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環境とその影響 - 新チームMANAA ANIMATIONについて -

現在の僕たちはというとCANTERAの2期生の選抜に向けて学生たちと向き合っています。
制作行為を生業とする僕らの本分は一般的には「作品づくり」です。「育成」や「教育」、スタジオをどう運営するかをある程度オープンに議論しながら「環境」について考え行動することは、”「作品づくり」をするための準備”のような取り扱いを受けることがほとんどですが、食材がなければ料理ができないように、道具がなければ始まらないスポーツがあるように、作品づくりにおいても手を動かす行為だけが制作作業ではなく、本来の「作品づくり」はそのだいぶ手前から始まっていると解釈を広げることも可能ではないでしょうか。

アニメーションスタジオを成立させるためにはいくつかの達成条件があると考えています。
そのいくつかある要素のうちのひとつは「規模」で、自分たちの場合は「自分たちだけで作品づくりができる状態」をスタジオを成立させるうえでの最小単位と捉えているため、まずそれを実現できる状態が規模面におけるスタジオの必須規模(=人数)となります。そして、このサイズを現状維持するための資金が最低限必要になるランニングコストです。

打ち合わせ風景

例えばプロデューサーだけが在籍し、業界のコネクションや関係性から外部パートナーと連携することで作品づくりができる環境を成立させているスタジオさんもあるとは思いますが、自分たちにとっては自分たちが目指すフィルム感を獲得・維持するためにも多様なメンバーを内包するチームでないとならず、ひとつの職種のみに絞ったシンプルなチーム編成は自分たちのヴィジョンには合っていないと考えています。なので、ある程度の規模を維持させることが僕らが目指すスタジオ像を実現するうえでは必須条件なのです。

何かを創造するためには自社・他社問わず多くの関係者が関わり合いますし、その関係性を抜きにしてプロジェクトは進まない。会社組織が異なったとしても、ひとつの目的に向けてお互いに信頼しながら共に歩みを進めたい。映画やアニメといった大人数が参加するプロジェクトを行う醍醐味は、多くの方が参加しうる”お祭り感”にもあるのではないかとも考えています。
作品づくりの出発点でもある「環境」について考えた結果、この度、FLAT STUDIOのなかに新しいアニメーションチームを組成することを決断しました。

MANAA ANIMATION

MANAA ANIMATION(マナア アニメーション)はスタジオ内外問わず多様なクリエーター、スタイル、ワークフローを組み合わせながらアニメーション映像を制作するFLAT STUDIO所属のアニメーションチーム

MANAAの始動はFLAT STUDIO内でディビジョンを分けることを意味しています。
仕事内容、クオリティ、作風によって線引きをすることでもあり、見え方によっては依頼主や内外問わずプロジェクト参加メンバーを不安にさせる可能性もあります。しかし、ブランドの傘に隠れることで必要以上に下駄を履くことはメンバー個人にとっても良い影響だとは思えませんし、それによって余計な費用を掠め取ろうとすることは依頼主との信頼関係においても真摯な姿勢とは言えないのではないか。

良いブランドとは信頼を積み上げた歴史によって作られるイメージの総体を指します。
ですが、そうしたイメージよりも各チームやメンバーひとりひとりの実際のクオリティが水準を超えていることが重要ですし、チームのクオリティはトップラインではなく、ボトムラインで測られるべきです。
例えば、世界トップクラスのサッカークラブはレギュラークラスの選手がほかのチームの倍程度在籍し、ひとつのチームに2チーム分の戦力を保有しながら運営していく、なんて話しも珍しくありません。

我々のスタジオ運営方針についてはコチラで詳細を話しております 

鳥嶋和彦×loundraw×石井龍 鼎談(IMART 2023)

