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スポーツ東洋

大学のお笑いサークルを経て、プロとして活動するお笑い芸人が増えている。YouTubeには、彼らの大学時代の動画が残っていることがある。粗削りながら自分を信じて疑わない、その意志と熱を観るのが好きだ。

同じように、たまに学生時代の自分の記事を読みたくなる時がある。


小中学生の頃は、雑誌が大好きで微々たるお小遣いから毎月サッカー雑誌を買っていた。

選手のインタビューや記者の考察、特集記事などをくまなく読むのが好きだった。それは後に活字好きとして育まれていき、文章を仕事にしたいと志すには、十分すぎる要素であった。

高校を卒業して大学へ進学したある日、とあるサークルを見つける。

正式名称は東洋大学スポーツ新聞編集部。略してスポーツ東洋。さらに略してスポトウ。
簡単に説明すると、東洋大学の運動部の活動を取材したことを原稿に書き起こし、ウェブサイトに掲載したり新聞を制作したりするサークルである。
中高時代に文筆を仕事にしたいと志し、東洋大学に入学して見つけたサークル活動。しかも大好きなスポーツを取り扱っているなんて、自分が何かに入るならここしかないと思った。

でも見つけた頃には、もう新歓の時期は終盤を迎えていて、スポトウの存在を知らずに雑誌を作るサークルか軽音か知り合いが入っていたオーランで迷って何にも入っていない状況だった。あの頃にサークルブックを熟読していなければ、見逃していたと思う。もっと主張してくれよな。

自分から連絡して、部室で先輩たちと話をした。後日サッカー部の試合の取材に同行する。何もかもが初めての体験で、知らない選手たち(浦和レッズユースの人は知っていたけど)の試合を観戦し、試合後に生の声を聞いて、それを自らの文章に落とし込んで造り上げる。改めて自分のやりたいことは、これだと確信した。

ただでさえ新歓へ行けなかったのに1人で飛び込んだため、友達もいない。夏の合宿イベントまで同学年の知り合いはゼロだったが、当時は取材にしか興味がなく、新聞作りはおろか友達作りにもあまり関心がなかった。

というか夏の合宿に行っていなかったら、1年生の終盤まで同学年の知り合いはいなかっただろうし、そもそも同学年のサッカー担当が自分1人だった。いや、厳密にいうともう1人いたけど1年生の冬、ある日突然消息を絶った。(後に千石駅で遭遇して安否は確認済み)

2年生までは自由に伸び伸びやっていた。3年生になって編集長になって個人のことよりも組織のことを考え始めて、とても窮屈だった。
やめたいと思ったことはないけど、編集長として、大学を代表する組織のトップに立つ人間として(そういったイベントも多く、職員や読者の言葉もプレッシャーだった)の難しさや辛さを痛感し、部内の誰とも共有できないもどかしさも感じていた。だから、他の大学の編集部の友達に話を聞いてもらっていた。

それでも3年生の頃は、とにかく良い記事を書きたい。良い新聞を作りたい。良い組織にしたい。そういった熱量は誰よりも強い自信があった。
当時の記事を読んでいると、文章は拙いながらもそれが伝わってくると客観的に思う。

仕事のためでも、お金のためでもない。とにかく良い物を作りたい、やりたいことをやりたい。その一心で形に残してきた。


そして今、編集の仕事をやっていて、思うことがある。やっぱり自分は書くことに対しての強いこだわりがあるということだ。仕事としては、当時の新聞作りとほぼ同じことをやっているが、物足りなさを感じている。

どんなに憧れていたものであっても仕事にすると、途端に軽薄に見えてくることがある。ビジネスだのお金だのが関わってくると、時には良い物が評価されず、熱の冷めたものが評価に値することもある。良い作品だと思っていたものが、ビジネスの檻から出た瞬間に安く様変わりしてしまうものもある。

実際に職にすることで、それに失望したり、物足りなさを感じたりすることもあった。そんな時には、スポトウ時代の熱のこもった文章を読み返すようにしている。
この時の自分は今よりもっと目を輝かせて作っていたな、その気持ちだけは今も忘れてはいけないなと思い出させてくれる。

あの頃は良かったと、過去にすがるわけではない。
自己啓発は、過去の自分からしかできない。



そして、夏から書く仕事を主軸にすることが決まった。だから、スポトウ時代の引退コラムを読み返してみた。随分と周りに配慮しながら、随分と偉そうなことも言っている。でもこれが当時の自分の本意だ。我ながら熱を込めて良いことも言っていると思うよ。


学生の頃から形に残るものを作る活動をしてきて良かったと、今になって感じる。たぶんいくつになってもマインドは変わらないし、変わりたくない。それでも時には、現実に直面して見失いそうになる時もある。そんな時、再び学生時代の無垢な熱を浴びて、もう一度薪を焚べる。

礼賛 / take it easy

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