SS用03

ニンジャスレイヤー二次創作【アンインバイテッド・カスタマー】

※2/26:一部の文章を追加・修正


「フアー」

キタノ・スクエアビルの地下街四階に店を構える「ピザタキ」。

その堂々たる店主であるタキは、誰もいない店内で一人大きな欠伸をした。

右手にはポルノ雑誌。左手にはケモビール瓶。

ページをダラダラとめくりながら、緩急を付けてケモビールを喉に通す。

最高のニューロン・リフレッシュ・タイムだと、タキはこのひと時を噛みしめた。

入り口のドアには「本日休業」のプレートを出しており安心だ。

気分次第で店をやるかやらないかを好きに選べるのがオーナーの特権である。

ここのところ、デシケイターの行方を調べるのにとにかく神経を使わされているのだ。

たまには客商売などという面倒事からも解放され、英気を養わなくては焼き切れてしまう……。

「フアー」

あの恐ろしいニンジャスレイヤーも今は店にいない。

足を使って少しでもサツガイに繋がる糸口を見つけたいらしい。全くご苦労なことだ。

コトブキもどこかへ行ッちまっているし、いきなり転がり込んできたキザったらしいニンジャのオッサンは、ネオサイタマが珍しいのか日がなブラブラしているときたもんだ。

その時、風鈴の音とともに入口が開き、誰かが入ってくる。

「ア……?」

カウンターに座っていたタキは気怠く視線を移す。

ニットキャップと市販のマスクを付けたひょろりとした見知らぬ男だ。

心なしか奇妙なアトモスフィアを感じ、タキは一瞬ぞくりとした。

以前この店を襲った虐殺者(とんでもねぇ最低のニンジャだった)の記憶がよみがえり、一瞬言葉に詰まる。血の海の光景が。

「ピザ、一枚」

カウンター近くの椅子に座った男は、さも普通の客のように注文を繰り出した。

「あ、テルヤケでお願いします」

タキは面食らう。

不穏な気配はない。

自分の考えすぎか?日頃のニューロンの酷使が無用な疑心暗鬼を生じさせているだけか?

「……あのよォ。プレート、見えなかったか?今日は休みだ」

「ウエッ、マジで?何とかなりませんかね、カネは多めに払うんで。腹減ってんですよ。このへんにあんまメシ屋とかないでしょ?」

思ったよりも馴れ馴れしいその言葉を受け、タキは考えを巡らせる。

「……特別料金として三倍増しでいただくぞ、いいのか」

どう転んでも損をしないための算段を、リフレッシュしたタキの頭脳は一瞬で弾き出した。

「良い、良い!」

メニュー表を確認した男は即答する。言い出しておいて何だが、コイツ本気か?

「ウチはセルフサービス式であるからしてだな……そこの冷蔵庫に入ってるやつを自分で焼くか……」

タキは話しながら、またも高速思案した。

「……オレに焼かせるンなら、元の四倍増しだ」

カウンターの内側で身構えながらタキは続けた。

「エー……まぁ、いいや。払います払います」

「前金だぞ」

「オーケー、オーケー」

そう言うと男はポケットから何枚もの紙幣を取り出した。

(オイオイ、マジか)

タキはこの度を超えたふっかけように対する男の淀みない挙動にますます面食らわされた。

そんなに腹が減っているのか?ただの安い冷凍ピザを?四倍の値段で?

怪しいと言えば怪しいが……意図が掴めない。

しかし、サンズ・オブ・ケオスのニンジャがこんな妙なマネをするとも思いにくい。

それに加えて、ピザをオーブンに入れて出すだけで……何たる黒字経営!

「いや……本当……お前……ちょっと待ってろ」

読みかけのポルノ雑誌も飲みかけのケモビール瓶も置き去りに、タキはいそいそと冷蔵庫からピザを取り出し、オーブンに入れて焼き始めた。

念のため常に男の動きに気を配ってはいたが、おかしなそぶり一つ見せない。

冷凍なので少し時間がかかるが……その間、男は世間話のようなものを軽く振ってくる程度だった。タキは適当に相槌を返す。

できあがったピザを机まで運ぶと「ドーモ」と軽く頭まで下げられた。

男はすぐにマスクを下ろし、ピザにかぶりつく。

「アツッ……フーッ……ウン、ウマイ、ウマイ……」

……全く、自分の方がパラノイアのイカレ野郎になった気分だ。

おおかた食うに困った男が、近くで運良く金の入った財布でも拾ったか?

