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久しぶりに人を遠ざけた話

突然だけれど、数時間前にある人にお別れを告げてきた。

その人は同居している元彼(事実婚相当の年数一緒に暮らしている)からDVを受け、ペットボトルの箱ごと投げつけられたり回し蹴りで肋骨を数本折られたりしていた。
当時は僕も毒親と一緒に暮らしていたので、2人で逃げようと作戦を立てた。
それ程真摯に向き合ってきた。
気の迷いでもなく、きちんと背負っていこうという気持ちでいた。

しかしこの後僕のメンタルは徐々に削られていくことになる。
色々あって僕が所有しているマンションの1室。
確かに大変古い。
「こんなに古くて汚い家だと思わなかった。アレルギーが出るからここには住めない」
それでも相手から同居の解消をしてほしいと理由を告げられた時に、ショックは少なくはなかった。
アレルギーが出てしまうのは仕方のないことだし、体質なのだからどうしようもない。相手の落ち度でもない。

それでも家に相手の物が増えていくにつれ、価値観のズレは深くなっていく。
相手は醜形恐怖持ちだからと化粧品類や入浴の際のあれこれに強いこだわりを持っていて、その殆どが生活に見合わない値段の物だった。
しかし醜形恐怖なのだから仕方ないのだろう。
そう思うようにした。

相手は時々配信をしており、僕にも来てほしいと言われた。
その配信アプリに疎い僕はよく𠮟られた。
「ルールがなってない。ここはあなたが普段配信しているYouTubeじゃないんだよ」
それで億劫になって配信に行かないとまた文句を言われた。
「なんできてくれないの?」
怒られてしまうからだと返事をすると
「あんなの本当には怒ってないよ。その場のノリ。冗談なんだから一々気にしないで」
とまた怒られてしまった。

その頃から諍いが増えた。
僕がコメントを打つと怒られた。打たないと怒られた。どの道怒られるのならもう来ないと言えば
「ナガレに教えるんじゃなかった。ナガレなら解ってくれると思って呼んだのに」
と深くため息を吐きながら繰り返し後悔された。
コラボをした時のお礼も兼ねてだともう一度コラボをした時はいくつか用意する物が必要で、後の諍いでは
「お金の事は言いたくないけど、あの時ナガレに喜んでほしくて私がお金出したんだよ」
と再三出てくることになる。

相手の配信で諍いが起こる一方で、もう半年以上現実世界で相手と会うことは無くなっていた。
相手の為にと部屋の掃除や断捨離をし、相手の好みの色のカーテンを揃えた。
全て僕が相手の為にやりたくてやったことだ。
けれど一向に報われないこれらの作業は、やがてただ虚しさだけが残った。
相手の為にと調整を重ねた部屋を、一度も披露することはなかった。

配信の相手の発言を聞く内、様々なことが解ってきた。
何か1つ得たとして、間もなく新たな次を欲しがること。
今の同居人の貯金が4桁万円を超えていること。
その同居人は稼ぎが良く贅沢をさせてくれるので、もうこれ以下の生活には戻れないと断言していること。
到底数万円で賄える生活ではないけれど、言われた金額を同居人に渡しているのでここは自分の家でもあると断言していること。
同居人のDVの原因が、何をどうしても自分の睡眠の妨げをしてくることによるストレスからきていること。
二十代の内に子供を産みたいし、産みさえすればその子の為に何でも頑張れて何でも我慢できると信じて疑わないこと。
自分からし出した話題にコメントしてくれた人達に逆ギレしたり
「ここは私の配信なんだから気に食わない奴は出ていけ。フォローも外せ」
と言った翌日に
「結局フォロワーが減った。いつもそう」
と病んでいたり。

まぁ要するに、僕がどれだけ相手の為に努力をしたとしても、しばらくすればそれが当たり前になり、当たり前は足りないことへの不平不満となり、遠からず配信内の罵詈雑言を浴びせられるのだろうなと解ってしまったのだ。
そもそも家1つを用意しても同居の解消を迫られたのだから、まぁ当然と言えば当然の流れである。

