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2月読んだものみたもの

谷川道子『ハイナーミュラーマシーン』
 書籍。読書会でハイナーミュラーの戯曲を読むことになったが、実際に戯曲を読んでみてもちっとも足掛かりがなく、組み手をしてからだったらいくらでも頑張れるが組み手の組み方すらわからん……となっていたけれど、この本のおかげで糸口が掴めてきた。めちゃくちゃポストモダンな作品なので、大学くらいから大学卒業してからの間にすごく好きだったテーマかも、と思いつつ、演劇はポストモダンな作品でも上演のやり方によってまたぜんぜん違う地平が見えたり、その時代にあった面白味を味わうことができるものなので、小説とか映画よりも演劇の方がポストモダンとの相性がいいなと思った。

松本大洋『東京ヒゴロ』一、ニ、三巻
 漫画。ものすごく良かった! 三巻にこういう瞬間に惚れ惚れすることがあるんだよな、漫画って、というとてもいいページがあって、なんだか創作物で久々にこういう正面からの喜びみたいなものを感じたなぁとしみじみした。とても良かった。この作品自体が自分にとっての大切な作品になるだろうという予感がある。
 一巻を読んでいる最中は、やっぱりコマ割りとかふとした瞬間がすごくいいんだよなぁと思っていたけれど、三巻はそういうことを考える隙もなくただただ楽しく読めた。
 先月、わたしの好きな『ピンポン』を家人が読んだことがないというので、一緒に読んでいて、やはり素晴らしい作品だなということをふたりして噛み締めていたのだけれど、阿佐ヶ谷書楽の閉店前日に何か松本大洋の漫画を買おうとなって、『東京ヒゴロ』を買って読んだ、という経緯があり、それも含めてすごく良かったなと思った。

須賀敦子『須賀敦子全集第5巻』
 書籍。スキーをしに雪山に行くことになったので、そうしたら須賀敦子が読みたいかも、と思い、これを持って行った。全集の3巻まではエッセイ、4巻は書評や映画評で、5巻は詩集、となっていくうちのエッセイまでをごくゆっくりと読んでいるのだが、雪が降っている中で読むなら詩集の巻がいいかも、と思って順番を無視して携帯した。
 全体のかなりの分量が「ウンベルト・サバ詩集」に割かれているのだが、結構詩人との相性がよく(須賀敦子の翻訳がいいのもあると思う)、その部分を帰りの飛行機と電車の中で読んだ。
 『死んでいく心』の「三枚の水彩画」の、3 会話、という詩が良かった。

『ストップ・メイキング・センス』
 映画。前に文芸坐で観て至極良かったので、友人が観に行くのについて行って観た。最高だった。
 落ち窪んだ眼窩、感情が見えない瞳、瞑るととろりとした垂れ目、こけた頬にぱらぱらと顔にかかる髪の毛。サイコキラーの歌詞と相まって恐ろしい顔にみえるのだがそれがえらくカッコよくセクシーで、一人映されているデヴィッド・バーンだけで何時間でも観ることができてしまいそうだった。そもそもの曲の凄さと、バンドの編成と、演奏と、どれもめちゃくちゃカッコよくて、ずっと身体は踊っているのに、現実的には映画館の席の上でぐにょぐにょ身をくねらすことしかできずかなり不本意、だった。隣で友人がぼよぼよと座席を揺らしており、ずっとわたしもぶよぶよと揺れていた。たまに自分の意思でぐねぐね踊っていると、座席もなんだか揺れていて訳がわからない心地になった。最初の四、五曲がとてもよくて、喉の奥から太陽が競り上がってきて、どうしようもなく吐き出してしまいそうな興奮に見舞われた。
 一回目に観たとき(7年前くらいだったか)は、音楽に全然詳しくなかったので、そもそもこの世にこんなに素敵なかっこいい音楽があるということをあまり知らなくて、かっっっっけーーーーということだけにぶち殴られていたのだが、今回は二回目ということもあって、前回はあまり思わなかった気がする歌詞の良さを噛み締めながら観た。めちゃくちゃ歌詞が面白い。

あずまきよひこ『よつばと!』1〜15巻
 漫画。中学の頃に8巻くらいまで読んだことがあって、ひさびさだあと思いながら読んだけど、ゲラゲラ笑いながら読みつつ、とーちゃんとか周囲の大人がきっちりものを教えているのとかを読んでしみじみしてしまって、はひゃー歳をとった!!という気持ちになった。

攻殻機動隊ARISE
 テレビアニメ。攻殻機動隊は結構好きなので、士郎正宗の漫画も、押井守の映画も、神山健治のテレビアニメシリーズもどれも楽しんで見たんだけど、ARISEはちょっとどうにも、あんまり好きじゃなさそうなんだよなぁ〜〜でずっと観ていなかったのだが観た。
 素子が迂闊すぎる〜、んぎぇ〜〜前評判は聞いていましたが〜〜少佐〜〜と、言いながら観た。ちょっと骨太さが物足りないのとメカデザインや義体デザインのチャラさにあまりしっくりこず。

ハイナー・ミュラー『ハムレットマシーン』
 戯曲。読書会のために読んだらめちゃくちゃ面白かった。初めに読んだときはどこにもとっかかりがなくて全然わからないな……、となったのだけれど、ハイナーミュラーマシーンを読んで、ハムレットを読んで、と準備してから読んだらかなり面白かった。
 ここから演劇を立ち上げるという可能性めちゃくちゃ面白そう。

ハイナー・ミュラー『メディアマテリアル』
 戯曲。こちらも、最初に読んだときは絶望の顔して読んだのだけれど、エウリピデスの『メデイア』と『アルゴナウティカ』を軽く読んで、『ハイナーミュラーマシーン』を読み、『ハムレットマシーン』を読んで、ときたらかなり読めるようになって面白かった。読書会でみんなで読んだらテクストから読み取るものも色々な形に広がって、かなり面白かった。
 ミュラーが自身の作品を指して、アレゴリーではなくメタファーと称していて、ミュラーは作品が様々な可能性によって捉えられることを望んでいたというのが面白かった。
 あとは、人に対する望みのなさみたいなことがふぁーんと漂っていて、戦争を経験した後の人類の愚かさへの感覚みたいなものが強くある作品群でもあるなぁと思った。エウリピデスの『メデイア』よりメディアマテリアルのメディアの方が、自らの運命が規定されている感じがあるという話になって、ぼんやりとヴォネガットのことを思い出していた。明らかに最悪の方向に世の中が動いていっているのにその中で何もできないという無力感が、戦時下も冷戦下もあったのだろうなというのと、今現在の社会においても同様の感覚があって、それがこういう運命論的的な作品が生まれるんだろうなと思った。
 あと、めっちゃポストモダン的だ〜〜!って思ったのだけれど、割とその形式である納得感と面白さが演劇であることによって担保されている感じがして、上演を観てみたいな〜と思った。イェリネクとかもこの線上にあるのか〜ということとか、地点によるイェリネクの上演は訳がわからなかったけど面白かったな〜とかそういうことを思い出していた。

トルストイ『アンナ・カレーニナ』
 小説。スキー場でパラパラ読む

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