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1月読んだもの観たもの

マリオ・バルガス・ジョサ『ガルシア・マルケス論 神殺しの物語』
 批評。昨年、熱い経緯で翻訳に至った寺尾先生翻訳のジョサによるマルケス批評。とてもとても面白かった。ジョサとマルケスのパンチ事件以降、ジョサがこの本の翻訳を許していなかったのが、ついに寺尾先生の働きにより翻訳に至ったというのは、寺尾先生に感謝しても仕切れない。
 ジョサの、作家のオブセッションを称して言った「悪魔」の話は、漏れ聞こえていたが、ジョサによる記述でまとめて読むととても面白い。作家には文化的悪魔と、個人的悪魔と歴史的悪魔があり、そのバランスによって作家の作る作品が変わってくる、という話で、割とその分類についての記述が面白い。世間のイメージとしては、特に日本の近代小説というのは個人的悪魔にものすごく頼ったものだと思うのだけれど、文化的悪魔と歴史的悪魔の面白さというのも確実にあって、そういうことを考えた。

ケリー・ライカート『ショーイング・アップ』
 映画。2023年映画館ライカート締め・2024映画館ライカート初め。やっぱりなんというか居心地の悪さがライカートの映画の良さかもしれない、と思った。観続けてしまうピリつきが、ライカートを良いと感じる根底にある。しかし、ライカートは『オールド・ジョイ』がかなり良くて(ささやかなサビみたいなシーンもある)ヨラテンゴの音楽も素晴らしく、未だにそれが一番好きなのは変わらない。
 芸術家たちが出てくる映画を、映画を教える立場を経験しているケリー・ライカートが撮っている、ということが観ている間にずっと脳裏にあり、今までの題材に比べて、違う形でものすごく現実に近かったので、不思議な気分になった。
 ミシェル・ウィリアムズは、いつも立ち姿の不安定さが魅力的だなと思う。スカートと靴下の丈が絶妙で良かった。ジョン・マガロは『ファースト・カウ』と全然違う役柄だったのだが、ものすごく良い空気を身に纏っていて(声で気がついた)、こちらの役柄もかなり好きだなと思った。

辻元清美『国対委員長』
 書籍。2023年12月中に読んでいたのに漏れていた。かなり面白かった〜。国会対策委員会について知ることができるよ、というので読んでみたのだけれど、後半はどちらかというと安倍政権が今までになく強硬な方法であらゆる物事を進めようとしていた、という印象が残る感じだった。
 国会ってどのように進んでいるんだかわからん〜と思っていたが、現実的な力の拮抗やバランスについてこれを読むことでイメージができ、面白かった。

panpanya『商店街のあゆみ』
 漫画。相変わらず面白い。読みながら思うがこういう奇妙さの職人感が強い。小説としてもこういうジャンルは好きなのだけれど、ちょっと『映像研には手を出すな』的な面白さもあって楽しい。

『コワい話は≠くだけで』
 漫画。内容とは全然関係ないのですが、最近割合とホラーが好きな人が周囲に思ったよりも少ないということに気がついて、へんなの〜〜と思っている。私は面白いホラーを人にオススメしていいことをしたという気持ちでいるのだけれど、それを喜んで受け取ってくれる人の少なさにしゅんとしている。ミス研にいた頃は、ミス研の人は基本ミステリ、SF、ホラーが好きと相場が決まっており、怖いホラーなどはウケが良いので、そのギャップを引きずっているのだと思う。
 この漫画は、そんなに怖くないけど適度に怖い話をつまみ食いできて楽しいなぁみたいな感じで、無料公開されていたので喜んで読んだ。近畿地方や祓除と同じようなジャンルで、というか、祓除の企画に入っている人々が、それぞれ近畿地方とコワい話をやっているから当たり前ちゃ、当たり前なのだけれど、ネタが割れているのでそこはぼちぼちで普通に各話の怪談を楽しんで読んだ。
 しかし、自分はわりとホラー好きな方であるというのがあんまりなぜだかわからず、最近はそのことをたまに考えている。なぜなのだ……。

