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天に昇った祖父の話

今も耳に残っている。
どこかで鳴っている甲高い機械音、
人工呼吸器がごぼごぼと水音を立てている。
これがおじいちゃんが息をしている証だったら良かったのに。

8/3 早朝、同居の祖父が息を引き取った。
悪性リンパ腫だった。
駆けつけた頃にはすでに心臓は止まっており、あとは死亡診断を待つだけの状態だった。
私は看護師さんの言っている意味をよく理解出来ず、語りかけ続けていればおじいちゃんは目覚めるんじゃないかと思った。
先生を呼ぶかという話になった時ようやく理解が出来た。
間に合わなかった。

ほどなくして、近くの施設に入っていた祖母と合流をし、先生から正式に死亡診断が降りた。
本当に、本当に、逝ってしまったんだ。
体に触れれば温かいのに。
胸を触れば動いているような気がする。
「悲しいねぇ」
祖母は祖父の指を擦り続けた。

祖父に繋がれた全ての管が外れていく。
痛み止めを打っていた点滴も、呼吸を助けていたマスクも、カテーテルも全部。
もうごぼごぼは聞こえない。
心が追いつかなかった。
頭では理解していたつもりだけど、まだ祖父が起き上がるのを信じている自分がいる。
顔に被せられた白い布が現実を突きつけてくる。
私は祖父の頭を何度もなんども撫でた。

家に帰って、祖父がこの間まで居たベッドに寝転ぶ。
あれはじいちゃんがお菓子を買う時に小銭を出してくれた財布。
元気な時ずっと使っていた腕時計。
そこに使いやすいように置いた体温計。
小さい頃、プレゼントした肩たたき。
たくさんのじいちゃんの欠片に囲まれていっぱい泣いた。

その時に書いた手書きの日記
"げんじつはそこにあるのにうけとめきれない
いやというほどみたのにげんじつだと思えない
そこにいた証ひとつひとつがやわい所をさしてくる
もっと話したかった"

つい昨日、じいちゃんの周りにはたくさんの人が集まっていた。
呂律の回らなくなった口で一生懸命みんなに「ありがとう」を伝えてくれていた。
私は言葉にしてしまうと本当に最後になる気がして怖くていちばん伝えたいことを伝えられなかった。
明日は私が思うより当たり前じゃなかった。
ちゃんと伝えればよかった。
おじいちゃん、大好きだよありがとう 。


「しっかりやれよ」
まだ意識がはっきりしているおじいちゃんが私に一生懸命話してくれた。
これからもきっと背中を押してくれる言葉。
私、本番も頑張るから、そこで見守っていてね。

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