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11月読んだもの観たもの

ガルシア・マルケス『愛その他の悪霊について』
 小説。旦敬介さんの訳で読む。神保町の著名な訳者や研究者などが、自分でセレクトした本を売ってみる店に置いてあって、寝かせていたのを読んだ。
 初めて読んだマルケスがこれだったのだが、その頃の自分にはギリギリ読めているか読めていないかのラインだったのではないかとおもう。
 修道院の小部屋のイメージがすごく強く、かろうじて残っている記憶はそれと狂犬病で暴れる少女のイメージだけだった。
 読み切った感想は、意外と他の作品の方が面白かったんだなぁということで、思い出の本だったということだな、と思った。冒頭にあるマルケスのこの作品を書くきっかけの話が一番面白く、そのインパクトの方が良くて実際の小説自体はまぁまぁな感じだった。

下関崇子『ガパオ』
 文フリで買ってよかった!!面白かった〜。ガパオのレシピが100以上載ってる料理本なのだけれど、タイの食文化などもわかり、しっかり書かれた面白い本だった。ガパオについてこれだけずっと追いかけてレシピなどを観測しているという著者自体も面白くて、個人的にはウキウキした。

佐々木尚『アラガネの子』
 漫画。漫画アプリ、ジャンプラだけは継続して読んでいるので、存在は知っていたのだけれどずっと読んでおらず、何かのきっかけで読んだらまぁまぁ面白くて(というか絵が綺麗)、最新話まで一気に読んだ。
 (最近のジャンプラは『半人前の恋人』と『株式会社マジルミエ』が推しです)

LOCUST 長崎編
 雑誌。文フリで購入。
 嫌いではないのだけれど、友人の出身地であるという意識を持ちながら読むと、自分の出身地が外部の人からこのように書かれたらどうかな、嫌だな、という違和感がちょこちょこあった。外の人が何か言ってきているという感覚が拭えなくて、批評の嫌な部分を感じるタイミングが多かった(作品の批評は、作品として出すと覚悟した上で出されているものだと思うが、土地に関する批評というのは、ただその土地に生まれ、生きている人と深く根付くものに対する批評なので、結構難しいと感じた)。
 自分自身としては、他人のものについて語るという形式を逃れられない批評というジャンルに関しては、やっぱり面白いし、それがあることによってジャンルが盛り上がるという感覚もあるが、それはその批評自体がそれ単体で面白いということに支えられている実感がある。そして、その面白さというのは、筆者自身が、その書く対象にどのような形であれ執着があり、語らざるを得ないという感じがないといけなくて、それがないと対象自体が浮き上がらず、ただ外からの口出しの面が目立って、不快感の方が勝ってしまうと思う。
 その考えの上で、この雑誌ではその後者の文章になってしまっていることが結構あったのでは、というのが違和感だった。言葉を書くときの逡巡と検討の厚みみたいなものが土地の批評にはより必要に感じた。

『僕のヒーローアカデミア』38巻、39巻
 漫画。本当にそろそろ終わっちゃうじゃん…!!!と、奇声を上げながら読んだ。
 どちらかというと、自分は友情、努力、勝利の物語は得意ではない気持ちありつつ、ヒロアカはまじでまじでまじでよくできていて、現実の残酷さとしかしその中でも希望を持つということによる友情、努力、勝利なので、応援したくなってしまう。
 38巻の終わり方やばかった。
 (関係ないけど、ヒロアカがとてもいいという話をする際に、併せて鬼滅はほんとにいやだ、という話もしてしまう。鬼滅は個人的な好き嫌いというよりは、世に、特に子供によくない思想をばら撒いているという点で許せない部分がある)。

岸本聡子『水道、再び公営化!』
 書籍。自分たちの住んでいるところで、再開発事業が進んでおり、嫌すぎるので、現状の区政どんな感じなのか、という流れで家人が区長の本をたくさん買ってきたので読んでみている。
 「新自由主義からの脱却を」という動画での、岸本さんの話がすごく面白かったのでその延長でまずはこれを読んでみた。新自由主義はなぜダメなのかというのがとてもわかりやすいのと、これからの政治において何が大切なのかというのがよくわかるので動画おすすめです。一時間くらい。
 動画では水道の民営化が良くないという話って具体的にどのように悪いのかということを知れたり、良いインフラのためにはどのように住民が政治に関わっていくといいのかということを話していて、もうどうにもならないな、みたいな暗いところから、少し明るいところに抜けていくような希望のある話だった。国政はなかなか変えられないが、自治体の政治はある程度変えやすいというのは納得だった。
 ざっくりいうと、民営化の悪い点は、サービスの質が上がって行政にとっても負担額が安くなるのではなく、サービスの質の低下とまわりまわって行政への負担が増えるということだった。具体的には金額が高くなるということが一番多く、次いで水道管の管理などが長期的な目線で行われなくなるので安全な水というのも失われる可能性があるということ。現実的に、営利を出さなければいけない民営企業で、役員報酬などにもお金が割かれ、公的機関でないので借入したお金への利子などがかかることから水道料金は上がり、その反面、コストを下げるとなると人件費や災害時のための投資などが削られるためサービスの質が下がる、ということだった。
 そういう事実があっても、民営化を請け負った水道を管理する民間企業は利益を得ることができるので、企業は政府へ民営化推進のロビイング活動をしまくっているということだった。
 こういう話を読んでいると、会社の利益のために、人の生活がどうなってもいいと考えている人や企業などがめちゃくちゃいることがわかって、げんなりする。