宮崎駿『もののけ姫』
 映画。最近見返したトトロの方が画がばちばちに決まってたきがする、と言いながら序盤見始めたけれど、タタラ場に来て以降、絵の面白さがぐぐぐと上がって、めっちゃいいね〜〜となった。
 ほんとにかなり昔子供の頃に観た記憶しかなかったので観返してよかった。もののけ姫は人と自然の対立のイメージがかなり大きかったのだけれど(まぁそうではあるのだけれど)、獣も人間もその中での関係性とか、人においてもさまざまな面の揺らぎがあるというのが面白かった。特に、エボシが良かった(関係ないけど、エボシ様の声が田中裕子なのめちゃくちゃいいな)。誰もがはっきりとした悪や善の象徴ではなく、さまざまな面から見てみたときに、さまざまな見え方をするということだけがはっきりと提示されている。
 ナウシカのこととかもぼんやりと考えて、アシタカもナウシカも境界線上にいるキャラクターだなと思う。
 と、思ったのだが、観た翌日にあれこれインタビューや批評を読むと、ナウシカは二項対立的だが、もののけでは対立していないという指摘があり、もしかして今ナウシカを観直したらそう思うかもしれん……と思った。なんとなく、戦後が幼少期であるというのは、戦争が悪かったということと、しかし人類はそこから変わっていっているというようなことを刷り込まれて希望を持っていたのが徐々にそうではなかったと気がついていくという流れなのではないか、という気がした(これは宮崎駿画像というよりは、そう思う人が割といたのではという想像で、戦中を大人として過ごした人もある程度同じような酷薄な戦争の体験と、戦後の希望と絶望の体験をして、とても誠実に歩んできたが故に自殺してしまうのかもしれないと、プリーモ・レーヴィやカート・ヴォネガットのことを思う)。思った以上の世の中のややこしさというのを前にして『紅の豚』(ユーゴの内戦が起きた頃)を挟んで複雑な心境で作ったのかなと思う。そういう面で、完成度としてはやはりかなり高いと思った。

『紅の豚』
 映画。画がずっとカッコよくて気持ちがいい〜〜。音楽も軽やかで楽しいし、清々しい仕事を観ながら最高だな〜と思う。総力戦だから女性が働かざるを得ないという史実と結びついているよね〜とは思うが、宮崎作品のキビキビした女性がとても好きなので飛行機を作るシーンはかなり良かった。
 かの有名なセリフの「とばねぇ豚」の飛べない、ではなく飛ばない、にぐっとくる。
 ポルコが空軍から追われているという設定全然覚えていなくて、思ったより明確にファシズム批判の描写があるんだ、と驚いた。ポルコが豚であるということは思った以上に政治的な色がついてて、それも面白かった。最後の決闘での「豚は殺しはやらねぇんだ」と言われるやつも、よかった。
 「ここではあなたの国より人生が複雑なの」的なセリフもゲラゲラ笑った。モデルがレーガンの人のセリフなのでそれも輪をかけて面白い。
 ポルコが人間だった頃の記憶を振り返りながら、戦争中に死んでいったやつらを指して、死んだやつがいいやつだ、というのは、アウシュヴィッツの生還者の人もよくいう言葉らしく、その性質はかなり違うところがありつつも、戦争などで理不尽に亡くなったひとに対して生還者たちがそういう感覚を覚えるというのはあることなのだろうなと思った。

