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「オークスは馬体重の軽い馬を買え!」格言は本当か?

今年はもう済んだ話になってしまうのだが、オークス(優駿牝馬)の話である。

今回(2022年)の第83回オークスで、私が狙ったのはピンハイであった。結果、4着に敗れた。とはいえ、13番人気だったピンハイ4着にまで順位を上げたのだから、なかなかに善戦したと言える。これで桜花賞5着、オークス4着と連続して掲示板に載り、牝馬クラシックでなかなかの結果を出していることになる。

さて、チューリップ賞2着、桜花賞5着とそれなりの結果を出していたピンハイが人気にならなかったのは、レース前から彼女について二つの不安材料が囁かれていたからだ。
ひとつには、父ミッキーアイルという血統からくる距離不安。スプリントからマイルの短距離を得意とし、産駒にもその傾向が如実に表れていたミッキーアイルの血統は、確かに距離不安を呼び起こすものだった。
そしてもうひとつは、馬体重の問題だった。2021年10月に420キロでデビューしたピンハイは、前走前走賞出走時には406キロまで馬体重を落とし、初の関東への輸送となるオークスでは、400キロを割り込むのではないかとも言われていた(実際は402キロで出走)。

「オークスは軽い馬を買え」


という格言がある。ある、というか、あった。あったはずだ。私の記憶によれば。一時期までは。
だからこのピンハイの低人気の理由を見たときに、「あれ?おかしいな」と思った。ピンハイが低体重を理由に推されることはあっても、嫌われるのには違和感があった。
しかし、私の見た限りではこの格言に基づいて今年のオークスを予想した見方は一つもなかった。ピンハイを本命に指名したのは東スポ紙上の爆笑問題田中裕二とBSイレブン競馬中継司会の宮島咲良くらいだった。多くの競馬記者・競馬ファンからは、ピンハイは穴馬としても注目されなかったことになる。

「オークスは軽い馬を買え」

確かにこの格言は、かなり古いものになってしまったような気がする。考えてみるとここ数年、聞いたことがない。

実際のところ、どうなのだろう。
ということで、調べてみた。

1971年 カネヒムロの勝利


まず、この格言の淵源と思われる出来事が、1971年に起こっている。この年にオークスを勝ったのはカネヒムロ(父パーソロン)だった。10番人気、大雨の中を大外から先頭でゴール板を駆け抜けた。この時の馬体重は384キロで、G1級史上最少記録を更新し、この記録は2022年現在もいまだに破られていない。ちなみに鞍上は若き岡部幸雄で、このとき22歳にしてG1初勝利を飾った。
古いところだが、オークスは軽い馬が有利、というジンクスは、このあたりから来ているようだ。

さてここからは、馬体重に正確な記録の残っている比較的近年のものからデータを探ってみた。(データ元はnetkeiba.com)

1990年以降の統計から


三つの年代(①1990~1999年②2000~2009年③2010~2022年)に分けて調べてみる。なお「軽い馬」(低体重馬)の規準は440キロ未満とする(JRAの発表は2キロ刻みなので実質438キロ以下)。

① 1990~1999年

ここでは、440キロ未満のオークス勝利馬がなんと6頭も誕生している。10年のうちに6頭だから、勝ち馬の過半数が「軽い馬」だったわけだ。その中には、ベガ(1993年)、ダンスパートナー(95年)といった名馬も含まれている。3着内にも目を向けてみると440キロ未満馬の成績は【6・3・3・58】(【1着・2着・3着・着外】)と複勝率は17.1%だった。

② 2000~2009年

この10年のうちに勝ったのは3頭。シルクプリマンドンナ(2000年)、スマイルトゥモロー(2002年)、ダイワエルシエーロ(2004年)と勝率はやや下げたものの、複勝率はさらに上がり、【3・4・4・38】と複勝率22.4%を記録している。
大穴を開けたところでは、2002年のチューニー(13番人気2着)、2008年のエフティマイア(13番人気2着)がいる。出走馬の大型化が進み440キロ未満の該当馬が減少傾向にある中で、それでも軽量の馬がオークスで活躍していたことがわかる。