人は必ず成長すると思います。
しかし、ある意味残酷ではありますが(創作の世界に限らず)この世界は努力=時間という単純な方程式でなく、努力で解決できない「才能」によってのみ到達できる領域が存在するとも考えます。自分たちが「育成」や「教育」に向き合ううえでは、”努力の質を上げる”ことを大切にしていますし、”才能を言い訳にしない”ことや”努力と才能の境界線を見極める”ことに慎重になっていますが、あくまでも才能は存在するという立場を取っています。

そのため、共に創作を追求するなかで成長スピードであったり、アウトプットの質といった個人差がどうしても生まれてしまうのが僕らの現実で、FLAT STUDIOにおいては「育成」や「教育」を大切にすることは、僕らのスタジオ文化としても重要な価値観ですが、それを大切にするためにも越えなくてはならない、いくつかの”差異”が存在するのも事実でした。
そして、スタジオというコミュニティにおいて存在する数限りない”差異”において、自分にとって最も難しい差異が「成長スピードの差異」でした。

京セラ オリジナルアニメ『 #今は将来に入りますか 。』
アニメーション制作:MANAA ANIMATION

ある意味でこれらの差異はアニメスタジオだけの問題ではなく、ほとんどの組織やコミュニティにおいて存在するひとつの”差異”だと思います。
しかし、僕(ら)にとっての最大の問題であるこの”差異”は、「育成」や「教育」を標榜しながらも結局のところ個人の資質によって成長が左右されてしまうという事実や、育成には限界があるという現実に向き合わざるをえないことを意味しています。本当は全員が同じスピードで高みを目指して登っていきたいですが、現実では様々な要因によって成長スピードに個人差が生じています。

MANAAが始まることで自分たちの実力や案件への向き合い方はより明確にスタジオ外にプレゼンテーションされてしまいます。
FLAT STUDIOとしてもまだまだ発展途上のスタジオですが、それをさらに細分化することによりブランド構築のスピードは落ちる可能性がありますし、実際のところFLAT STUDIO名義での作品発表のペースは確実に減速するのではないかと思います。
しかし、正直に自分たちの実力を提示して、しかもそれが水準を超えているのであればスタジオ全体としても喜ばしいことですし、MANAA ANIMATIONという環境のほうが自身の能力を発揮しやすいメンバーが台頭
することもあるはずです。

京セラ オリジナルアニメ『 #今は将来に入りますか 。』
アニメーション制作:MANAA ANIMATION

“MANAA”という言葉には、「守・破・離」という人が成長するために必要なプロセスの意味を込めています。
守は「基本や型を身につけていく段階」で、破は「基本や型を破り発展させていく段階」、離では「その基本や応用から離れ、独自性やオリジナリティーを発揮する段階」を指しており、エネルギーを意味する”MANA”を発展させ、アニメーションの”A”を足すと、同じ響きを持ちつつもエネルギーを意味しながらアニメーションという意味が加わった”MANAA”という造語に着地しています。

クリエーター職、プロデューサー職問わず、最適なキャリアパスを模索している組織は多いと思います。自分たちもそうです。
アニメスタジオが分派し新たなスタジオが生まれるという潮流のある現在のアニメシーンにおいて、その新陳代謝の一部を自分たちの組織内で行えたら、より良く継続する環境が作れるのではないかとも考えています。
ディビジョン分けをする目的は健全な競争環境を生み出すことでもあり、社会(市場)からどう求められるかもひとつの指標になると思います。そういった意味では実績的にはFLAT STUDIOが一歩先に進んでいますが、MANAA ANIMATIONもチャレンジャーとしてFLAT STUDIOを越えるべく制作に向き合っていきます。

MANAA ANIMATIONは受託制作の領域で映像を作っていきます。
僕らにできることがあれば、ぜひ、ご一緒させていただけますと幸いです。

最後になりましたが、今回、MANAA ANIMATIONがアニメーション制作を担当させて頂いた最新映像作品<京セラ オリジナルアニメ『 #今は将来に入りますか 。』>是非ご覧くださいませ!

CONTACT
https://flatstudio.jp/manaa/


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