宮崎駿『ハウルの動く城』
 映画。
 若い頃のソフィーからおばあさんのソフィーに変わってからの老いの図太さみたいな面白さが割と一番好きな部分かもしれない。それに対して美しさに自惚れのあるハウルの声が木村拓哉であるというのも面白くて、ずっとムーブはクズなのがそのままドン!と供される面白みは強い。あとは、弱体化した後の荒地の魔女の言動などはかなり面白い。ハウルはキャラクターとセリフの感じが面白くて、こういう話かけたらこれだけで結構ずっと読んだりみたりできちゃうよなー、と思った。
 ただ、いやいや、ハウルの性格もソフィーの性格も、ちょっと国王に会いに行った前後からグラグラ揺れすぎ!というのはあり、ソフィーはおばあさんになることでずぶとく強くなり恋をするわけだけど、いやそこは恋がオチなのか?!とか、ハウルは逃げなかったことが評価されるが、ソフィーは家族ときっちりオチがつけられない方向でいいのか?とか、ハウルは恋をしたから逃げないぞ!みたいな勢いで今までのクズムーブを全部回収仕切れちゃうのは流石に都合が良すぎるというか、いや最後までクズでいてよ〜みたいな気持ちにならないでもない。
 そして、結末は風呂敷をひょいひょいまとめちゃったという感じではある。ソフィーの髪の毛、染まっているね、素敵、という感じのセリフも、カカシが隣国の王子だったというのも、やれやれ、という感じで師匠の魔女が戦争をやめるのも、ちょっとまとまっていなさすぎで、とりあえず結末で包んだというごろっと感が強い。
 絵の動きとか、師匠のズームアップショットに杖が割り込むことによって大きく分断しているところとか、その辺はかなり面白かったけど、話としては確かに色々気になる部分は多い。戦争がかなり大きく話の中央に居座っているし、その酷さを伝えるものだったり、それを起こしている人への批判的な視線はあったりしながら、戦争があんまりにもあっさり集結するというのは、現実の中で戦争を止めることが非常に難しいという苦さに対して少し甘すぎる結末だなと思った。
 ふと、古井由吉のことを思い出したけれど、彼は晩年に近くなるにつれて自分の戦争経験のことを作品に描き始めて、ただその空襲の後に歩いて移動する記憶などを書くのだけれど、ハウルでも宮崎駿は原作にないその空襲の風景みたいなものを書かざるを得なくて描いたのかなみたいなことも思った。宮崎駿の個人的・歴史的悪魔。『君たちはどう生きるか』で一番迫力があった宮崎駿の絵の息吹を感じたのは空襲のシーンだったし、引退作と定めて作った『風立ちぬ』はその消化できなかった問題に同じようにもう少し誠実に向き合う作品だったような気がするからだ。でもハウルの時は子ども向け商業作品として締め切り内にまとめて出すという状況で、そういうシーンを書いたが、戦争というものはなくなって欲しい、でもそれに巻き込まれる一市民がそれをどうやったら止めることができるのかという、そこそこに長い人生をかけても答えに辿り着かなかった問題を紐解かなければならない、というハウルの話の展開に対して、真正面から答えを出して書き切るということができなかったのかもな、と思った。というかあれだけのフィクションの度合いの中でその勝負をするのは割と禁欲的な踏ん張りが必要で、それがそのときには叶わなかったのかも、と思った。しかし、その亡霊にずっと憑かれていそうだ、とも思う。
 それから、つながる扉の表現を観て『君たちはどう生きるか』の扉はやっぱりハウルの扉だなと思ったのと、昔一度会っていたソフィーが会いに行くというのはハクと千尋、眞人とヒサコみたいだった。『君たちはどう生きるか』では、それが死者と生者の間に起きているというのがやはり特筆する点で、創作物が死者と生者をつなぐというのはかなりあの作品の根幹にあるという感じがした。あとは契約なんかも気になった。

シェイクスピア『ハムレット』
 戯曲。読みながら、これはハムレットの狂気がハムレットの演技によるものか、マジものか、というのがわからないな、と思い、世で主流の演出はどっちなのかなーとか思っていた。ハムレットがずっと思ったよりメチャクチャしてて面白い。どれくらいまでやったらやばいか、とか、身分の高さというのがどの程度確固たる地位を築いているのかとか、操の硬さというのをどれくらい重視した社会なのか、とか、そういう社会の前提とする常識の差
 解説を読んでみたら、劇作を前提にした翻訳の如何について、かなり雄弁に語られていて、それ以外の確定ではない事項の揺れの指摘も面白かった。ハムレットは本当にオフィーリアを愛していたかどうか、とか。
 あと、これを読んでいるのとそうでないのでは、演劇の中に出てくる墓穴の考え方とかが変わるなぁ、と思って、『ゴドーを待ちながら』の終盤にあるウラジーミルの長台詞のことを思い出していた。