代金をポケットにねじ込みながら大きく息を吐く。

まだ残っていたケモビールを一口飲んだ。

「いやァ……助かりましたよ」

男は口の周りをソースで汚しながらにこやかに言った。

「アーそりゃよかった、オカワリ食いたけりゃ言えよ。二枚目からはサービスでいつもの二倍増しにしといてやる」

「ドーモ、ドーモ。……あっそうだ。よかったらちょっとこっちに来てくれませんか?」

今度は何を言い出すんだと、改めてカウンターから腰を上げ客の方へと向かう。

今日のタキはいつにないほど接客精神旺盛だった。

「なんだなんだ、ウチには気の利いたサイドメニューとかはねぇぞ」

「いやですね。このピザが結構オイシイですから、よかったら少しいかがですか?」

「ハァ?」

机の上には、円グラフめいて三分の一ほどピザが残っていた。

またもよくわからぬことを言い出す客だ。腹が減って仕方ないのではなかったのか?

それとも、空腹の一般客を装ったくだらねぇグルメ・ライターが、奥ゆかしさレベルの抜き打ちテストでもしてやろうという腹か?

「さすがに客がカネ払ったモンを目の前でいただこうとは思わねぇよ。気持ちだけもらっとくから食いきれねぇなら残しとけ」

「そうですか……残念です。こんなにオイシイのに……」

そう言って、客はやおら皿を手に取った。

その動作を奇妙だとタキのニューロンが告げようとした……その時だ!

「イヤーッ!」

「グワーッ!?」

ナ……ナムサン!

男が突如、ピザを皿ごとタキの顔面へと叩きつけたではないか!

突然の出来事に転がりのたうつタキ!

「グワーッ! グワーッ!」

一体何が起こったというのか!?

「フフフ……ハハハハハ! 人の好意を素直に受け取らぬバカめが!!」

「なんだってんだチクショウ……お前なんだってんだ……」

状況を理解できぬタキは、鼻血を流しながら恐る恐る客を見やる。

だがそこにいたのは……おお、見よ!

粗末なマスクを捨てたその顔に装着されているは、紛れもなくメンポ!

然り、目の前の男はニンジャであったのだ!

「ドーモ、プランダーです」

「アイエエエ!?」

至近距離でアイサツされ、ニンジャ存在感をまともにタキは思わず恐怖に叫ぶ!

「いいぞ!いい顔だ!その顔が見たかったのだ!」

「なんだとォ……!?」

コイツは何を言っているんだ?

ニンジャ? ウチに? 何故?

痛みとショックで頭が回らない。

だがプランダーはそんなタキの頭を踏みつけ、ゆっくりと語り始めた。

「いいか……俺はな、ついこの間まで、お前らのような非ニンジャのマケグミのクズどもとは違う世界にいた。過酷なセンタ試験を突破しなければ入社できぬような一流企業にいたんだ!」

「……何の話だよグワーッ!?」

無慈悲なストンプが加えられる!