もう1つの原因は繰り返される『試し行動』と向けられる『疑いの目』だった。
家に来た際毎回のように
「今私のこと嫌だって思ったでしょ」
等の試し行動がとにかく多かった。その度にいくら説明しても
「ナガレは擬態が上手いから信じられない。本当は嫌なんでしょ」
と、信じてもらえたことは1度としてなかった。
そして会う度に
「性格も好きなものも全然違うし、絶対私達上手くいかないよね」
とケラケラと笑うのだ。
僕はそれらを受け止められず、徐々に疲弊していった。
そんなに疑われるのなら。
信じてもらえないのなら。
もう全て終わりにしてしまおう。
そう決めて、今まで思っていたあれこれをラインで伝えた。
諍いになるまでもなく、相手から
「私に語彙力がないせいで伝わらないのでもういいです」
と拒絶が返ってきた。
話し合うことすら断られ、終わりを告げる間もなく止まってしまった。

脱衣所に置かれている相手の物の数々。
それを見る度に相手のことを思い出してはモヤモヤとする。
もう来ない癖に主張ばかりするそれらは、強制的に意識を相手へと引きずっていく。
1人暮らしの、自分の為の空間作りをしているのに、会話すら起こらない相手のことを考えてしまう。
それらはもう自分にとって新たな鎖となっているのだと気付いた。
相手に何をどう言われようと、きちんと関係性の終わりを言わなくてはいけない。
それは他でもない自分の為に。

僕が物を何より大切にしていると知っていて、乱暴に扱うことにも。
睡眠を妨げられるのが何よりのストレスになり、やがて不眠症になってしまうその辛さを当事者として知っているのに、同居人に気を遣わないことも。
一緒に作ろうと言った作品の説明書をきちんと読まず、逆に僕を
「変な所にばっかり凝るよね」
と笑ったことも。
全て相手の障害特性なのだから仕方ないと「大丈夫」と言っても
「私はナガレの障害特性を考えて色々気を遣ってあげてるのに!」
とこちらが要らない気遣いをされた時にキレられるのも。
全部全部、気付かない内にお互いが『被害者』に成り果ててしまっていた。

これらを読むと僕が被害者の様に見えるだろう。
けれどきっと同じだけ、僕は相手にとって加害者であるのだ。
こんな不毛な関係は終わりにしよう。
相手の為に良かれと思ってしたことが憎しみに変わってしまうような関係は存続不可能だ。
だからちゃんと、終わりにしようとお別れを言った。

それ以降の配信での罵詈雑言は、むしろ聞いていて笑ってしまうくらいスッキリした。
本当はそんな風に思ってたんだ。そんな偏見持ってたんだ。そんなに色々我慢してたんだ。
僕はそれを聞きながらその配信アプリの退会手続きをし、スマホから削除した。
相手の為にと作ったXのアカウントは折角このタイミングなので笑い男に変えた。
そのアカウントも近日中に削除する予定だ。

もっと早くこうするべきだったと思う。
だけれど今というタイミングが用意されていたのだとも思っている。
僕はこの半年で、初めて幸せという物を得た。
そして沢山の意見や世界を見聞きした。
僕は僕の為に変わることにした。まずはこの幸せを誰にも害されない所から始めようと思った。
今、僕は本当に幸せで、過不足無く満ち足りている。
欲しい物はない?と訊かれた時、本当に何も出てこない程に。
常に口をへの字に曲げているお相手とは、もう一緒にいたいと思えない。
今ある物事への感謝をせず、強請り続ける人の言葉は聞いていたくない。

「ナガレはきっと幸せになれないよ」
という言葉の棘に対して
「ごめん、もう幸せになってる(笑)」
と返せる内にお別れを言えて良かった。
不幸の中に居座り続ける生活はもうやめたから。
あなたもどうか、新しい王子様を見つけてね。
そうして知らない所でお互い幸せでいられたなら、これ以上ないハッピーエンドだ。

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