宮崎駿『風立ちぬ』
 映画。擬音が全て声で、地震のシーンの迫力がすごい。人の声を使う演出、絶妙にケレン味がある。構図とかはめちゃくちゃ決まってるし、ショットの切り替えの感じが全然ジブリをみている感じがしなくて面白い。長い時間経過の方が上手いのではという話をしながら見た。
 映像研をみてる気分にたまになる。ほんとにたまに。夢想と現実のバランスも含めて。
 見終わった後にクオリティとか技術の面ではかなりクオリティは高いけど、何となく画竜点睛を欠くという気持ちになる部分があるよねという話になった。

panpanya『枕魚』
 漫画。ユリイカpanpanya号を手に入れたので、家にある未読のpanpanyaを読んでいる。
 魚のアホの顔が絶妙。

panpanya『おむすびの転がる町』
 漫画。表題作しか覚えてないけどpanpanyaは最高。

panpanya『動物たち』
 漫画。動物が可愛い。猯と狢のそれぞれの話が、絶妙な迷惑さと愛着の話で、よかった。
 panpanyaのリアルな動物と、人間に近づいた瞬間に異常に簡略化される動物が好きなので、この巻は動物ばっかりでよかった。

宮崎駿『風の谷のナウシカ』
 映画。めっちゃ音楽が変わってて、最初に王蟲が出てきたときにゲームみたいな音楽〜!ってなった。YMOのかっこよさみたいな感覚で受け入れられたのか?
 ナウシカ、めちゃくちゃ声優の人がやる朗らかな人間で、変な感じする。俳優を使う理由がよくわかる。あとナウシカにしろ、クシャナにしろ漫画のキャラクターの方が良いので映画見るとどうしてもイマイチに感じる。
 冒頭のユパさまが子供に名前をつけるシーンも、観ながら漫画からアニメにしているゆえの無駄なシーンな気がするね、みたいな話をする。絵も枚数が少なく感じるところがちらほらあり、ここから千と千尋くらいまでにかけて絵がめちゃくちゃ進化していくんだなぁと思う。

panpanya『二匹目の金魚』
 漫画。短い話もいっぱいあっていい。ローポポーは、とおきやまに日が落ちての音楽だというのがわかって流しながらウケてた。

panpanya『グヤバノ・ホリデー』
 漫画。これがグヤバノホリデー! 実話じゃーん!面白かった。今度アメ横に行ったらグヤバノジュースチャレンジしてみたい。

panpanya『魚社会』
 漫画。さかな、ゆるくてかわいい〜。
 カステラ蒸しパンとの戦い、熱心に読んじゃう。

『千と千尋の神隠し』
 映画。かなり面白かった……。
 絵でいうと、トトロもかなりすげー!と思ったけれど、話とかキャラクターの性格も込みで1番観ていて楽しいかもしれない。釜じいとリンと銭婆がとてもよくて、とくにリンは、ずっとかっこよくて憧れるなぁと思った。そういうところが子供の頃に観ていてよかった作品かもしれない。子供の頃にああいう女性像を持っているか持っていないかはかなり大きな違いだと思う。
 神道すぎ!というのが結構今回見て気がついたことで、しめ縄とか、神様が口にかけてるマスクみたいなのに鳥居が書いてあったりとか、血を毛嫌いするところとか、そもそも八百万の神というのはそうだし(出雲系だけど)、千尋やハクが着ている狩衣も神道で使用されるものなので、いろいろなデザインなどの下敷きに使われているなと思った。ハクの本名のニギハヤミコハクヌシも、古事記を読んだ後では、ニギハヤミってめちゃくちゃ古事記に出てきそうな名前なので、それを意識しているのだろうなと思った。

panpanya『模型の町』
 漫画。魚をメチャクチャ撮るやつよかった。あと、コンクリート壁に猪がぶつかった、というところの猪が可愛いすぎる。

『劇場版パトレイバーⅡ』
 映画。多分三回目くらいだと思うのだけれど、記憶が一作目の劇場版とちゃんぽんされていて、あれ……?と終わり際に思ったのだけれど、やっぱり面白かった。あの監視カメラみたいな構図を観たり、会話中のいろんなカットを観たりしながら、押井っぽいってこういうことかーとふと感じられて面白かった。あんまり今までわからなかったけど急にすんと理解できた。

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