ともだちを殺しに行くひに着るふくを決めかねるうちにじかんが、過ぎる

 目隠しをされている。どうしていいかわからないのでぼんやりと右手を動かしていると何かに触れた。てのひらにちょうど収まるくらいの物体でやわらかく、力を入れるとぐにゃりと形を変える。しばらく弄んでいると、ふと奇妙な感覚に襲われ、次の瞬間にそれは確かな形を持つ。右手と『これ』で完全な球になる。ならなければならない。パズルを解くように、補完の果ての球を目指して、『それ』を持つ手の力を入れたり緩めたりする。それぞれの指の場所を微妙にずらし、あらゆる位置関係のなかにひとつだけしかない解を探す。試みを繰り返すうちに、小指と薬指の位置が完全に入れ替わっていたことに気付いたが、それも可能性が拡張された結果でしかない。……やがて、『それ』と右手が組み合わさり、完全な球になった。ならば、これから手繰るべき結果はひとつしかない。腕を曲げる。関節の制約はいつしか無効になって、身体は限りなく形をうしなっている。意志によって操られる半固体となった身体は右手と『それ』による球体を囲み、その一部となって、全体を拡大していく。やがて身体がすべて球の外層となるが、すべて核となった『それ』は、まだ飢えている。球体はいちど、大きく震え、行動を開始する。

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