「そこで俺は死に物狂いで働いていたさ……出世のためにな。だがある日取引先の工場のクソ野郎が!上司の汚職をブチ撒けやがったんだ!」

「ウーッ……」

タキは聞き続けるしかない。この最高にクソッタレでワケのわからぬ身の上話を。

プランダーは常に大仰な身振り手振りを交えながら語っていたが、無論頭を踏まれ続けているタキからは何も見えぬ。

「それで俺はどうなったと思う?少し協力しただけのその汚職の罪をまるごとおっ被せられ……トカゲのシッポめいて切り離されたのさ!」

まるで芝居か何かのような芝居がかった言い回しが、タキのニューロンを強烈にイラつかせるが、相手はニンジャだ。

正面から勝てる相手ではないということを、タキは嫌というほど知っている。

「あの日はこの世の全てに絶望したよ!でもなァ……そんな時俺はなったんだ……ニンジャに!」

頭の上の足が急にどかされたかと思うと、プランダーはタキの胸ぐらを掴み持ち上げた。

「グウーッ!」

「あのマケグミクソ野郎は工場ごと潰して殺した……クソ上司も殺した……でもまだだ、まだ俺の怒りは収まらん」

「オレと……何の関係があるって……」

「俺達のようなカチグミに歯向かうお前らのような社会のクズは……まとめてお仕置きしてやらないとって話だよォー!!」

プランダーはワータヌキめいた目でタキを威圧!コワイ!

「センタ試験も突破してないクセに!!」

ブッダファック。タキは心中で呪詛めいて唸る。何たるサイコ野郎だ。

ニンジャスレイヤーへIRCを送り続けているが反応がない。ブロックされているのだ。

奴はしばしば、ピザタキへの逆探知を防ぐため通信を受け付けなくなる時がある。

何か面倒事にでも巻き込まれているのか、もしくは巻き込まれぬようにしているのか。

サンズ・オブ・ケオスの連中とは違うようだが……どちらにせよ状況は最悪だ。

「だが安心しろ、殺すかどうかはお前次第だ」

「何?」

邪悪ニンジャの口から意外な言葉が発せられる。

「実はな……これまでにももうムカつく連中を散々殺してきたのよ。だがそろそろただ殺すのにも飽きてきたところだ。そこで……チャンスをやる!」

「チャンス……だぁ?」

「腹を空かした善良な客に対して、ボッタクリ冷凍ピザを食わせるようなどうしようもないお前が、心を入れ替えられるなら……見逃してやらんこともない!」

表情を歪め、またも大仰なジェスチャーと丹念に抑揚をつけた語り口でプランダーは言った。

コイツは人をイラつかせることにかけては間違いなく超一流のニンジャだと、タキは心の中で三回舌打ちした。

「グッ、どうしろってンだよ……」

「フン!」

プランダーは掴んでいたタキを床へと放り投げる!

「グワーッ!」

「タバコだ。タバコを寄越せ」

再び椅子に座ったプランダーは見るからに尊大な態度で要求した。

「いきなりタバコってよ……エート、客の忘れモンならあるが……」

「なんでも構わん、さっさと持ってこい」

おずおずとタキはカウンターの上にあったタバコをプランダーへと差し出す。

「ああ、火はいらんぞ。俺には……」

そう言うと、プランダーは右手を構える。するとどうだ!

プランダーの右手から超自然の炎が燃え上がり、その掌を包み込んだではないか!

「……!」

「これがあるからな!ハハハハハハ!俺の自慢のカトン・フィンガーだ!」

人差し指に集中させた炎でタバコを添加し、メンポ開閉機構を駆使して吸い始めた。

「フウーッ……わかるか? これがニンジャだ」

タキの顔に浴びせられる煙!

「ゲホゲホゲホ!」

「カチグミのニンジャのタバコの煙だ、ありがたく吸え」

「ゲホッ……そいつぁ、ドーモ」

タキの不遜な態度を見るや、プランダーはタバコを腕へと押し当てる!

「グワーッ!!」

ナムアミダブツ!これはコンジョヤキだ!

コンジョヤキは、元々アンダーグラウンド社会における仲間内での力関係を示すための、タバコを用いた凄惨かつミニマルな儀式であった。

しかしいつしかその嗜虐性はそんな精神性とは無関係の、純粋に苦痛のみを与える手段へと変貌していった。

今では若者から年寄りまでもが愛好する、最も身近な拷問方法として広く認知されているのだ!

「イカンなァー、イカン。そんなことでは、うっかり殺してしまうかも知れんぞ?」

なおも灰皿めいて擦り付けられるタバコ!数百度の超高熱がもたらす痛みがタキをのたうち回らせる!