『妖怪の孫』
 映画。元安倍首相のドキュメンタリー。
 観る前に、観たら元気なくなるだろうね、と話していたけれどほんとほとほと元気がなくなってしまった。
 特に自民党の掲げている憲法改正草案の内容が酷かった。映画を観た翌日に事実としてどういう改正案を掲げているのか、実際自民党の出してる改正案をみに行ったら、映画で取り上げられている部分以外にもこの改正が罷り通ったら、こういうふうに変わってしまうのかという部分がたくさんあった。
 そもそも改正案の目指すものが大日本帝国憲法なので、改正案が通れば戦時中と同じように現政権への批判を言うと逮捕につながる、ということも考えられるし、武力行使もしやすくなるので戦争に向かっていくことも容易になるし、これが通ったら絶望的だ、と思った。結構本当に酷いので、みんな一度自分で読んでみてほしい。

宇野重規×岸本聡子『民主主義のミカタ』
 書籍。憲法改正案で落ち込んでいたが、こちらは読んでいて少し元気になる。
 宇野さんの講義録、岸本さんのインタビュー記事、二人の対談、となっている。岸本さんのインタビューはYouTubeに全く同じインタビューが3本に分かれて上がっていて(1本目2本目3本目)、それも結構よかったのでおすすめ。

岸本聡子『私がつかんだコモンと民主主義』
 書籍。岸本さんは杉並区長になる前はオランダでNGOに所属して働いていたのだが、その前やその頃どのようにして働いていたのかということが書いてあり、パワフルさを感じる。
 読みながら、考え方が異なる部分もあるというふうに思いつつ、より信頼感が強まった内容でもあった。
 活動に関して、活動は何かを達成するものではなくて、ずっとあり続けるものであるという話をしていて、岸本さんの持つ強さを感じた。
 世界を力強く動かしていける大きな力を持っている人たちが向かっていっている方向のことを知れば知るほど、本当に引くほど愚かだ〜〜という気持ちを重ね続ける数週間だったが、それに対抗して最前線で働く人々はその愚かしさをあらゆるデータや体感を元に一番強く思い知らされるわけで、それでもなお諦めずに活動しているということがすごい、と思っていたのだけれど、それはその活動は達成するものでなく続けていくものであるという考えに基づく強さなのかも、と思った。人類が大きな塊としているうちの、内部で起きる運動の一部であり続ける感覚を元にした諦めなのかもしれないが、それがこの人の強い説得力であるなぁと思う。

宇野重規『民主主義とは何か』
 書籍。岸本さんの本をいくつか読んでみて、やはり自分のこととして政治に参加するっていうのが重要だなと、自分の行動に関しては思ったので、民主主義に関する本を読んでみたいかも、と思い手にしてみたら偶然ながら岸本さんの対談相手の教授だった。
 実際このような民主主義が成り立てば、世は良いように変わるだろうと思いつつ、脳裏にカート・ヴォネガットのことがチラつく。人間への愛はありつつ、人類への諦めが強くある『猫のゆりかご』や『タイタンの幼女』を書きながら、現実的には自分の思想に基づいて社会的にさまざまな行動をとっていたわけだけれど、人類の愚かしさにはほとほと嫌気がさしちゃうよね、と、思う。

セイジドウラク
 ラジオ。仕事しながらEP1〜順繰りに聞く。
 政治の現場における具体的な人間関係など、情報って感じの形でどん、と入ってくる。実際のところどんなふうに現実が動いているのかということがわかって面白かった。イデオロギーの話ではない。
 合間に東京ビジネスハブの宇野常寛ゲスト会を聞いたタイミングだったのだけれど、政策において理想的な政策については自分ではっきりと表明できるが、現実的に政策として実現できるかどうか、というポイントにおいては物差しを持っていないのだよなと思った(金勘定ということ自体に全くの興味がないためと思う、仕事じゃないとやらない)。
 このラジオを聴きながら、政治について語るときのポイントとして、イデオロギーの面、それをどう実現するのかという細かいポイント(経済や組織内における政治力など)など、さまざまにあるのだな〜というのがより実感できた。
 個人的なスタンスとしては、資本主義は全然良くないものであるという姿勢は変わらないが、現実的にはどのようなやり方があるのかというのは政治経済の専門家の話をあれこれ読んでみるというのはありかもと思う。
 あと、それぞれ考えの違う人による討論を聞く、みたいなのも面白いと思うので、そういう討論番組みたいなのもっと観てみたいなとも思った。NHKの日曜討論は割と良さそう。

 あと、今月は東京新聞を取り始めました。
 近所の書店の閉店をきっかけに、色々たどって政治についてたくさん読んでみる、聞いてみるということを家でしていたら、家人がおためし購読を始めていた。実家で新聞取っていてもあまり読んでいなかったのだけれど、自分も憲法改正案みて、これを知らずにいたの恐ろしすぎる、と思っていたところだったので日々きちんと情報をキャッチしようと思って一緒に読んでいる。
 家人はかなり幼い頃から政治思想がはっきりしていたのだと思うのだが、わたしは高校生くらいまではほとんど政治についての関心がなく、周囲も政治の話を気軽にするという環境でもなかったので、大学受験の際にした世界史と地理の勉強と大学入学後の生活を通して政治的なことを理解する基盤ができてぼんやりと自分の正しいと感じることは政治的な思想においてどの辺に位置するのか理解するようになり、ここまできた、という感じで、その家人とわたしの差異についてなどもぼんやりと考える時間が多かった月だった。
 今までは、ある社会問題に対して考える時間がたっぷり与えられないと自信を持って自分の言葉でたっぷりと語ることはできない、という感覚がなんとなくついて回っていたが、今まで何度かたっぷり時間を使って考えることや、実際に働いてみること、自分で選んだ街で暮らすということを通してようやく、何かのトピックスに対してある程度の反応速度で自信の持てる自分の言葉が用意できるようになったな、ということを実感した一ヶ月でした。何事も知ることと考えることだな、とその重要性を再認識しました。

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