらいいね、と私は時々人形に声をかけている。

          おそすぎる

          ともだちを殺しに行くひに着るふくを決めかねるうちにじかんが、過ぎる

           目隠しをされている。どうしていいかわからないのでぼんやりと右手を動かしていると何かに触れた。てのひらにちょうど収まるくらいの物体でやわらかく、力を入れるとぐにゃりと形を変える。しばらく弄んでいると、ふと奇妙な感覚に襲われ、次の瞬間にそれは確かな形を持つ。右手と『これ』で完全な球になる。ならなければならない。パズルを解くように、補完の果ての球を目指して、『それ』を持つ手の力を入れたり緩めたりする。それぞれの指の場所を微妙にずらし、あらゆる位置関係のなかにひとつだけしかない解を

          ともだちを殺しに行くひに着るふくを決めかねるうちにじかんが、過ぎる

          草叢から炎へ、息吹から屍へ:索敵と弓状

          「はい。訊きます。######はどこへ行きましたか?」 「はい。答えます。消えました。」 「はい。受け止めます。かしこまりました。」  またか。私は小さく溜息を吐く。消えることに問題があるわけではない。そんなことを気にしていたらきりがない。ただ、友達なら、先に言っておいてほしいと思うだけだ。契約をしているのだから。確かに、自分が消えることを知るのはつらいかもしれない。しかし、必ず事前にわかることでもある。言ってくれなければ、失えないではないか。  私は自分の頬を撫でる。そこに

          草叢から炎へ、息吹から屍へ:索敵と弓状

          草叢から炎へ、息吹から屍へ:鏡映と傀儡

           わたしは姿見の前に立っている。もちろんそこには、わたしがいる。けれども、わたしの姿はわたしだけのものではない。  同じ時間軸のなかに、同じ姿をした者——《似姿》は三人存在する。それ以下に減ることも、それ以上に増えることもない。誰かが死ねば、別の誰かが《補充》される。《補充》の仕組みはまだ明らかになっていない。普通に人が生まれ、やがて死ぬことの循環の外に、その機構がある。わたしもまたどこからか《補充》された存在なのだろう。  そんなことをあらためて思うのも、姿見に映ったわたし

          草叢から炎へ、息吹から屍へ:鏡映と傀儡