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【となりの百怪見聞録】を読んだ話。


書店で一目惚れ

書店をウロウロしていた時に偶々目に止まり、そのまま購入。久し振りの表紙買いだった。

感想

作画の美しさ

 何とも煮詰められた世界観に浸れる漫画だった。一コマ一コマがそれだけで完成するような絵の強さを持っていて、繊細な線を重ねて描かれる人物や背景にとても目を引かれる。

いわゆる飯テロ

また作中度々登場する食事シーンは怪奇漫画とは思えない贅沢な描写ぶりである。特に第〇話に登場するピザトーストと第二話に登場する厚切りバタートーストなんかは特に好きだ。バタートーストは十字に切られていて、ああ良くわかっている作家だなんて思ってしまった。バタートーストを焼くときは浅く十字にトーストを切ると旨い。

世界観に関する所感

 閑話休題。

 世界観について冒頭に触れたのならばその話をしよう。怪、簡単に言うなら妖怪や幽霊といった類は現世と常世が表裏一体であるようにその紙一重の隙間から現れるように思う。誰しも味わったことがあるような感覚から怪談は生まれるからか。夕方、いつも通らない暗い横道に気配を感じたり。止められた車に人が乗っているように見えて、通り過ぎて見れば誰も乗っていなかったり。ふとした瞬間に“見えた”ものに人はこれほどまでに惹かれるのだ。そんな単純であって底知れぬ深さを持つ怪奇について二人の人物が自分の飽くまで“日常”の延長に触れてゆく。日常のその一寸先であるからこそ、読み手として共感出来た。

主人公の良さ

 今作の主人公である片桐甚八と原田織座。二人の関係性やその人物像もまた作品に引き込まれる重要な要素である。片桐甚八は分かりやすく言えば仕事人間。どこの職場にも、一人が二人は居そうな人物だ。日々の生活をルーチン化することによって人間が1日に使える選択する力を全て仕事に注ぐという姿はあまり無いかもしれないが。そんな彼は飽くまでも一般人であった。しかし偶然か必然か、怪奇な世界に足を踏み入れてしまう。甚八は私達と共に初めての体験を味わう人物だ。彼の思考や目を通してその怪奇に触れてゆく。彼は我々読者にとって、怪奇との縁を結んでくれる存在である。彼は正直者であり、人情もある。主人公として他なら無い良い人物だ。彼は我々の居る現世を表しているとも言える。

もう一人の主人公

 然しながら、原田織座はどうか。彼は美術大学で名誉教授を務めている画家である。人々に何故か“リアル”と言わしめる幽霊画を描き、気味の悪い噂から“おばけ先生”などと呼ばれている。そんな彼は、怪奇を集める蒐集家であった。甚八をハチ公と呼び、彼の体験した怪奇をくすりと笑い、茶請けにする。飄々とした態度で先を示し、知恵を与える。甚八が現世を表すなら彼は人間でありながら常世を表す人物であろう。彼の一挙手一投足は私達の目を釘付けにして離さない。

関係性と対比

 現世と常世を表しているような二人の関係性はまさしく怪奇と似ていて、人々の心をくすぐる。友人とも相棒とも、似て非なるもの。二人はただ“人ならざるものが見える者”という一点で縁を結んでいる。作中の言葉を借りて彼等は“連れ合い”とも言うべきか。ただ一点とは言ったものの、その一点があまりにも強烈であり、あまりにも強く二人を結びつける。その関係性も魅力であり魅惑的な怪奇とともにこの作品を深く楽しめる物に仕立て上げている。

結局のところ

 とまあ、長く申してきたが、兎に角端的に言えば“この作品は面白いぞ”とそれだけの話である。私の適当な文なんてすっかり忘れて、早く一寸先の非日常に片足をドボンと落としてしまえばよいのだ。

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