「グワーッ! グワーッ!」

「ハハハ、愉快愉快!ほうらドゲザだ!自分はどうしようもないマケグミのクズだと認めてドゲザしろ!イヤーッ!」

さらに炎を纏った人差し指がタキの腕を襲う!

「グワーッ!」

「ハーッハッハッハ!」

チリンチリーン。突如ドアが開く!

「ただいま帰りました!お客さんですか?」

コトブキの声!手には荷物の詰まった袋あり。買い出しに出かけていたのだ!

プランダーはコトブキを睨む。

店内の異様なアトモスフィア……そして邪悪ニンジャの存在に気付いたコトブキは、状況判断する。

「タキ=サン!これは……貴方の仕業ですか!?」

「おやおや、可愛らしいお嬢さんのご登場だ。ここの店員かね?」

「ハイヤーッ!」

コトブキは入り口から大きく跳躍!

プランダーとタキの間に割って入るように着地!

「おお……?これはこれは、もしかしてオイランドロイドか?」

「大丈夫ですか、タキ=サン」

カンフー・カラテの構えでプランダーを見据えたままコトブキは倒れたタキに声をかける。

「ア……アイツはヤベェ、オレは今殺されかけてる。マジヤベェ」

「タキ=サンは下がっていてください」

「アイツは手から炎を出しやがる、無茶すんじゃねェぞ……何よりもまずオレの身を守ることを第一に考えろ」

「随分流暢なことだな? オイランドロイドならオイランドロイドらしく前後サービスでもさせてみろ!ノパン・ピザ屋のようにな!」

「自我があるのでダメです」

タキはコトブキの後ろに隠れながらカウンターの後ろへ避難する。

ニンジャスレイヤーへの通信も試みているが相変わらずシャットアウトされている。

そろそろと頭半分をカウンターから出し、睨み合いを見つめる。

「自我……ウキヨというやつか!これは面白い!いいカネになるぞ!」

「とことんファック野郎ですね。ブッ飛ばします」

「ハハハハ!笑えるジョークだ!」

「ハイヤーッ!」

決断的な連続蹴りがプランダーの頭部を狙う!

「ヌッ!」

プランダーは直前で全ての蹴りをガード!

カウンターのショートパンチがコトブキのボディに決まる!

「ンアーッ!」

「クッ……愚かなウキヨよ。俺はニンジャだぞ!敵うとでも思ったか!バカメ!」

「これぐらいで、諦めたりはしません……!」

その瞳に一切の曇りなし!

なおもカンフー・カラテを構えるコトブキ!

「ハイ!ハイ!ハイヤーッ!!」

素早い踏み込みからのパンチ・掌底・肘打ちのコンビネーション!

だがプランダーのガードの下には届かない!

「無駄だと言っておろうがァ−ッ!」

「ハイッ!ハイッ!ハイ!ハイ!」

なおも嵐のような猛打が打ち込まれる!

ピザタキ店内に響き渡る迷いなきカンフー・シャウト!

「ええい、人形ごときのカラテなど……イヤーッ!!」

瞬間、コトブキの腕がプランダーの赤い左手に薙ぎ払われる!

「ンアーッ!?」

「バカ野郎、だから言ってんのによ……!」

ニンジャ相手ではコトブキの勝ちの目は極めて薄い。だがこのドサクサに紛れて外に逃げることぐらいはできるだろう。

タキのニューロンにそんな考えがよぎった。

逃げる……そうだ。ニンジャスレイヤーとの連絡が取れぬ以上、ニンジャ相手に二人で何ができる?

誰の目にも逃げるのが最善手だ。

だがそれでもコトブキはタキを守り続けて戦うだろう。そういう奴だ……。

「ハッ」

自嘲気味に笑った。

ここでコトブキを見捨てて逃げたら、あの疫病神野郎に何をされるかわからねぇからなと、タキは一人ごちた。

そうだ、それだけの話だ。あんなサンシタ野郎よりも余程恐ろしい存在が身内にいるのだからどうしようもねぇ。

コトブキの危うい奮闘を改めて見ながら、タキはある決意を固めにゆく。

「イヤーッ!イヤーッ!」

「ピガーッ!」

カトンを纏ったチョップが二度、三度とコトブキの身体を打つ!