③ 2010~2022年(ここは13年分の統計)

傾向が変わるのは、ここからである。ここに来て、すっかり軽量馬は不利になった。勝ち馬はわずか2頭。ミッキークイーン(2015年)とシンハライト(2016年)しかいない。そして三着内に入ることも【2・2・4・55】とめっきり減って、複勝率12.7%と大きく数字を落としている。


3つの年代の比較


馬券に絡むか絡まないか、ということが一番大事なので、もう一度複勝率について整理してみる。
複勝率について付言しておくと、フルゲート18頭で3着以内に来る確率はもちろん18分の3で16.7%。だからこの数字を上回るかどうかが、カギである(オークスは統計を取った期間、ほとんどのレースが18頭立てだった)。

オークスで440キロ未満の馬の成績は、以下の通り。
1990~1999年【6・3・3・58】複勝率 17.1%
2000~2009年【3・4・4・38】複勝率 22.4%
2010~2022年【2・2・4・55】複勝率 12.7%

①と②の年代は、軽い馬が確かに有利だった。①では勝ち馬が6頭も出ているし、②では複勝率22.4%と基準を大きく上回っている。
だが、③の直近の年代では、複勝率は12.7%と、低体重馬が馬券に絡みづらくなっているのである。
結論としては、「オークスは軽い馬を買え」というのは、すでに終わった格言であり、むしろ現行のオークスでは軽い馬は不利だということになる。

まとめ

なぜ軽い馬がオークスで活躍しにくくなったのか、という疑問に直接答えることはできないが、いちばん直近の、③2010~2022年の年代の内訳をよく見てみると、オークスでは後に牡馬混合G1を複数勝利するような強豪馬が、低体重で出走して負けている。
2017年のリスグラシューは、432キロで出走し5着(3番人気)。もともと実力を期待されていて惜敗が続いていたが、古馬になって徐々に力をつけていき、引退レースの有馬記念で有終の美を飾った5歳時には最高体重の468キロを記録していた。
2019年のクロノジェネシスは、432キロで出走し3着(2番人気)。そして秋になって秋華賞を勝利し、古馬になって宝塚記念2勝、有馬記念1勝を挙げた。こちらも引退レースの有馬記念が最高体重で478キロだった。

この例から見るに、その後に混合G1を獲るような実力馬が、その低体重ひいては未完成のゆえにオークスを勝てなかったことがわかる。
断定して言ってしまえば、やはり近年では「オークスは軽い馬が有利」どころかむしろ、「オークスは軽い馬には不利」になっている。

ここまで馬体重を話題にしてきたが、かく言う私も、ふだんは予想のためのファクターとしてはあまり重要視していない。それは好走凡走との関連性がわかりにくいためで、先日の安田記念でも、マイナス22キロの528キロで出走したサリオスが3着に突っ込んできたのだから、急激な馬体減も数字だけで嫌ってはならないことになる。ほんとうに難しい。
今年のオークス3着はナミュールだった(4番人気)。馬体重は426キロ。低体重馬に割引は必要かもしれないが、即切りの理由にはならない。

最後に、今年(2022年)の牝馬クラシック戦線に関して言うと、低評価を覆して圧巻の走りで二冠を飾ったスターズオンアースが秋の主役の一番手になるはずだったのだが、両前脚に剥離骨折を発症し、今後の先行きは不透明になった。(⇒全治3か月ということだから、秋華賞には間に合うか?)
ピンハイも、今のところ中距離戦線に残り秋華賞へ向うという観測になっている。桜花賞5着、オークス4着と健闘を続けているので、なんとか次は複勝圏内に残って馬券を買ったファンに配当を還元してもらいたいものである (´;ω;`)


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