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健やかに生き、なお美しき老境の色

かめのぞき という色をご存知ですか?
「白い甕に水をはってのぞいてみる、その時の水の色」
以前の記事でも少し書きましたが、

今、染織家の志村ふくみの「一色一生」(講談社)を読んでいるので、植物、いえこの世の神秘を感じ、また書きたくなりました。

「かめのぞき」という色は、藍を染める時に出る色ですが、
仮に一つの甕(かめ)に藍の一生があるすれば、最初にちょこっと甕につけた色ではなく、「その最晩年の色」なのだそうです。
私は、これを知った時、本当に驚き感動しました。

元々母が藍染の布が好きなこともあり、「藍」に対しては、他の植物とは違う何かがあるような気がしていました。
もちろん、藍染めのことは良く知りませんでしたが、
「かめのぞき」という色は知っていました。
色の手帖(小学館)にも載っています。


私は長い間、この「かめのぞき」は「藍の赤ちゃん」の色だと思っていたのです。染めはじめの色だと信じて疑いませんでした。それが・・。

人間国宝である著者が、「最後まで矍鑠(かくしゃく)として格調をおとさずに全うした甕にまだ二度しか出会っていない」とこの時書かれていますが、そのくらい「藍」というのは深いものなんですね。
そして「かめのぞき」の色も。

「…一月すぎ二月すぎても藍は衰えず、中心に凛呼とした紫暗色の花を浮かばせ、純白の糸を一瞬にして群青色に輝かせる青春期から、しっとりとした充実した瑠璃色の壮年期を経て、かすかに藍分は失われてゆくが、日毎に夾雑物を拭い去ってあらわれる かめのぞきの色は、さながら老いた藍の精の如く、朝毎に色は淡く澄むのである。」

時を経るごとに雑念を拭い去って、まるで幼子のような透明感のある、けれどそれだけではない風雪を越えて老境に生きる人のような美しい品格のある淡い水色。まるで気高い魂がそこにあるとしか思えない。

そして

「ある朝、白い糸は甕の中から茶褐色の藍液を含んで上がってきたが、絞り上げた糸には何も染まっていなかった。二か月余りの間、全精力を振り絞って染まってくれた藍は、その力を使い果たして或る朝忽然と色を無くした。私は思わず、線香をたてたいようだと思った。」

本物の「かめのぞき」色に会いたい。
気高い魂に会いたい。

それでは今日も、人生の一日を味わい、「自分」を生かしていきましょう。

読んでくださって本当にありがとうございます。



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