「ハア……ハア……どうだ、マイッタカ!観念してドゲザし、俺の所有物になることを誓え!」

コトブキの纏うアオザイが、さらにはその下にあるオイランドロイドの皮膚たるオモチ・シリコンが大きく焼け焦げている。

その姿は誰の目にも痛々しいが、コトブキ自身の表情に些かの陰りも見えはしない。

よろめきながらも立ち上がり、三度構えられるカンフー!

鋭く射抜くような瞳が、ニンジャであるプランダーをわずかに圧する!

「お、お前は……自我があると言ったな!」

「ハイ、実際あります」

「ならば!俺が怖くはないのか!ニンジャなんだぞ!俺は!!」

その声に明らかな動揺の色が混ざる!

プランダーがニンジャになったその日から、自分を恐れぬ者などいなかった!皆泣いて許しを請い、死ぬか逃げるかしていった!

「関係ありません!貴方はタキ=サンを傷つけました。そんな狼藉者にドゲザする気など、毛頭ありません!」

だのになぜ欠片も退かぬのか、怯えぬのか!この自我を持つウキヨは!不合理がすぎる!

「ダッ……ダマラッシェー!!ヒカエオラー!!」

ニンジャスラングが虚しく響き渡る!

その時だ!BLAMBLAM!!

カウンターから大きく身を出したタキが、備え付けのリボルバー銃でプランダーを連続射撃!

「グワーッ!?」

「タキ=サン!」

腕と肩に命中!だが致命傷には程遠い!

即座に次弾を撃とうとした瞬間、怒りに身を任せたプランダーが猛烈な踏み込みでタキの銃を奪い殴りつける!

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

「死に損ないのクズめ!このッ!こんなものッ!」

右手に握られた銃は、瞬く間にカトンの超高熱で溶解!

「お前ら……俺は!俺はニンジャだぞォーッ!?」

八つ当たりめいた叫び!

だが、いくつものニンジャ・シュラバ・インシデントをくぐり抜けてきた二人は、最早この程度で心折れることはない!

「ハイヤーッ!」

背後から飛びかかるコトブキ!

その体勢は……おお、見よ!これぞ暗黒カラテ技、三角絞めだ!!

逆立ちめいた形で右肩から首にかけて2本の脚でホールドし、重力にまかせて右腕をねじりこむ!

「グワーッ!」

先の銃弾が命中した箇所への攻撃!いかにニンジャといえども激痛は免れぬ!

だが負けじと両手のカトン・フィンガーを全開にし、ロックを剥がしにいくプランダー!

「ヤメロー!ヤメロー!」

「ンアーッ!」

腿と手が炎に焼かれるが、ホールドは緩まない!

「今です!タキ=サン……ッ!」

その声に即座に反応するかのように、カウンターから飛び出すタキ!

その手には……ケモビール瓶である!!

立ち上がり逃れようとするプランダー!しかし一瞬遅い!

「バカハ!」

怒りの限りを注ぎ込み、頭部に全力で振り下ろされるケモビール瓶!!

「ドッチダー!!」

命中!CRAAAASH!!

「アバーッ!?」

粉砕するケモビール瓶!

鮮血とガラス片が飛び散る!

大きくよろめくプランダー。いかにニンジャと言えど、ノーガードの脳天にビール瓶を叩きつけられて無事な者はまずいない!

カトンの勢いが弱まるとともに、コトブキも力尽きるようにプランダーから離れ、膝をついた。

振りかぶりもう一撃を浴びせようとするタキ!

しかしそれよりも早く、プランダーがニンジャ反射神経だけで放った力ないサイドキックがタキに命中した。

「グワーッ!」

「ハアーッ……ハアーッ……!お前らッ……許……さんぞ……!」

「クッソ……」

致命傷にまでは至っていないのは明らかだ。これがニンジャのタフさか。

コトブキは脚を大きく焼かれ、もうカラテを構えることはままならぬだろう。

銃は溶かされた。正面からもう一撃食らわせられる可能性はゼロだ。万事休す……!

ザリザリ……ザリザリ……その時だ!

IRCリクエストに応える者あり!

『どうした』

ニンジャスレイヤーからの端的な返事!

『バカ野郎お前今まで何やってやがったんだ!店がヤベェ、襲われてる。殺される!!』

『ちょっとしたインシデントがあった。……ニンジャか』

眼前のプランダーは緩慢に、だが確実に呼吸を整えタキを殺そうと迫りくる!

『そうだ!イカれたファッキングファックニンジャ野郎だ!早く来い!すぐに来い!今来い!』

『わかった』

淡々とした応答が返る。

なおもプランダーは荒い呼吸を少しずつ整えながらゆっくりと近づく。

「ハアーッ、ハアーッ」

獲物を捕獲する前の予備動作めいてスローだ。故に逃げられぬ。

タキはカジバ・フォースめいてニューロンをブーストさせ、とにかくニンジャスレイヤーが戻るまで時間を稼ぐ方法を考えようとする。

……だが、その必要はなかった。

チリンチリーン!風鈴!

三者が一斉に入り口の方を向いた!

男が立っていた。Tシャツにカーゴパンツにキャップ姿の男が。

「まあ!」

「……ワオ」

「なんだお前は……この店は取り込み中だ!カエレ!」

男は店内を見回す。

血にまみれ殺気を放ちながら叫ぶニンジャ。

ビール瓶を片手に追い詰められているタキ。

そして……あちこちが焼け焦げ、倒れ込んでいるコトブキ。

「……大体わかった」

「お前、何を言って……!?」

プランダーの言葉はそれ以上続かなかった。続けられなかった。

男に身体に瞬く間に……ジゴクめいた赤黒の装束と「忍」「殺」のメンポが装着されてゆく光景を目の当たりにして!

「……ニンジャ、ナンデ?」

「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」

赤黒の光を宿した目で相手を見据え、ニンジャスレイヤーはアイサツした。

「ド……ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。プランダーです」

アイサツが終わるやいなや、ニンジャスレイヤーは迷いなく真っ直ぐにプランダーの元へと歩き出す。

「お前……この店のヨージンボか!?」

「さあな」

「それ以上近づくなァー!こいつの命がどっ、どうなってもいいのか!」

タキを指差し脅しをかけるプランダー!

「やってみろ」

タキは反射的に何か言い返そうとしたが……できぬ!

ニンジャスレイヤーは、己のアトモスフィアだけで周囲の空間全てを威圧しているのだ!

プランダーはおもむろに両手のカトン・フィンガーの火力を全開にし、威嚇するようにカラテ・ファイティングポーズを構える!

「これが……これが俺の力だ!どうだ!お前も無事では済まんぞーッ!」

「そうか」

ニンジャスレイヤーはプランダーの目の前で右手を広げ……禍々しき超自然の黒炎が迸る!

プランダーの目が驚愕と恐怖に見開かれた!

それは見る者の本能を揺さぶる、暴力的なまでに理屈を超越したエフェクトである!

「アイエエエエエ!?アイーエエエ!?」

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

不浄の炎を纏った右手がプランダーの顔面を掴む!

メンポはたちまち飴めいて歪み、皮膚と混ざりあうように溶着していく!

「アバーッ!アバーッ!」

「……サツガイという男を知っているか」

「助けっ、助けアバーッ!」

「知っているか」

不浄の炎がプランダーの顔面を無慈悲に焼き、その奥にある精神をもねじ伏せてゆく!

「知らんーッ!俺は男になど興味はアバババーッ!!」

今際の際のプランダーのニューロンを支配していたのは、突如降って湧いたどうしようもない理不尽に対する畏怖であった。

わけもわからずに屈服させられている。本能がドゲザさせられている!

内側から全てを焼き尽くされるような痛み。精神を直接苛んでくるようなおぞましい感覚。

それらは全て、自分がニンジャとなって虐げてきた人間の怒りそのものであったが、無論……そのことを本人が知る由はなかった。

「……そうか。イヤーッ!」

「アバーッ!サヨナラ!!」

プランダーは爆発四散!!

その後……ザンシンと装束を解いたニンジャスレイヤーを見て、タキはようやく大きく脱力し、床に倒れ込んだ。

「アアーッ……終わった、チクショウ……」

天井を見ながら大きく呼吸した。もう指一本でも動かしたくない気分だった。

「ありがとうございます、ニンジャスレイヤー=サン!」

「その脚は、大丈夫か」

「ハイ!ちょっとフラフラしますけど、歩けます。直せば、大丈夫です!」

コトブキはゆっくりと立ち上がり、胸を張ってみせた。

「そうか」

「ったく、オレにはなんもなしかよ……重傷だッつうの……」

興奮状態から脱し、たちまち打撲やヤケドの痛みが襲ってくる。

「あ、そうです!タキ=サン、珍しくガツンとやってくれたんですよ!」

「……ああ」

「オレはいつもやる男だろ!給料下げっぞ!」

ヨロヨロと倒れるタキの元に向かおうとするコトブキを無言でマスラダが制し、代わりにタキを乱暴に起き上がらせた。

こっちは名誉の負傷をしているというのに、全く気遣いというものがない。端から期待なぞしていないが。

「お前がもうちょっと早く帰るか応答するかしてりゃあだな……」

「近くでソウカイヤの連中と睨み合いになっていた。用心のためだ」

「へいへい……」

相変わらず眉一つ動かさないマスラダに、大げさに呆れてみせる。

チープなアクション・フィギュアの方が余程表情豊かだというものだ。

「ダメですよ、タキ=サン。危ないところだったんですから、ちゃんとお礼を言わないといけません!」

本当にコイツはピザ屋の店員よりも、道徳の教師やボンズの方が向いているのではないかとタキは思う。もう慣れたが。

「アイ、アイ……ま、ありがとよ。ニンジャスレイヤー=サン」

タキは渋々だが礼を言った。頭も15度ほど下げた。

実際、今回のニンジャはサンズ・オブ・ケオスとは全く関係がなかった以上、この男がいなければマジで死んでいただろう。

そこは素直に認めなければならない。

「……店の掃除は俺がやる」

「は!?お前一人でか?」

意外すぎる提案だ。まさかコイツにも人の心というものが存在していたのか?

「代わりにデシケイターの情報収集を続けろ、タキ=サン。今日一日、何の成果も得られていない。急げ」

と、真顔で言い放つマスラダ。

一瞬でもこいつに気遣いの精神などを期待した自分がバカだった。

こちらの返事を待つこともなく、無言で掃除用具を取りに行った。

「やっぱりお前はそういうヤツなんだよなァー!わかってましたともよ!ダムンシット!」

背中を向けているマスラダに中指を立てる!立てる!

「もう、いつもこうです。いけませんよ、醜いです」

コトブキがタキをなだめようとした、その時である!

チリンチリリーン!風鈴の音!!

三人が一斉に入り口を注視、身構えた!

「……いやはや、ウワサに違わぬ街だわい!詩人のハートが疼……ん?」

そこにいたのは黒ずくめの男……コルヴェットである!

「おや、何ぞ大喧嘩でもあったかね?皆怖い顔をして……」

コルヴェットはやや怪訝な顔をしながら椅子に腰を下ろす。

「いやしかし、慣れぬ土地を歩くと腹も減る……店主殿」

そしておもむろに人差し指を立て、言った。

「ピザ、一枚」

……タキは、こらえきれずに叫んだ。

「ファーーーーック!!」


【アンインバイテッド・カスタマー】終わり



ニンジャ名鑑#XXXX
【プランダー】
カチグミ企業に勤めていたが、汚職の罪を全て押し付けられ懲戒解雇に。
その際の絶望とともにニンジャとなった。
善良で無害なモータルを装い、相手を油断させてから苦しめ殺すことを喜びとしている。
両手からのカトン・ジツを操るが、ニンジャ化から日が浅いこともあり、大したワザマエは持っていない。

スシが供給されます。